第61話 呪い
その後、ラグヴェラとジーヴィは無事に解放された。
ルギマーノに連れてこられていたようで、案内された冒険者ギルドの応接室にて、実際にその無事も確認できた。
二人を誘拐したのはルベルトという男で、
ユーライはその場で彼から謝罪を受けた。
「大切な仲間を誘拐して済まなかった。申し訳ない」
ルベルトと、その隣に並ぶディーナが、深く腰を折って頭を下げる。ちなみに、ディーナの服はリビアの魔法で乾かしてある。
ルベルトは濃緑色の髪をした、目つきの鋭い青年。高身長の美丈夫だったのだが、ユーライとしてはその容姿に関心がない。装備は槍と鎧。セレスと同じ一等級冒険者らしい。
「……まぁ、無事で帰ってきたから、お前を殺しはしない。けど、ちょっとは痛い目見てもらおうか。理由はどうあれ、仲間を誘拐されたのに、私が黙って許したと思われても困る」
「……というと?」
「……お前、綺麗な顔してるな。それ、半分壊そうか」
「顔を……壊す?」
「抵抗するな。大人しくしてろ」
ユーライはルベルトに近づき、その左頬に右手を添える。
「魔改造」
「うぐっ」
ユーライはルベルトの顔の左側を、ミイラのように変質させる。目は落ちくぼみ、頬は痩け、肌は茶色になった。
精悍な顔立ちは見る影もなくなり、その左半分は化け物に近い。
ルベルトの隣で、ディーナは顔を歪め、軽く悲鳴を上げていた。
「……まぁ、こんなもんかな」
ユーライは手鏡を取り出し、ルベルトに自身の顔を見せてやる。ルベルトは一瞬目を見開いたが、すぐに澄まし顔に戻った。
「……これで、俺への罰は終わりか」
「うん。今回はこれで許してやる」
ルベルトの隣で、ディーナは泣きそうな顔でぶるぶる震えている。
おそらくまだ十代の少女。同じことをされるのは恐怖だろう。
「……あー、ディーナ。お前の顔をどうこうするつもりはないから、そんな絶望した顔しなくていいよ」
「ほ、本当、に?」
「ああ。お前は……何しに来たのかもよくわかんないから、別にいいや」
ディーナがほっと息を吐く。
「けど、何もしないのはよくないな。顔を壊すとかじゃなくて……。うーん、ディーナ、辛いものは得意?」
「……えっと、に、苦手かな」
「それなら、こうしよう。これから十日間、食べ物も飲み物も、全部ピリ辛に感じる呪い」
「へ? な、何それ?」
ユーライはディーナに呪いをかける。本来はもっと残酷なことをできる魔法なのだが、ディーナにされたことの報復としてはこれくらいで十分だろう。
「はい、完了。十日間、頑張って」
「え? ボク、呪いをかけられたの?」
「うん。お前には以上」
ディーナは困惑しながら、自身の指先を舐める。辛かったのか、ひっ、と悲鳴を上げながら顔をしかめた。
(ちょっと面白いな。本人からすると案外一大事かもしれんけど)
ユーライはディーナから視線を外し、ルベルトを睨む。
「……ルベルト。今回はこれで終わりだ。でも、次、また冒険者ギルドがそういうことしたら、関わってる奴ら全員を殺す。覚えておけ」
「……わかった。もうしない。そして、そのことはギルド内で共有しよう」
「そうしてくれ。にしても、お前は意外と冷静だな。顔を傷つけられるのは、美男子としては辛いんじゃないの?」
「……これで済むのなら安いものだ」
「そう。肝が据わってる。……まぁ、立ち話もなんだし、ちょっと座ろうか」
「ああ……」
ユーライはルベルトたちを促し、ソファに座る。
ユーライの左右にはクレアとリピア、対面にはルベルトとディーナ。
ギルカ、ラグヴェラ、ジーヴィはユーライたちの側に控えて立っている。
「……それで、ルベルトはそもそも何がしたかったんだ? 人質もあっさり返して、本気で私を脅すつもりはなかったんだろ?」
「……冒険者ギルドとしては、魔王殿の反応を見たかった。魔王殿が争いを好まないという話はこちらにも伝わっているが、仲間が誘拐されたとき、すぐ過激な報復に出るのか、話し合う余地があるのか」
「……危ないことする奴だな。私が怒り狂って報復に出てたらどうするつもりだったんだ?」
「その場合、魔王は危険度が高いのでどうにかして討伐すべし、という結論になっただろう。今は、ある程度の寛容さも持つので共存できるかもしれない、という具合だ」
「……ふぅん。それはありがたいことだ。私としても、そっちと共存する意志はある。じゃあ、とにかく冒険者ギルドは、私と共存する意志があるんだな?」
「ある。というか、魔王の討伐は不可能だろうと判断されているので、共存する方法を探っている」
「なるほどな。ちなみに、冒険者ギルド以外はどういう風に動いているんだ? 国とか、教会とか? どうしても私を討伐しようとしてる?」
「リバルト王国としては、可能ならば討伐したいと考えている。しかし、被害の状況と魔王殿の姿勢を鑑み、共存してく道もあるかもしれないと、考え始めている」
「それはいいことだ。教会関係は?」
「教会関係の最大勢力であるセイリーン教は、魔王との共存などありえないと考え、討伐を計画している」
「……そう。じゃあ、セイリーン教は根絶やしにしないといけないかもな……」
ユーライはそう呟いたが、あまり気は進まなかった。
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