第122話 困惑
* * *
王都内は決して安全な場所ではないと、クレアは理解していた。
常に警戒をしていて、昨夜も眠っていない。ユーライに危機が迫ればすぐに対処できるようにしていた。
そう、ユーライに迫る危機には、最大限の注意を払っていた。
しかし、実際に狙われたのは、魔封じの枷で一般人レベルに力を落としていた、リフィリスだった。
(何故リフィリスを狙った? もはや、ただの無害な女の子なのに……)
魔王が憎いとか、何かの恨みがあったとかであれば、狙うのはユーライのはず。
リフィリスを殺したところであまりメリットもない。
(……リフィリスは矢に射られて死んだ。弓使いの方は、ギルカが対処する。他に敵は?)
クレアはユーライを放し、剣を構えて追撃の気配を探る。ユーライが王都中の人の動きを止めてくれれば話は早いが、リフィリスの死の動揺から立ち直っていない。
「リフィリス……っ。なんでお前が……っ」
ユーライが黒紫色の光を放ち始める。リフィリスをアンデッドとして生き返らせようとしているようだ。
しかし、リフィリスが復活する兆しはない。
「ああ、もう……っ。頭が潰されてたら、やっぱりダメか……っ」
アンデッド作成と、死者蘇生は違うらしい。アンデッドを作成するときには、元々の体がある程度無事でなければならない。
少なくとも、頭がないのでは、アンデッドにはできない。
「落ち着いて、ユーライ! リフィリスは死んじゃったの! 死人は戻ってこないんだよ! それが自然なことなんだよ!」
リピアがユーライを抱きしめ、必死に
クレアも、周囲を警戒しながらユーライにの名を呼ぶ。
「ユーライ。落ち着いて」
ユーライから、黒々しい何かが溢れようとしている。このままでは、ユーライが恐ろしい力を使ってしまうかもしれない。
グリモワでその力を使ったとき、数万の人が死んだ。王都で使えば、十万以上の人が死んでしまうかもしれない。
「ユーライ、こらえて。その力を使ってはいけない」
クレアは周囲の警戒を解けない。今の隙を突いて、ユーライを狙う者がいるかもしれない。本当はユーライを抱きしめてやりたいけれど、そうするわけにはいかない。
クレアが焦っていると、フィーアが愉快そうにクスクスと笑う。
「あらあらあら。魔王様、大切な人が死んでしまいましたね。これは一大事です。放っておけば、彼女の死が確定してしまいます。
でも、魔王様なら彼女を生き返らせることができるんです。ほんの一万人、見知らぬ誰かを犠牲にすれば済むお話でしょう?
魔王様、やってしまいましょうよ。何も悩む必要はありません。こんな事態を引き起こした、王都の人間たちが悪いのですから!」
「フィーア! 黙って!」
クレアの制止など、フィーアは当然聞かない。
「魔王様。彼女が大切なのでしょう? 失いたくないのでしょう?
死者は生き返らない? それが自然? そんな戯れ言、魔王様には当てはまりません。魔王様には、その死に抗う力があるのです。力があるのなら、使ってしまえば良いのです。ねぇ、そうでしょう?」
「ディーナ! フィーアを黙らせて! 王都を壊滅させたくないでしょう!?」
「は、はいっ」
呆然と成り行きを見ていたディーナが、フィーアをユーライの側から引き離す。
クレアが一息つく暇もなく、新たな攻撃の気配。
「ユーライ!」
クレアはユーライの体を抱えて跳ぶ。その直後、リフィリスの死体に二メートル大の火球が着弾。その小さな体が一気に燃え上がる。
「リフィリス!」
「ダメ、ユーライ!」
リフィリスに駆け寄ろうとするユーライを、クレアは必死で抑える。
(駆け寄ってもなんにもならないのに……。ユーライは、こういうときに本当に弱いんだから……)
絶大な力を持っていても、ユーライの中身はただの女の子。とても弱い部分を持っている。クレアはそれを愛おしいと思うけれど、今はその弱さが厄介だ。
(追撃は、もうない? そもそも、なんでまたリフィリスを? リフィリスと一緒にユーライを攻撃しようという感じじゃなかった。単にリフィリスを狙っている。何故? ただの死体を、どうして燃やす?)
考えてみても、クレアにはわからない。
「リピア。消火を」
「う、うん!」
クレアの指示で、リピアが水魔法を使い、炎を消火。
残ったのはリフィリスの骨と、魔封じの枷。
クレアは、それを見てもまだ冷静だ。リフィリスを仲間として認識していたが、付き合いは浅い。
「なんで……っ。リフィリス……っ」
ユーライが悲鳴のような声を漏らす。
クレアはその体を強く抱きしめる。
それ以上の敵の追撃はなく、程なくして、ギルカが昨日見たメイドの首と共に帰ってきた。
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