第4話 本心
奇妙な二人暮らしが始まってから数日が経った。
突如として始まった他人のいる生活は、想像していたよりも快適なものだった。
少女はステラと名乗り、これまでのことやここに来た経緯を口にしないこと以外は何でもしてくれた。更に、私の視界について何も説明していないというのに理解しているようだった。
喜怒哀楽を私に分かりやすいよう表現したり、細かい作業を率先してやったり……その度に、何故そこまで理解しているのか聞きたくなるのを抑え、私は黙ってその厚意を受け入れていた。
――核心を突くような問いをしたら、ステラが私の前から消えてしまうような予感がしたから。
「七日後、山を下りて馴染みの村に行くんだが……ステラも来るか?」
なくなりそうな調味料を手で触って確認しながら尋ねると、一切迷いのない返事が聞こえてくる。
「はい、是非ともお供したいです!」
かくして、ステラに告げた七日を更に三日過ぎてから、ステラを連れていつもの村を訪れた。ステラを見るやいなや、店の常連客は興味津々に近づいてきて矢継ぎ早に私へステラのことを尋ねる。
「その子、どうしたの?」
「まさか、魔女さんの隠し子!?」
様々な反応に苦笑しつつもステラについて簡単に説明した。
「少し前に突然家に来たんだ。行くあてがないらしく、それから共に暮らしている」
ステラの名前や暮らしについてもいくつか聞かれ答えると、リースが納得したように言う。
「なるほど、やっぱり魔女さんは優しいな~」
それから前のめりになり、いつもの勢いで私の両腕を掴んだ。
「でも、だったらやっぱりここに住んじゃった方が良くない?」
「いや、それは……」
「ね、ステラちゃんもその方が良いと思わない?」
リースに尋ねられたステラに、集まってきていた常連客とアルが一斉に注目するのが気配で分かる。ステラは少し沈黙した後、最後に私の方を向いて言った。
「私は……魔女さんが思うようにすれば良いと思います」
「お、大人だ……ステラちゃん、私より大人だ……」
リースはショックを受けたように項垂れ、店長がそれに追い打ちをかけるように言う。
「ステラちゃんもそう言ってることだし、あんまりしつこくするのはやめようね」
「店長まで……。魔女さん、ごめんなさい。会う度村に住めってしつこく言っちゃって……」
表情は分からないが涙声になっているということは、泣いているのか、その手前なのだろう。
「別に謝られるようなことではないから……泣くな」
どうすれば良いか分からず、落ち込んだ様子のリースの頭へ慰めるように手で触れる。その様子を、店長やステラ、他の常連客が温かく見守ってくれている気配がした。
店から離れてしばらくすると、ステラは本当に不思議そうな声色で私に尋ねる。
「魔女さん。あんなに望まれているのに、何で村に住もうとしないんですか?」
「……ステラも気づいている通り、私は視力を失っている。魔力のおかげで空間や物体は把握できるが、いらぬ気を遣わせてしまうだろう」
あの店の人達には絶対に言えない。けれど、ステラには何故か本音を漏らしてしまった。
「見えるようになったら……魔女さんはあの村で住もうと思いますか?」
表情が分からないからステラがどういう意図で聞いてきたのか分からない。けれども、ステラには嘘は通用しないだろうということだけは分かる。
「……見えていたら気を遣わせることもないし、魔法で力になれることもあるかもしれない。だとしたら、住んでも良いかもしれないな」
私がそう言うと、それまで質問攻めしてきたステラは急に黙り込んだ。そこらにいる虫の声がやけに耳に響く。
「まあ、魔法ですら治らないんだ。見えるようになるなんて、それこそ夢みたいな話だろう。だから私はずっとあそこに住み続けるさ」
私がそう続けても、いつも打てば響くように言葉を紡ぐステラは黙ったままだった。
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