第11話 龍也への贈り物 / 兄の後悔

 千夏たちとの作戦会議の後、香織はショッピングモールを訪れていた。


「どんなのがいいかな?斎藤君はなんでも嬉しいとは言っていたけどうんー」


 香織は何を贈ろうか考えながら店内を見回る。


(アクセサリー系なんか贈ったら重いとか思われちゃうかな、無難に消耗品の方がいいのかな?でも欲を言ったら普段、使って欲しいな~なんて)


 と香織は考えながら、あたりをを見渡しながら歩いているとあるものが目に入り、文房具店で足を止めた。

 それは数種類のブックカバーだった。


「確か、龍也君ってよく本を読んでいるよね」


 香織はそう呟き全体的に黒く中央に小さい猫の刺繡がされたブックカバー手に取る。

 ブックカバーの触り心地は革に近い感触。

 一旦元の位置へ戻し、他の候補がないかを見て回ったがこれ以外のものは考えられなかったので、プレゼントはブックカバーとその近くに置いてあった金属製の栞に決定した。


「龍也君喜んでくれるかな?」


(あー、一日楽しみだな)


***

 四月三十日、このゴールデンウイークを利用して一日遅れで久しぶりに実家に帰宅した一樹は、今年高校に入学した弟(龍也)について考えていた。

 俺の弟、龍也は俺のせいで自分への自信を無くしてしまっている。

 あの日、弟にただ一度だけ言ってしまった取り返しのつかない言葉『お前はモブなんだから引っ込んでろよ!』これは後々考えてみると弟に言ったのではなく当時の自分自身に思っていた言葉だった。子役でわき役しかもエキストラみたいな役しかやらせてもらえなかった俺が、子役なったばかりでメインキャストに抜擢された龍也に嫉妬してしまい言ってしまった言葉だった。

 すぐに戻ってくると思っていたが、それまでの龍也は「いつか大人になったらヒーローの役をやるんだー」と満面の笑顔で言って誰よりも主人公ヒーローになりたがっていた龍也が、その日を境に出演予定の役を辞退し役者も辞め俺からも距離を置くようになった。

 そのあまりの変化に俺は戸惑った、俺のたった一言のせいで龍也の人生を狂わせてしまった。

 それなのに俺は、いまだにこの業界にいる。龍也を踏み台にして得た場所に、この場所にいるのは俺じゃなかったと思う。龍也は演技の才能も顔の良さも俺よりも上で。さらに何事にも熱心に努力もできる才能があった、龍也の当時の憧れで目標であった俺にそのすべてを否定された。

 例えるなら、小学生の子供が、憧れのプロ野球選手に「僕の夢はプロ野球選手になることです」って宣言したら「黙れ、鬱陶しいからどっか行けよと」と言われてると同じものだ。

 俺なら耐えられない。理不尽極まりない。だがそれと同じことを俺は実の弟にやってしまったのだ。

 それから今まで龍也と関わることを怖くて逃げてきた。

 だが、今年俺が返ってきた理由が遅くなりすぎたけど龍也にこれまでのことを謝罪をしよう思ったからだ、今年、龍也は帰ってこないこと今朝、母から聞いた。

 なので明日、実家から電車で片道2時間半かかる龍也の家に行くことにした。


 翌日の五月一日、午後一時過ぎ俺は龍也にメッセージを送り家を出た。


『龍也、直接話しておかないといけないことがあるから今からそっち行く』13:03

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