第118話 王都

 昼夜問わず移動を続けること、五日。時刻にすればおそらく三時頃、ユーライたちは王都に到着した。


 ノギア帝国の帝都に負けず劣らずの発展した都市で、外観も美しく整備されていた。


 その王都の兵士たちは、三重の外壁の一番外で、武器を構えて待機している。


 戦いになれば勝ち目はないと理解しているからか、まだ攻撃はしてこない。



「さて、まずは誰に話を通せばいいのかな?」



 ユーライは荷台を出て、悪鬼の左肩に乗っている。さらにユーライは、どうしてもとくっついてきたリフィリスを肩車している。少々見栄えは悪いが、戦意を感じさせない見た目なので、悪くないかもしれない。他の面子はまだ荷台の中で、悪鬼の右肩に担がれている。


 王都を見渡しながら少し待っていると、外壁の上に立つ四十代の男性が動く。精悍な顔つきで、鎧も立派。雰囲気がただの兵士とは違い、兵士長のような立場だと察せられた。



「我は王国騎士団団長、ガリム・フォーゼク! 魔王よ! ここに何をしに来た!?」



 その問いに、ユーライはなるべく明るく答える。



「初めまして! ちょっと相談したいことがあってやってきました! 戦意はありません!」



 ユーライは悪鬼に指示を出し、外壁に一歩近づく。


 外壁の高さは十メートルもない程度で、ユーライとその兵士が会話するのに程良い位置関係になった。



「……なんの相談だ?」


「元勇者の力と感情を制御するための魔法具を探しているんです。そういうのがここにあれば、譲っていただけませんか?」


「……つまり、我らから魔法具を奪いに来た、ということか?」


「奪うつもりはありません。交渉しにきました。良い魔法具を譲ってくれたら、エレノアの遺体をお返ししますよ」


「な!? エレノア様だと!? グリモワで消滅したのではなかったのか!?」


「あ、そういえば、エレノアの遺体は保管してますよ、とは言ってなかったですね。綺麗に残ってますよ」


「そうであったか……。ううむ……。とにかく、魔王は、ただ王都を攻め滅ぼしに来たわけではないのだな?」


「それは違います」


「……わかった。滅ぼすつもりなら、既に我らの命もあるまい。その言葉を信じる。しばし、待たれよ」



 ガリムが一旦下がり、足早にどこかへ去っていく。


 外壁の上に残った数百の兵士たちは、険しい顔でユーライを睨んでいる。



(私が戦いに来たわけじゃなくても、魔王ってだけで怖い存在なんだよな……。それに、今は私のせいで苦しんでいる人もいる。こんな目もするか……)



 無数の鋭い視線がユーライに突き刺さる。ほんの少しだけ、胸が痛んだ。



「おい、魔王! 魔王軍の進軍を止めろ!」



 兵士のうちの一人が叫んだ。


 それを諫める者もいたが、他の兵士たちも叫び始める。



「お前のせいで多くの人が死んでる!」


「俺の故郷が壊滅した!」


「多くの人の命を奪っていること、何とも思わないのか!?」


「魔王は平穏を望んでいるなんてのは嘘だ!」


「平穏を望むのなら今すぐ死ね!」



 兵士たちの中で、様々な不満が溜まっているらしい。魔王であるというだけで非難されているわけではなく、実害を出してしまっているので、ユーライは非難の声を受け止める。


 ユーライが何かを言う前に、頭上でフィリスが叫ぶ。



「こうなったのは私たちのせいじゃない! 周りの人たちがバカなことしたから! 私たちはそれに振り回されてるだけで、こっちだって被害者だ! 自分たちだけ被害者面しないでよね!」


「……それもそうだ。私たちの周りで、勝手に不幸になっていったのはあんたたちだよ」



 リフィリスにユーライも続くと、一部の兵士たちが激高。矢と魔法が飛んできた。矢は闇の刃で弾き、魔法は吸収する。



「攻撃してきたってことは、やり返される覚悟はあるんだよな?」



 ユーライは外壁の上に不死者の軍勢を召喚。武装したスケルトン、二百体が現れる。



「殺すなよ。でも、怪我くらいはさせてもいい」



 ユーライの指示で、不死者の軍勢が戦いを始める。兵士たちは応戦し始め、ユーライを攻撃している場合ではなくなった。



「私に喧嘩を売るなら、もうちょっと強くなってからにしてほしいな。手加減が難しいんだよ」


「あはは! ユーライ、手厳しいこと言うね!」



 リフィリスがユーライの頭上でケラケラ笑う。



(リフィリスの闇落ち状態も、できれば解除してあげたいところ。普通に明るく笑ってる姿の方が、私は好きだな)



 三十分ほど乱戦を眺めていると、団長ガリムが戻ってくる。


 ユーライは不死者の軍勢を消滅させ、ガリムと対峙。



「……魔王は、戦いに来たのではないとのことだったが?」


「先に仕掛けてきたのはそっちですよ。無抵抗でやられっぱなしでいるとは言ってません」


「そうであったか……。申し訳ない」


「今回は許します。それで、相談には乗っていただけますか?」


「うむ……。陛下のところへ案内する。ついてこい」


「わかりました。他の仲間も一緒でいいですか?」


「構わん」


「ありがとうございます」



 ユーライを先頭に、クレアたちも外壁の上に降り立つ。


 息を切らせた兵士たちに睨まれつつ、ユーライたちはガリムの後を追った。

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