第121話 不老不死

 その日の夕方、ユーライたちは王様たちとの夕食会に参加した。


 リバルト王国側で参加したのは、王様とその側近の重臣たち。急な訪問だったのに、わざわざ他の予定をキャンセルして、夕食会を優先してくれていた。なお、第二王子だったらしいラーカイルはいない。


 もちろん、夕食会は友好的で賑やかな雰囲気にはならなかった。王国側は常に暗殺の機会でもうかがっているような様子だったし、終始一言もしゃべらない者もいた。


 空気は悪かったが、こういった状態からスタートしていくのは、ユーライとしては想定内。一切交流がない状態で、一方的に人間側が魔王を嫌うという状況にならないことが、重要だと考えた。


 夕食会の間、ユーライは自分の考えを話した。


 人間と無闇に争うつもりはないこと。


 既に何度か多くの人を殺める結果になったが、自分から積極的にそうしたわけではないこと。


 人間の生活を脅かすつもりも、人間の土地を侵略するつもりもないこと。


 平穏な暮らしができればそれで良いこと。


 どれだけ言葉を尽くしても、すぐには信じてもらえないことも、ユーライは理解していた。そして、何かの拍子でまた大虐殺を行うかもしれない相手を、人間が信用しきることができないことも、理解していた。


 本当に信頼しあうには、長い時間がかかる。


 いっそ、本当に信頼しあうことは不可能で、仮初めの和平を結ぶだけに止まるかもしれない。


 少しは前進しているようで、何も進んでいないのかもしれない。


 それでも、何か働きかけていくのは大事なことだろうと、ユーライは思った。


 また、込み入った政治的な話をするかと思ったが、そうはならなかった。そういう話をするに足る相手かどうか、観察されているような状況だった。


 夕食会が終わり、メイドに案内されて来賓室に向かっている途中で、ユーライたちはふとある広間に通された。



(何かの罠?)



 ユーライは警戒したが、攻撃されることはなかった。


 ただ、広間にはラーカイルがいた。



「どうか、お願いします! エレノアを助けてください!」



 ラーカイルが片膝をつき、深く頭を下げる。再度依頼するために、ユーライたちをここまで案内したらしい。



「お願いされたところで、私にはどうしようもないんです。エレノアを生き返らせることはできません」



 ユーライは溜息混じりに、キッパリと宣言。


 ラーカイルは顔を上げ、顔をくしゃくしゃにする。



「本当に、どうしようもないのですか……?」


「はい。無理です。私にもどうしようもありません。彼女は亡くなりました」



 ラーカイルは両手を地面につけ、うなだれる。


「そんな……嘘だ……エレノアはまだ死んでない……」


「彼女は亡くなりましたよ。では、話は終わりですね? 私たちはもう行きます」



 ユーライたちが部屋を出ようとしたところで、二十歳前後のメイドが言う。



「二度も煩わしい真似をしてしまい、申し訳ありません。殿下は妹君を大層可愛がっておられまして……。もう諦めていたはずだったのですが、あのご遺体を見て、もう一度妹君への想いが再燃してしまったようです……」


「その気持ちは、お察しします。でも、無理なものは無理です。力が及ばなくてごめんなさい」



 少し冷たく言い放って、ユーライたちは広間を後にする。



(死者を蘇生できるっていうのは、一般的にはとんでもない力。ときに人をおかしくさせるくらい、魅力的に映っちゃう……。反魂の力だけじゃなく、アンデッド作成も、見方によっては不老不死の秘術……。人と関わればそれを求める者も出てくるか……。また別のトラブルが生まれそうで厄介だな……)



 魔物の軍や魔物活性化の問題は解決する目処が立った。しかし、状況が落ち着くのはまだ先だろう。


 夜は来賓室で休み、翌朝を迎える。


 リフィリスの使っている魔封じの魔法具はまだ無事。壊れる気配もない。


 このままずっとリフィリスの力を抑えてくれることを、ユーライは願った。


 そして、あまり長居すると王様たちに気を遣わせそうなので、ユーライたちは早々に王都を去ることにした。


 まずは王城を出て、前庭を歩く。先導してくれるのは、昨日とはまた違うメイドだった。



「ねぇ、ユーライ! 私たちが変に周りに迷惑をかける心配もなくなりそうだし、これから世界が落ち着いたさ、本当に旅とかしようね!」



 リフィリスが嬉しそうに言って、ユーライは頷く。



「そうだな。落ち着くのはもう少し先かもしれないけど、そのときには自由に色々なものを見て回ろう」


「うん! 楽しみ! 新婚旅行だね!」


「いや、新婚旅行ではないけどな」


「えー?」



 リフィリスは不満そう。ユーライは苦笑するばかり。


 そして。

 


「ユーライっ」



 クレアがユーライを抱き抱えて、跳ぶ。


 攻撃されたというのは、すぐに理解した。


 しかし。


 リフィリスの頭が弾け飛んで、ユーライは何が起きたのかわからなくなった。



「……は?」



 頭部を失ったリフィリスの体が倒れる。首から真っ赤な血が吹き出ている光景が、ユーライからさらに思考能力を奪う。


 ユーライが呆然としている間に、ギルカが二本の剣を抜いてどこかへ走っていく。



「クレア、そっちは任す!」


「わかった」



 クレアも剣を抜き、周囲を警戒。


 ユーライは、何が起きているのか、まだ理解が追いつかなかった。

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