火種に火が灯る

ズルズルッ!

麺を啜る音、これは最高に気持ちいい音だ。麺は啜らなければ失礼と言う言葉がある程には。だがそれは日本に限った話だと昔どこかで聞いた。

「…ま、海外だけどな、ここは。」

職場で啜るカップヌードルはほぼ作業のようなもので。仕事が溜まりに溜まった結果、資料が横にドンッと積み上がっている机の真ん中で冷めて伸びきったカップヌードルをかきこむように啜っていた。休憩時間終了まであと3分。ったく。もう一個カップヌードルが出来てしまう時間だ。やれやれ。どんな社畜だよと言いたくなってしまう。

「あ!いたいた!先輩!」

「んぁ?」

ズルズル。後輩が来ても麺を啜ることを忘れない。時間は有限なのだ。速く啜らねば上からの呼び出しを食らいそもそも食う時間すら無くなってしまう。

「…先輩。そのカップラーメン、脂、浮いてません、?美味しいんですかソレ。」

「美味いわけないだろ。こういうのはアツアツに限るんだよ。」

「相変わらずオッサン臭いセリフですね。25歳とは思えないですよ。外見は25歳に見えるんですけど、中身オッサンとかモテないですよ。」

「うっせ。第一ほかの女なんかにモテなくていいんだよ。」

最後の麺を啜り切り冷え冷えに冷めたスープの脂以外を一気に飲む。

「っぷはぁご馳走様。それで辻。何か用か?」

口をポケットの中のハンカチを取り出して拭き空のカップヌードルをゴミ箱に捨てる。あ、ついでに割り箸も。

「あ、そうそう。水無月先輩、仕事ですよ。」

「…はぁ、今度はちゃんとーに似ているヤツがいたんだろうな。」

「さぁ、俺は分からないですけど、任務の内容聞いてないので。あ、でもこれだけは聞いてますよ。潜入捜査、らしいです。俺が。」

「いやお前かよ、俺関係ないじゃん。」

「何考えてるんですかね?とにかく聞きに行きましょうよ。早く行かないと殺されますよ?」

休憩時間なのに人の扱いが雑過ぎる。まぁでもココだけが××を探せる場所なのだから仕方がない。

地下、仕事場は人目につかぬ地下にある。外に出れば紛争地域だから。というのもあるのだが日の目を浴びぬ様なことをしているのだから表に堂々とあっても困るというものだ。この場所はアリの巣のような構造をしており今から行く班長の執務室は最下層に位置している。

「お、水無月、辻。お疲れ。今から班長のところか?お前ら大変だな。」

「あ、太刀川先輩。お疲れ様です。」

班長室の近くの通路に辿り着くと俺と歳が近い先輩、太刀川先輩が壁に背を預けてタバコを吸っていた。

「先輩。あータバコ、やめてださいね。ここで吸うと煙の臭いが服に着く。もしこの服のまま××にあったら絶対に嫌われるんで。」

「よ、辻おつかれおつかれ。あーハイハイ水無月はほんと重度のシスコンだな。ったく、」

ヤニカスの先輩…太刀川先輩。この人はいつ会っても煙草を吸っている。そろそろ肺がやられて死ぬんじゃないかと思っているのだがこれが中々。ちなみにまだ20代後半らしい。煙草を吸い始めた時期も聞いたが確か17歳とか言っていた。そんなんだから辻の太刀川先輩の第一印象はヤニカスのヤンキーになるのだ。間違ってはいない。

「重度のじゃないですよ。もう10年も会ってないですから。」

「時間なんか関係ないだろ。」

「いや重要なんで。」

先輩が煙草の箱をポケットから取り出しトントンと箱の上を叩き1本だけ引き抜く。近くの光源のランタンで煙草に火をつけ口にくわえた。

「…ほんの一分前に水無月先輩がやめろって言ったのにもう吸ってる…流石ヤニカス。」

「お前らうるせぇよ。一応ここは職場なんだからよぉ。」

横に立っている辻を見ると顔には喫煙所じゃないところで煙草吸ってるやつがどの口で言ってんだと書いてあった。

「おいお前ら、いつまで油を売っているんだ。ったく部屋に早く入れ。」

「は、班長。」

「いってらー」

「お前もだ!太刀川!」

「あ、うす、」

班長がコツコツと細長いヒールを鳴らしてドアを蹴り飛ばしている。いつもいつもそうやって蹴り飛ばしているせいかドアにでかい穴が空いていた。ドアノブは少し歪み,ドアの木は塗装がはげてしまっている。

「失礼しまーす。」

既に班長により開かれた扉の奥に入り全員が入り終わると扉は再度班長により閉じられた。勿論閉める時も足で蹴り飛ばしながら閉めていた。

「……さて。貴様らに集まってもらったのは他でもない、任務の為だ。」

ドカッという音を鳴らしながら班長がふかふかの椅子に腰掛けた。

「今回のターゲットはリリウムという国際テロ組織だ。中心地は北米の雑居ビル。ここがまぁ広くでかい。構成メンバーは100人を越えるという報告も入っている。それを貴様らには壊滅してもらう。リーダーは生け捕りそれ以外は殺せ。説明は以上だ。質問は。」

「班長、俺ら3人だけで100人ちょっとを相手するんですか?流石にちょっと厳しいと思うんですけど。」

「……私はいかん。だが変わりに本部からサポーターが1人派遣されると聞いている。なので実質4人で任務に当たってもらう。」

「うわ、それでもめんどくせぇ、やりたくねぇな、」

「本音が出てますよ。太刀川先輩。」

弱音を吐く先輩を贄にすれば少しは楽に片付けられる気がする、が。そんなことしたら減給処分の上書類を何枚も書く羽目になる。それに××を探すことすらできなくなる。

「了解致しました。班長。」

だからその任務がどんなに辛くてもやるしかないのだ。待っていてくれ、必ず見つけ出して一緒に日本に家族のもとへ帰ろう、レイ。

ーーーーーーーー

「⋯ってか俺が潜入捜査するって話じゃなかったっけ⋯?」

「は?そんな話一言もしておらん。さっさといけ!」

「はっ、はい!班長!」

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