はじまり
銃声が聞こえる。いつもの音だ。
血の匂い、鉄の匂い、破裂する音。
戦場のにおいがする。
私は先頭で戦うことを許されていない。
だからあの子たちが地雷を踏んでしまって死んでしまっても、敵に撃ち殺されてしまっても、私には何もすることが出来ない。出来ることと言えば指示をすることと援護射撃くらいなのだ。
「…っルーク!右!来てるよ、今向いてる方向から13度の方に避けて!」
「了解、!」
「エレナ、そこの塹壕の影に移動して。で、25秒後に16度の方向に閃光弾投げて後退して!」
「了解だよ、姉ちゃん!」
無線が切れる。皆は生き残るために必死で戦っている。だから私もそのお手伝いをしなければ。
「すぅー、はぁぁーーッ。よしっ。」
手に持っている大きなスナイパーを握りしめ構える。そして私はスコープを覗いた。
「……」
まずは、アレンの援護だ。あの子は突っ走るのがとにかく好きな子だから目の前の障害は排除しなければ。
「…みつけた。」
アレンと接敵するまであと5秒ちょっと。うん、イける。
トリガーに指を乗せてカチリと音を鳴らす。それは誰かを殺す引き金の音。
カランカラン。薬莢が鉄筋コンクリートの地面に落ちて音が鳴る。
そのままスコープを覗き続けていると撃った弾丸は頭を貫き敵は絶命…した…だろう。その直後、無線が入った。
「姉さんちょー助かる!大好き大好き愛してる!」
「はいはい、ありがとう。私も大好きだよ。これからも援護はするけど気をつけてね。怪我はしないように。」
「OKOK!全てはカペナウムの為に!」
無線終了。アレンはカペナウムの中でも2番、3番に入るくらいには実力を持っている。だから心配しなくてもきっと大丈夫。
「…さ、てと。他の子達は…と。うん、今のところは無事みたいだね。隼、いる?」
「おー、一応いるぜ。なぁ、もう行っていいのか?」
頭上から声がする。これでも私は地上から20メートルは離れた廃れた電波塔の端っこにいるというのに一体どこに登っているというのだろうか。
「…うん。お願いできる?ナターリアの援護と敵左翼の殲滅なんだけど。」
「うげ、ナタのかよ…まぁ任せとけって。お前は援護を頼むな。安心しろって、俺がいる限り誰も死なせないからよ。」
そう真剣に言う姿に思わず見とれてしまった。こんなことを言うことなんてそうそうないからだ。
「うん。隼がいれば大丈夫だって分かってるし信じてるから。じゃあ、この無駄な戦いを終わらせて早く皆で家に帰ろう。」
「了解。」
「「全てはカペナウムの為に。」」
隼は高さ25メートルの位置から飛び降りた。普通に考えたら死ぬ高さではある。いや、死ぬ。だがパルクールの要領…というか雲梯(いやアスレチックと言うべき?)をするように降りていった。
「…そういうところあるよね、隼は。」
そういうお年頃なのだろう。きっと。
「っうわ!砂漠地帯って走りにくっ!」
無線を通して聞こえてくる隼の悲鳴。うん、面白い。砂漠戦は苦手なのだろうか。まぁ初めてだし当然か。
「さっきまで電波塔の上の棒につかまってたからじゃないの?」
「んなわけねぇだろ!砂漠戦やるの初めてなだけだ!」
「ねぇ!援護まだなわけ?!シュン!ぶち殺すよ?!」
そう無線に向かって叫んでいる…であろう人物は今最前戦で戦っているであろうナターリアだ。たいそうご立腹らしい。それもそうか、最前戦なのだ。生きるか死ぬかの瀬戸際にいるのならば仕方ない。
「わーったわーってるって!今全速力で走ってんだよ!ッ砂が靴ん中入った!だりぃ…」
「ッまだなわけ…!!あーもう!ごめんなさい!お姉ちゃん!援護射撃お願い!南南西のお人形さん10体いや、5体でいい!ゴミ箱に捨てて欲しい!」
「待ってねー。うん、目視で確認した。了解。」
空になっているマガジンを抜いて威力が格段に高い弾のマガジンに付け替える。
ここから大体3km程度の場所だ。なら、仕留められる。
スコープを覗く、どうやらお人形さんは暴れ回っているようだ。なるほど、これならナターリアを苦しめるのは間違いないだろう。
「…最高距離更新できるかな、」
トリガーに指を乗せて引く。そのままスコープを覗いていると分散した5発の銃弾が人形……つまりはロボットに当たったのを確認できた。
「…ナイッシュー!お姉ちゃん!5体まとめてなんて流石だね!」
「ありがとう、でもナタの方が凄いよ?30分以上1人で前線を抑えてるでしょ?私は指示しているだけだからね。とりあえずあと2分でシュンが着くから私は他の場所の援護に回るね。あとは頑張ってナタ、頼りにしてるからね。」
無線終了。
「はぁ、わかってないなぁ、お姉ちゃん。お姉ちゃんが生きているから私たちは闘うんだよ。だって全てはカペナウムの明日の…いや未来のためなんだから。」
そうして私はもうひとつの武器を手に取り走り出す。大好きなお姉ちゃんのために。
私達の全てはカペナウムの為に。
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