第66話 日向幸音
* * *
名前:リフィリス(
種族:人族
性別:女
年齢:5歳
レベル:15
戦闘力:20,900
魔力量:15,500
スキル:聖魔法 Lv.5、光魔法 Lv.5、炎魔法 Lv.5、天使召喚 Lv.3、身体強化 Lv.2、闇魔法耐性、神の加護
称号:祝福の子、勇者
(五歳にしては規格外の強さっていうけど、エマにすら勝てないんじゃ、とても勇者なんて名乗れないよねー)
教会施設にある修練場にて。
青い空を見上げながら、リフィリスは仰向けに寝ころんでいる。
この寒空の下で昼寝をしているわけではなく、聖騎士であるエマとの模擬戦に負け、すっ飛ばされた状態で静止しているのだ。
「……リフィリス、まだ倒れるには早いぞ」
真っ赤な髪と目をした少女、エマが、リフィリスに堅い口調で言った。ショートヘアがよく似合うかっこいい人なのだが、雰囲気が暗い上に厳しいので、リフィリスはあまりエマを好きになれないでいる。
エマは、聖騎士団が魔王との戦いでほぼ壊滅してから、リフィリスに剣術と魔法の訓練をしてくれるようになった。元々は別の者が担当していたのだが、その人もあの戦いで死んでしまった。
前々から、エマのことは知っていた。しかし、顔を見たことがある程度で、会話したことはなかった。
以前のエマについて、はっきりとはわからない。でも、戦いから帰ってくる前はもっと朗らかな人だったように、リフィリスは思う。あの戦いが、エマを変えてしまったのかもしれない。
大切な仲間を大勢失えば、性格も歪むだろう。
「すみません。どうすればエマに勝てるか、思案していました」
リフィリスは立ち上がり、傍らに落ちていた細身の剣を拾う。
訓練とはいえ、扱うのは真剣。今から慣れておけ、とのお達し。
(五歳児に剣を持たせるとかどうかしてるわ……)
そう思っても、リフィリスは顔には出さない。
「エマは強いですね。全然敵いません」
「私はもう十七歳だ。流石に五歳のリフィリスに負けるわけにはいかない。それでも、リフィリスも二等級の力を有している。五歳にしては十分に強い」
「……でも、私が倒さないといけない魔物は、エマよりもずっと強いんですよね? 私が神様に祝福されてるからって、とても倒せる気がしません」
セイリーン教の聖騎士団を含め、一万人以上で魔王に挑んだものの、見事に敗北。ほぼ全滅しただけでなく、参戦した聖騎士、兵士、冒険者の親兄弟姉妹子供までもが犠牲になったとか。
聖都から参戦したのは主に聖騎士団の五十名ほどなので、大きな被害はなかった。それでも、主戦力である聖騎士団が壊滅状態のため、教会も色々と大変らしい。
ユーゼフとルギマーノの町では、それぞれ一万から二万の人が消えたという。元々の人口がそれぞれ四、五万人程度だったので、その三、四割以上が死んだことになる。
一時、人口激減や魔王への恐怖で町が大混乱になったらしい。その後、町は魔王に支配され、多くの人が苦しんでいるのだとか。
今後も魔王が支配地域を拡大していくのではないかと、不安視されている。
(原爆の犠牲者は何万人だっけ? 原爆とまではいかないけど、原爆が比較対象になるくらいには死んだってことだよね? 人、死にすぎでしょ。私が倒すとか無理無理)
リフィリスが溜息をついていると、エマが言う。
「……正直言って、今のリフィリスがあれを討伐することはできない。しかし、リフィリスが成長し、いずれ私などよりもっと強くなれば、あれを討伐することもできる」
「エマは魔王と戦ったんですよね? 魔王は、私が成長するまで待ってくれるでしょうか? 普通に考えると、脅威になりそうな私を早めに殺しに来そうです」
「……いや、おそらくそれはないだろう」
「どうしてですか?」
「……あれは、自ら動いて誰かを攻撃することはない、はず」
「そうなんですか? でも、支配地域を増やしているって聞きましたよ?」
