わかれ3
その当時、メリディアと姐さんの仲は今ほど悪くはなかった。むしろメリディアも姐さんのことを「お姉ちゃん」と呼んでいたのだ。
ある日のことだ。いつも通り姐さんとシュン、それとバラムさん、セーレさんは近くの島まで食品の買い出しに行っていた。セーレさんとはゴエティアのメンバーで副リーダー的な人だ。人当たりがよく話しやすい。特に姐さんにはめちゃくちゃデレてるヤバいやつ。シュンがセーレさんのことをキモイと言っていたから相当なのだと思う。数時間が経って買い出しから帰ってきた姐さんたちは2人の少女を連れていた。それがメリディアとライラだった。姐さんによれば姉の方つまりメリディアは街でスリをしていた少女だという。妹のライラに今日のご飯を食べさせるためのスリ。だがスリのターゲットをミスったのか姐さんたちに捕まった。それで「ご飯を沢山食べさせてあげる。寝るところもお風呂も用意してあげる。…仕事もあげる。だから一緒に来ない?」と言われたからついてきたとメリディアは言っていた。だが後々姐さんから聞いた話はこうだ。
「そうだよ。最初は警戒心剥き出しのネコみたいな感じだったんだけどね?でもシュンがメリディアちゃんに同じこと言ったらストーンっておちたの。目キラキラさせながらはいって言ったの!なんかね嬉しかったけど嬉しくなかったんだよ!」
「はっ、やっぱりお前より俺の方が顔がいいんじゃね?」
「うるさっ!」
確かに初見でシュンを見たら外見で堕ちる人は多いと思う。それぐらいはシュンは外見がいいのだ。性格は……まぁ過保護な母親みたいな感じだが。
それから数ヶ月間は平和だった。クエストにでていっても基本姐さんたちは負けないから。メリディアたっての希望でライラは戦闘要員ではなく裏方としてセリーナやシュンの手伝いをすることになり正当な給料も払われていたしあのころはきっと2人にとっても姐さんにとっても幸せだったと今ではおもう。
「なぁ、メリディア。ライラにはお前の仕事のこと言ってねぇの?」
いつかの日にメリディアに俺が聞いた言葉。返ってきたのはいかにも姉らしい答えだった。
「当たり前。だってほら、姉さんが人殺しを仕事にしてるなんて普通は言えないでしょ?ライラにはこんな黒い世界で生きて欲しくないわけ。ま、ここにいる時点で少しは黒に染まりつつあるのかもしれないけどさぁ。せめて15歳を越えるまでは知られたくないってこと。だからルツ。あたしがいない間ライラを頼んだよ。一応あのセリーナにも言ってあるけどいざとなったらあんたにもライラを守ってほしいから。よろしく頼むよ!」
「…絶対に守れるとは言い切れない。それぐらいはお前も理解しているはずだろ。ここは確実に安全とは言い切れない。いつか必ず人は死ぬ。俺はここに来てからもうすぐ1年は経つが1人は死んだ。だから言い切れない。だが、最善は尽くすと約束しよう。なにより姐さんがカペナウムの中でライラを1番に可愛がってるんだ。安心しろよ。」
メリディアはその言葉を聞いて「おうっ!」と言って笑った。
「お姉ちゃんおかえり!なにルツお兄ちゃんと話してるの?ライラも混ぜて!」
「ただいまライラ!うーん内緒!」
「えー?ずるいずるい!」
ライラといる時のメリディアの顔は必ず笑っていてめちゃくちゃ可愛いと思った。これが、こんな日常がずっと続けばいいのに。それは絶対に不可能な未来だとしても。
翌日。姐さんはバラムさんに本部まで呼び出された。本部とは言っても真隣の施設なんだけど。
「…クエスト拝命しました。本日1030に決行致します。…はい。メンバーは…はい。いつも通り私が決めて良いのですね。はい。了解しました。マスター。」
「…姐さん、終わった?」
「うん。帰ろう。…マスター失礼します。」
バラムさんに会う時の姐さんの顔はいつも死んでいる。まるで鉄の仮面を被っているかのようだ。それでもバラムさんのいる部屋から出る時はいつもの顔に戻っている。
「…姐さん。バラムさん、嫌いなの?」
「……嫌いじゃ、ないよ。だって。」
間が空いた。
「だって。私の。」
『マスターだから。』
マスターにはかなり色々な意味がある。その中には主人という意味も含まれている。バラムさんと姐さんの関係性は傍から見れば奴隷と主人のような感じだ。だからだろうか。マスターだからという言葉にはなにかを感じたのは。話題を変えよう。変えなければ不穏な空気間で一緒に歩くのはなんかちょっとうん嫌だ。
「そっ…か。っところで!今回は誰を連れていくのかもう決めた?」
「大体はね。私はもちろん行くよ。あとはシュンと、グライド、ヘリオ、ナタかな。今回のクエストはそこまで大人数じゃなくても良さそうなんだよね。だからこんな感じで考えてるよ。」
