第22話 実験
遊雷は男の腹に右手を添え、まずは霊視を発動。魂を抜くには霊視が必要らしい。
生きている人間だと、肉体と魂がちゃんと合わさって見える。また、詳細はわからないが、魂の状態もわかる。
状態:汚れあり。十人以上の殺害。
(十人以上の殺害か。中身にもよるけど、普通に死刑囚レベルだろ。それじゃあ、遠慮なく、魂抽出で魂だけを引きずり出す……)
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああ!」
「おや? まだちょっと引っ張っただけなのに、そんなに苦しいの?」
傀儡魔法の影響で声を出すのも難しいはずなのに、この絶叫。並大抵のものではない。
「爪や皮を剥ぐより痛い? あれも相当痛いからなー。心中お察しするよー」
男の絶叫に負けたわけではないが、遊雷は一旦魂の抽出を中止。元に戻す。
男は荒い息を吐いているし、全身が汗でぐっしょり濡れている。ただ、意識はもうろうとしているようで、遊雷を認識しているか定かではない。
(魂を抜き出そうとすると激痛。途中でやめたら魂は元に戻る。完全に抜き出してから戻す、はできるかな?)
「それじゃ、もう一回」
「ぐぁあああああああああああああああああああああああ!」
男の顔がちょっと子供に見せられない状態なのは無視して、遊雷は最後まで魂を引っ張り出す。まだ細い糸が繋がった状態だが、男は動かなくなった。
(これが魂を引っ張り出した状態か。まだ体と繋がってるってことは、戻すこともできる?)
遊雷は体に魂を押し込もうとするが、魂は体をすり抜けてしまう。
「あ、私の力って抜き出すだけなんだ。全部引っ張り出すと、もう元に戻せない……」
アンデッド作成の魔法を使えば戻せるだろう。しかし、この男をアンデッドとして生きながらえさせようとは全く思わない。
「ごめんごめん、殺そうとは思ってなかったんだけどさぁ、元に戻らないんじゃ仕方ないよな。放置してたらどうなるかも見てみたいけど……殺して放置ってのも良くないよなぁ。じゃあ、食べてみるか?」
「お、これはありがたい。そのままの形だったらすごく食べにくかった」
遊雷は人魂をひと
ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!
音としては聞こえないのだが、遊雷には魂の悲鳴が確かに聞こえていた。人魂はやたらと暴れているし、魂の状態でも苦痛があるようだ。
「アハハッ。痛いのは嫌だよなぁ。まぁ、お前も散々他人を痛めつけたんだし、別にいいやな?」
イタイイタイイタイイタイイタイイタイヤメテイタイイタイクルシイイタイタスケテイタイイタイイタイイタイ……。
「魂って結構賑やかなんだなぁ。けど、味はいまいち。味付けされてない餅をそのまま食ってる感じだ。おかずが欲しいね」
遊雷はもうひとかじりしつつ、ゆっくりと魂を味わう。
アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ。
絶叫がどこか心地良いが、さておき。
魂を飲み下すと体がぽうっと温かくなる感覚もあり、遊雷は自分の力が増しているのを感じる。
(魂を食べると強くなる……。悪役路線まっしぐらー。万の人殺しておいて、今更気にすることじゃないんだろうけどー。ああ、でも、今回は事故とも言い難いかもなぁ……)
一人分の魂を食べ終えて、遊雷は一息つく。お腹の中で何かが暴れている感覚があったが、それもすぐに消えた。
「美味かったら全員分食っても良かったけど、この味ならそこまでしなくていいかな。お前たち、私に食われずに済んで良かったな?」
抜け殻となった男の傀儡魔法を解く。死体はその場に崩れ落ちて動かない。
残りの四人はこの光景に顔をひきつらせる。
「次ー、魔改造もちゃんと使ってみたいんだよなー」