「……それは……しかし、クレアの話を信じるなら……。とはいえ、確証はない……」
「では……もし私を殺しに来たら、私は死ぬしかありませんね……」
「……私が守るさ。リフィリスは、おそらく人類の希望だ。魔王討伐のための手段はいくつか考えられているが、神の祝福を受け、さらに勇者でもあるリフィリスが、一番の希望になるだろう」
「……重いですね」
(うーん。異世界に転生して勇者になれた! 金髪碧眼も可愛い! これから大活躍して皆にちやほやされてやるぅ! なんてはしゃいでた頃が懐かしい。勇者の責任重すぎだし、敵が強大すぎるし。ありえなーい。子供に背負わせすぎー)
リフィリスが
もし、本当にただの五歳児だったなら、エマの言葉を信じ、きゃっきゃとはしゃぎながら明るい未来を想像したのかもしれない。
しかし、高校生並に分別がつくと、事態の深刻さがわかってしまう。
(魔王討伐とか無理無理。逃げよ)
リフィリスは密かに決意しているが、幼い体と未熟な力量では、教会から逃げ出すこともできない。
「……エマ。そもそも、向こうが攻撃してこないなら、討伐する必要はないのではありませんか? 放っておけば良いかと……」
「そういうわけにはいかない。あれは邪悪な魔物だ。放置しておくには危険すぎる」
「そうですか……」
(下手に手を出して、反撃でまた何万人も殺される方がまずいんじゃない?)
リフィリスはそう思うが、口には出さない。
それに、あまり弱音を吐きすぎると、長いお説教が待っている。
あなたは神に祝福された子供だ、何も恐れることはない、云々。
(エマはちょっと頑固なところもあるんだよね。やれやれだよ。けど……もし、私が十分に力を付けるまで魔王が待ってくれるなら、勇者様として魔王討伐をしてもいいかな。面白そうだし)
前世ではちょっと可愛い程度の一般女子だった。それが、今は勇者という特別な存在になっている。
可能であるなら、大活躍して、皆からちやほやされてみたい。
勇者としての務めを果たした後には、大金、名誉、爵位などを得て、偉そうに振る舞ってみたい。
いっそ、ここリバルト王国を自分の手中に収めてみたい。
魔王討伐の偉業をもってすれば、王妃になり、それから国を牛耳ることも可能かもしれない。
そんな野望も、リフィリスは捨て去ってはいない。
逃げるかどうかは、魔王の出方次第か。
「……私は、とにかく強くなる必要がありますね。頑張ります」
「うん。今はそれしかない」
「では、いきます」
リフィリスは体を強化しつつ、エマに切りかかる。リフィリスは一般の人より早く成長しているらしいのだが、残念ながら肉体が追いついていないので、エマにはとても敵わない。
そして、五歳児には似つかわしくない訓練を続けていると、シスターの一人が修練場にやってきた。
声をかけてきたので、エマが一旦訓練を中断。
「……リフィリス様のお力をお借りしに参りました。天使召喚を行っていただきたいのです」
「天使召喚……ですか? 私、魔力が全然足りなくて、強い天使は召喚できませんけど……」
天使召喚は、込めた魔力に対しては割の良い強さの天使を召喚できる。しかし、魔力量が一万五千程度であれば、エマにも敵わない弱い天使しか召喚できない。
「そこは、聖歌隊と……いえ、とにかく、礼拝堂へいらしてください」
「わかりました……。エマ、私、行ってきますね……」
「私も行こう」
「エマ様は、こちらでお待ちください」
エマが怪訝そうな顔をする。ただ、無理矢理リフィリスに付いてこようとはしなかった。
「わかった。リフィリス、行っておいで」
「はい」
リフィリスはシスターについていく。
そして、己の力を呪うことになる。
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