「メリディアは連れていかないんだ。珍しいね。」
「あーうん。メリディアは最近連れて行き過ぎたからさ。折角だしライラちゃんと姉妹水入らずの時間を過ごして欲しくてね。」
「…ありがとう姐さん。」
「ルツにお礼を言われた理由はわからないけどどういたしまして。」
メリディアはきっと喜ぶだろうから。あいつは妹が1番大事だから一緒に居られることはきっと嬉しいはずだから。
どうやら俺は自然と笑っていたらしい。それを見た姐さんが俺の顔をみてニヤニヤしていたのだ。
「な、なんだよ姐さん。」
「いやぁ?ルツはメリディアのことが好きなのかーって思ってね。年ごろの子って感じがしてお姉さんは嬉しいよ。」
「なっ!そんなんじゃねぇし!大体俺は姐さんのが好きだから!あれはただの友達だ!」
「はいはい。そういうことにしといてあげるね。」
「…ったく、大体姐さんだって俺と歳違わないのにそうやって俺をからかって。」
「ルツはからかいがいがあるんだよ。そうだ、ルツ。お願いがあるんだけど、私は先にセーレさんの所に行って準備することなってるの。だからさっき言ったメンバーを集めて私のところまで連れて来てくれる?私は出立場にいるから。」
「うんいいよ。」
立ち止まる姐さんを追い越して俺はさっきのメンバーにクエストの為の準備をするようにと伝え姐さんの所にメンバーを連れていった。
「なんかこれクッソ重いな。何入ってんだったく。レイちゃんに頼まれなかったらこんなの他のやつに運ばせるっつの。」
出立場ではセーレさんが文句を言いながら自作の飛行機に荷物を積んでいた。姐さんはというといつものように姐さん専用ソファで仮眠を取っている。基本的に姐さんはこの時間は寝ている。多分バラムさんに呼び出されなければこの時間もきっと夢の中で羊と戯れていただろう。それにリーダーというのはかなりまわりを見ないといけないものだ。自分の指揮をミスったせいで人が死ぬ。そんなことはまだ12歳の姐さんには耐えきれないほどのプレッシャーがあるだろう。だからかはわからないがいつも出立の前はこうやって時間と場所を見つけては寝ている、とシュンが言っていた。
「おーい。行くぞレイ。…ま、起きないことぐらい100も1000も承知なんだけど。」
そういいながらシュンは姐さんの頭を何度か小突いた。
「やれやれ。シュンくんはレディの扱い方を知らないのか。ふっ、可哀想。だからいつまでたっても君のアピールにレイちゃんは気が付かないんだよ。ばーか。」
「っるせ!大体コイツをレディだと思ったことねぇし!んなこというならセーレが運べよな!俺は先に乗る!」
「…シュンってガキ臭ぁ。やっぱりお姉ちゃんは私がいいんだって。セーレさんはお姉ちゃんに指一本も触れさせないからね。私が運んであげるんだ〜!」
「普通にナターリアじゃ体格的にリーダーを1人で運ぶのは無理だと思う。諦めた方がいい。」
「グライドは冷たいなぁ。こういうのは気持ちがあれば意外と運べるってわけ。」
「非現実的過ぎるだろ…」
ヘリオ兄さんがボソッと呟いた。それを地獄耳を持つナターリアが聞き逃す訳もなく。
「なに?ヘリオ。アンタ今なんて?」
「イエ?トクニナニモ。」
「ふーん。なら別にいいけど。まぁいいや早く出発しよ!仕方ないからヘリオとグライド。お姉ちゃんを飛行機の中に運ぶの手伝って!特別に許してあげるってわけ!」
ヘリオ兄さんとグライドは持つ場所で悩んでいたが結局ナターリアに指示され担架を持ってこさせられ姐さんと一緒に飛行機の中へ入っていった。
「じゃ、ルツくん行ってくるね?リーダーには定刻通り出立と伝えておいてね。頼んだからね。」
謎の決めポーズを決めてセーレさんは飛行機に戻り出立していった。飛行機のその姿が見えなくなるまで見送ったあと顔を青くしたメリディアが出立場に息を切らしながら走って入ってくる。
「メリディア?どうした?」
出立場の端から端まで見てなにかを探しているようだった。とても大切な何かを。彼女は探していた。
「いや、なんでもない。お姉ちゃんたちは?」
「もう行った。」
「そっか。…ならここにはもう居ない、か。ならあとは…お姉ちゃんの部屋…とか、?善は急げだ、ともかく行こう…!」
なにかをブツブツと呟きながらもそう言ってメリディアはどこに行ってしまった。
後に俺はメリディアが探していたなにかの正体を知ることになる。それはメリディアにとっても姐さんにとっても絶望でしかない。そんな出来事が起こることをこの時はまだ知らなかった。
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