第48話 プリンセス

 名前:フィランツェル(ユーライ)

 種族:ダークリッチプリンセス

 性別:女

 年齢:5ヶ月

 レベル:3

 戦闘力:345,000

 魔力量:2,520,000

 スキル:暗黒魔法 Lv.×××、闇魔法耐性、聡明、死なず、邪神との対話

 称号:暗黒の魔女、魔王、神域の怪物、邪神の寵姫



 邪神との対話を終え、ユーライが目を覚ましたとき、あの戦いから十日ほどが経過していた。


 ステータスも変動し、外見にも変化があった。十二歳くらいの体だったのが、今はさらに成長して十四歳くらいになっている。身長が少し伸び、胸の膨らみもより明確なものとなった。



「外見が成長するのはいいんだけど、ますます危険度が上がってるよなぁ。平穏に生きたいだけなのに、周りを怖がらせるばっかりだよ」



 領主城三階の廊下。窓から城下の雪景色を眺めながら、ユーライがぼやく。時刻は午後五時くらいか、夕方の日差しは弱々しい。

 ユーライが軽く溜息をつくと、右隣のクレアがそっとユーライの手を握る。



「怖がらせるくらいがきっと丁度いい。誰もあなたに手を出そうとしなくなる。この十日間も平穏だった」


「その平穏がずっと続いてくれるといいな。そうすれば、私も誰も殺さないで済む」



 この平穏がずっと続いてくれるのか、まだまだ敵は多いのか。



(少なくとも、向こうには祝福の子っていう切り札もある。完全に敗北したとは思ってないだろうな。でも、同郷だし、話せばわかるんじゃないかな?)



 ユーライが無駄な争いにならないことを願っていると、左隣のリピアがユーライに身を寄せながら言う。



「……ねぇ、ユーライは、たくさんの人を殺したこと、後悔している?」


「私は、別に。闇落ち状態のときのことって、全然罪悪感とか沸かないんだわ。私より、二人はどう? 自分が生き返るためにたくさんの人が犠牲になったこと、辛いと思う?」



 先に答えたのは、クレア。



「その気持ちがないわけではない。けど、そうなった原因は、無闇にユーライを襲った相手側にあると思う。何もしてこなければ、被害者はいなかったはず」



 そして、リピアも答える。



「……あちしも同じかな。死んでしまった人に申し訳ないとも思うけど、そもそもあちしには殺される理由なんてなかった。あちしたちは悪くないんだから、向こうが勝手に犠牲者を出しただけ」


「……ん。それもそうだ。けど……リピアはそれでも気に病んでるかな? リピアは気にしなくていいんだぞ? 一万人殺してでも生き返らせるって決めたのは私で、実際に殺したのも私。リピアに責任はないよ」


「うん……」



(少しずつ心の整理もついてくるかな……。全部私がやったことなんだから、気にしなくていいのに……)



 なお、アンデッドにした聖剣士アクウェルについては、まだふさぎ込んで部屋に引きこもっている。パーティーメンバー三人が必死に慰めているようだが、復帰はまだ先になりそう。


 クレアもリピアも当初は似たような状態だったので、次第に落ち着くだろうとユーライは見込んでいる。


 将来的にアクウェルまで自分に執着するようになったら少し面倒だなとも思うが、いざとなったら精神操作で対応すればいいと、気軽に構えてもいる。



「ま、過ぎたことはもういいさ。それより、私はこの町を復興させたい気持ちが出てきたな。雪景色は綺麗だけど、このままじゃやっぱり寂しいや。どうにかして人を増やそう」


「ユーライがそういうのなら、あたしは手伝う」


「あちしも!」


「ありがと、二人とも。それでさ、リピア。とりあえず、無眼族の人たち、ここに住まない?」


「いいの? 亜人だよ?」


「私なんてアンデッドだよ。この町は、亜人だからダメとかいうのがない町にしたい」


「……そっか。里の人全員が来ることはないと思うけど、興味を持ってくれる人はいると思う。それと、無眼族だけじゃなくて、他の亜人にも声をかけていいかな?」


「ああ、いいよ。まぁ、上限は二万人くらいだろうけど」


「そこまで一気に増えることはないから大丈夫」


「そっか」


「ただ……ユーライは知らないかもしれないけど、亜人の外見は人間からするとかなり風変わり。あちしたちはまだ人間に近いけど、獣に近かったり、虫に近かったりする者もいる。それでも大丈夫?」


「私は気にしないかな。ただ、見た目云々より、文化的な違いで衝突するのは避けたい。なるべく相性のいい種族を集められるといいな」


「ユーライは心が広いね! ちょっと考えてみる!」


「ん。頼むよ」



 復興していく町の姿を思い描き、ユーライは心を躍らせる。


 ここは本来いるべき人たちから奪い取った町で、自由に作り替えて良いというわけでもないのかもしれない。


 しかし、追悼だけしていても未来はない。



「これからいい町を作ろう。それを邪魔する奴は……殺すしかないのかなぁ」



 平穏で、平和で、幸福な未来を願い、ユーライは薄く微笑んだ。

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