第37話 不死者
両者にまだ二キロほどの距離がある中、先に攻撃してきたのは敵の方だった。
炎、風、水、雷……各種魔法が飛んでくる。
「二人とも下がって。もう攻撃してきた。私を狙うなら……吸収でいいか」
飛来した諸々の攻撃を、直径四メートルほどの黒い円が吸い込んでいく。
吸収は主に魔法や魔力を取り込み、餌にしてしまう魔法だ。守れる範囲は限られているものの、一方向からの自分への魔法攻撃に対してはほぼ無敵の盾。
なお、人に触れた状態で使えば、体力も魔力も吸い込んで戦闘不能にすることもできる。
「私だけを狙ってくれればいいけど、微妙に逸れた奴が町に当たるな……。始まっちゃったし、応戦しよう。まずは、ペイン」
ペインは見える範囲の敵を一度に攻撃できる。もしかしたら一発で終了しないものかと期待したのだが……。
「あれ? 発動してない? ってことは……聖女が来てる?」
ユーライは、事前に聖女の力をある程度聞いている。優れた守護の力を持ち、闇系統の魔法をほぼ防いでしまう、と。
「……敵軍の後方にエメラルダ……聖女がいる。闇属性魔法に対するアンチマジック結界を張っているから、その魔法は通じない」
クレアの声は少し暗い。
「エメラルダか。例の子が来ちゃったわけね」
エメラルダは、クレアが聖騎士をしていた頃の友人。できれば戦いたくないし、殺したくもないとクレアは言っていた。
「なるべく殺さない方針で……なんていつまで言ってられるかわからないけど、とにかく努力はする。ペインが通じないなら……これはどう? 不死者の軍勢、発動」
ユーライは、体内から膨大な量の魔力が抜けていくのを感じる。
そして、城壁の下の地面に数千に及ぶ魔法陣が現れて、そこからスケルトンが出現。その手には、骨でできているような白っぽい剣と盾。
この魔法で出せる中では、スケルトンは弱い魔物。もっと強い魔物を出せば殲滅は容易くなるかもしれないが、なるべく殺さない方針のため、使うのはスケルトンにしている。
「聖女の魔力量はせいぜい五万程度だってな。こっちの軍勢に十万弱の魔力を込めたけど、どこまで対抗できるかな?」
スケルトンの軍勢が進軍を開始する。
敵の魔法は、ユーライだけではなく、スケルトンにも向き始める。
着弾すると、スケルトンたちはあっさりと粉々に。
「あらら。やっぱりちょっとモロいな」
一体ずつの力量は、せいぜい五等級。リピアだって倒すことができる。
しかし。
粉々にされたスケルトンは、すぐさま元の形を取り戻す。
「不死者の軍勢はしぶといぞ? 無限にとは言わないけど、壊しても壊しても復活するから、本質的な数は数千じゃすまない」
不死者の軍勢が敵軍に向かって駆けていく。敵の魔法は幾度となく飛来し、その度にスケルトンたちは粉砕されていくのだが、結局元に戻って進軍を続ける。
(こっちとしては心強い。でも、相手からすると恐怖だよな)
ユーライの目には、顔をしかめる兵士たちの表情が見えている。
「クレア、あれだけで勝てるってことはないかな?」
「……あれだけではおそらく不可能。相手に聖女も聖属性魔法の使い手もいなければ勝てただろうけど」
「そっか。私の力って、聖属性にとことん相性悪いんだな」
「相性は悪いかもしれない。でも、あなたの魔力量を考えると、相性の悪さは
「結局ごり押しか……。そっちであまり消耗してられないんだけどな……」
ユーライたちがしばらく見守っていると、不快なほどに強い光が敵軍から放たれ、スケルトンたちを照らす。
百を越すスケルトンたちが一斉に破壊され、消滅する。
「あれが聖魔法って奴?」
「そう。聖魔法、浄化の光。闇属性の魔物を消し去る強力な力」
「こっちに向いたら怖いな……。あ、また消された。このペースだとすぐにやられちゃわない?」
「……大丈夫だと思う。浄化の光は強力だけど、エメラルダは防御も疎かにできない。魔力を回復しつつ戦うにしても、二十回、三十回と使えるわけじゃない」
「それならまだ大丈夫か。聖女の他に脅威はいる?」
「……いる。あれは、聖剣術の使い手、アクウェル。聖女と違って攻撃特化。戦闘力としては準一等級らしいけれど、魔物に対する力は一等級並」
クレアが指さす方をユーライも見てみる。第三の目を使うと魔力察知能力が底上げされるから、嫌な気配をまとう若い男性をすぐに発見できた。
その男はまだ馬に乗って移動しているだけだが、スケルトンたちと接触すればすぐに動き出すだろう。
「あいつか……。近づきたくない相手だ」
「ユーライ様。そういう奴の相手はおれに任せてください。準一等級なら、おれでも倒せます」
「ん……。ギルカ、頼む。けど、無理しないで。死んだらアンデッドにして復活させちゃうから」
「まぁ、それはそれで悪くないですが」
「おいおい……」
(アンデッドはそんなに増やしたくないぞー。副作用ゼロとはいかないみたいだし……。それはそうと、聖女の限界は近いかな)
浄化の光でスケルトンたちは順次消滅していくが、やがてその光が途切れ途切れになっていく。聖属性の気配をまとう金髪の少女は、酷く憔悴しているようだった。
「スケルトンだけでも結構押せそうではある。でも、こっちも出撃させておこうか」
ユーライは、精神操作で支配している魔物たちも、兵士の方に向かわせる。
まずは、町の中に待機させていたフォレストウルフ百頭だ。他に、町の内外に千近くの様々な魔物が待機している。それらも順次南の方に向かわせる。
千の魔物に逐一精神操作を施すのは大変だったが、死んでも構わない兵隊を集めるのには有効な手段だった。
しばらく様子を見ていると、ついに両軍が衝突し始める。一般の兵士がスケルトンと一対一で戦っていくのに対し、聖剣術使いアクウェルは、一振りで二十、三十とスケルトンを屠っていく。一撃の破壊力は聖女より控えめだが、全く疲れる様子もないので、最終的には聖女よりも良い成果を出すだろう。
(聖属性の攻撃特化……。厄介な相手だ)
ユーライがアクウェルとの戦い方を検討していると、ギルカが言う。
「高見の見物もいいもんですが、おれはそろそろ下に降りて戦いに備えます」
「うん。ギルカ、気をつけて」
「ユーライ様も。まぁついでにクレアも。それと……リピアは特に気をつけろよ?」
「あ、あちしだって、自分の身は守れる!」
「だといいがな。危なかったらさっさと逃げるのも、戦場じゃ大事なことだぞ」
ギルカが階段を降りて地上に向かう。途中から姿が確認できなくなったのは、得意の隠密スキルの効果だ。
「さて。こっちまだはのんびり構えてるけど、向こうとしてはどうなのかな? 意外と必死だったりする?」
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