近くにいたもう一人の男に近づき、遊雷はその肩をぽんと叩く。
何か言いたいようなので、一時的に話せるようにしてやる。
「ま、待ってくれ! これからはあんたのためになんでもする! だから、命は助けてくれ!」
「あー、大丈夫、元々命を奪うつもりとかなかったから」
「じゃ、じゃあ、一体何を……」
「体をちょっといじるだけだよ」
遊雷はにこりと微笑む。
(魔真改造の前に、霊視だけしておくか)
状態:汚れあり。五人の殺害。
(はい、アウト。人殺しじゃなければ考えたけど、もういいや。こいつもどうでもいい)
「お前、好きな動物はいる?」
「は……? 好きな動物……?」
「犬、猫、鳥、猿……色々いるだろ? 何が好き?」
「……お、狼」
「そっかそっか。男の子だなぁ」
(狼っていうと……こんなイメージかな。よし、魔改造)
「ぐぎゃああああああああああああああああああ!」
男の体が急速に変形していく。全身から灰色の毛が生え始め、骨格も人間から狼になる。
ほんの数分で改造は完了し、男は一匹の狼になった。尻尾の先までの体長が一メートル半ほどの、立派な灰色の狼だ。
「いいじゃん、いいじゃん、人間だったときよりかっこいいんじゃない?」
「な、なんだ!? 一体どうなってる!? 俺の体は!? なんで四足歩行してるんだ!?」
「脳はいじってないから、ちゃんと人間としての意識は残ってるわけね。普通にしゃべれてるのもいいじゃん」
傀儡魔法を解いてやると、狼はしきりに自分の体を確認する。遊雷は、乙女のたしなみとして携帯し始めた手鏡を出し、姿を確認させてやる。
「どう? その姿、気に入った?」
「ふ、ふざけるな! なんだよこれ! 元に戻せよ! 俺は人間だ!」
「お前が人間なわけないだろ? 人間はさぁ、吊した女の子を弓で射るなんてしないんだよ」
「うるせぇ! 戻せ! 戻してくれ! 獣なんかになって生きるのは嫌だ!」
「その姿の方が似合ってるよ?」
「似合ってるとかどうでもいい! とにかく早く戻せ!」
「嫌だよ。お前は一生その姿でいればいい」
「おい! 魔物のくせに、調子に乗りやがって!」
狼が遊雷に向かって突進。噛みついてこようとするが、ダンジョンで戦った魔物よりは圧倒的に鈍い。遊雷は右手で狼の首を掴んで受け止める。
「私も無闇に人を傷つけたくはないからさぁ、反省するなら多少は情けをかけてやっても良かったんだよ? でも、自分の行動を悔い改めることができないなら、そんな心、もういらないよな?」
「お前、一体何を……っ」
「こっちも試してみたかったし、ちょうどいいや。精神操作」
こいつが人間のような何かだったことを忘れさせる。
そして、自分が本物の狼であると錯覚させる。
ただし、野生の狼と違って、人間を決して襲わない。
「これで、どう?」
遊雷は狼を解放する。
さっきまでの反発が嘘のように、遊雷の前で横たわり、お腹を見せる。尻尾をふりふり、くぅんくぅん、と切なげに鳴く。
「おー、よしよし。これ、狼っていうより犬かなー。けど、やっぱりこっちの方がいいんじゃない? つーか、私に従順って設定にはしてないのに、なんか懐いてる?」
遊雷はしゃがんで狼の腹を撫でてやる。狼は嬉しそうだ。
「あははははっ。……さて、他の連中はどうしようかな? ああ、そんな怯えた顔はしなくていいよ。私は悪人じゃないからさぁ、この世のものとも思えない醜悪な姿にして、一生人間に蔑まれる存在にしてやろう……とかは、考えるだけだから。
ああ、でも、人面の獣を作るとか、人っぽい形の植物に変えるのも面白そうだよな? 見せ物として可愛がってもらえるんじゃない? 魔改造のポテンシャル、お前たちで試してみようっ」
遊雷は立ち上がり、残りの三人に微笑みかけた。
「お前らなんか、殺してやらない。覚悟しろ」
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