第2話 叶わない願い
客の入りが落ち着いてきた頃、アルから食材や調味料を受け取り、ひっそりを店を出る。店の活気から遠ざかると、耳が痛くなるほどの静寂に包まれた。
三、四日ほどかけて森や山道を歩けば住まいに辿り着く。そこからはまた、何の代わり映えもしない日常だ。
座り心地の良い木の椅子に身を沈めると、店長やアル、リースや他の常連客の声が勝手に頭の中で反芻される。賑やかで、皆私が魔女だとか、見えないことだとか、そんなのおかまいなしに最初から親切にしてくれた。
温かくて、時々寄っかかってしまいたくなる。
けれども、そんなことは絶対にしない。いるだけで気を遣わせてしまうのに、ずっとあの村でいたらもっと負担になってしまうだろう。
それならいっそ、ここで誰とも会わずに過ごして、時折村まで降りていくぐらいで私は十分だ。
魔法で手伝えることはしているものの、やはり大がかりなものや複雑なものは見えていたときのように出来ない。そんな有様だから食材を分けてもらうことですら心苦しいのに、それ以上は望みたくない。
考え事をしないで済むからと、夕食を作ることにした。料理は見える時にしていたから身体が覚えている。細かい作業もそのおかげで何とかこなすことができた。
それなりに食べられるものが出来上がったけれど、店で食べさせてもらった料理とは違って味気ない。まるで作業のように食べ切ると、私はまた窓辺に向かった。
窓を開けると、今日の夜風が頬に冷たくあたる。気温自体低くないはずで、これまでは寒く感じていなかったのに何故だろう。ぼんやりと考えた後、いつものように腰の高さほどの窓枠に腰掛けた。
私の脳内には、一つも光がなく霧がかかったようにしか見えないそれを、穴が空くほど見上げ続ける。そこに輝きはあるはずなのに、白いもやが邪魔をして私はそれを見ることが出来ない。
幼い頃、心が折れそうなときに見上げた星は、私を励ますように煌めいていた。
出来ることならまた、あの輝きを目に映したい。
じわりと熱いものがこみ上げてきて、慌てて窓を閉めた。叶いもしないことを頭の中で巡らせていても時間の無駄だ。
窓を閉め、風の音すらなくなった空間で私はしばらくその場に佇んだ。
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