第3話 光の少女
それから一週間ほどが経った日の朝。強風が窓をたたきつける音で目が覚めた。
雷も鳴っており、僅かに家全体が軋む音もする。補強魔法はその場に手をかざすだけで効くので、今すぐにでもやることにした。
一通り心配な箇所を回って、温かいスープをすすりながら耳を澄ます。
「明日には止むか……?」
あちこちから風に好き勝手される木々の荒々しい音、遠くにある河川からの激しい音。全て締め切っているというのに、近く感じる程の轟音だった。外に出ると稀に見かける動物たちは大丈夫だろうか。
もう少し長引くかと思っていたが、夜になると強風と雨は止み、辺りは打って変わって静かになった。外に出ると、下の地面は水を張っているようで、ピチャリという音と共に足が沈む感覚がする。畑の状態を想像してため息をついていると、ふと前方にキラリとした光を感じた。
おかしい……魔力による空間把握では、光すら感じられないはずなのに。それでも前方に感じるのは、紛れもなく光だった。もやのかかった濃い闇の中、キラキラとするその光に近づこうとする。
「すみません、私をここに泊めてもらえませんか?」
光は消えて、代わりに幼い少女の声がした。背丈もそれほど大きくない。
「両親は……?他に人はいないのか?」
「あっ、えっと……」
何か事情があるのか、そう言葉を発した後少女は押し黙る。
「……取り敢えず、また降ってくるかも分からないから中に入るか」
「ありがとうございます!」
さっきまでとは打って変わって明るく礼を言う少女は、開けっぱなしだった扉へ私よりも先に入っていった。これで良かったのだろうかと少しの間逡巡していたら、返事をするかのように静かな夜の風が吹く。
その風に押されるように扉を閉め中へ入ると、少女は数歩先にいた。私に気づくと、さっきの明るさを消して聞いてくる。
「ここに一人で住んでいるんですか?」
「そうだな」
「周り、だれもいないのに……寂しくないんですか?」
すぐに寂しくなんかないと答えるつもりだったのに、不意にあの店の人達が頭に浮かんだ。自ら望まないと決めたはずなのに心の奥底では求めていたのかもしれない……全てを隔てたここではなく、あの温かい場所を。
「別に……そう思ったことはない」
自分の本心に気づかなかったことにして答えると、少女はまるで私の心を読んだかのように言った。
「もう寂しくないですよ。今日から私がここにいますから」
「いや、今日からここにいるって――」
勝手に決めるなと続けようとしたが少女の言葉に遮られる。
「今の私には他に行くあてがないんです……そう言ったら、きっと優しいあなたは私を住まわせてくれます。そうでしょう?」
言いながら、少女は私の手を両手で握る。強引なのに、全く邪気を感じない。むしろ、彼女の手に包まれた右手は暖炉の火に手をかざしたときのように温かかった。
振りほどくことも出来ず、私は一つため息をついてから口を開く。
「君がいたいだけ、ここにいればいい」
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