第8話 下校の後

(香織と友達になって二日目だけど少し距離が近い気がする)

 と夕食をとり終えた龍也は昨日、今日のことについて思い返しているとピロンと音を立てポケットの中のスマホがメッセージを受信した。

 発信元は母からだ。


母『今年のゴールデンウイークは一樹かずきがこっちに帰ってくるんだけど龍也は?』

龍也『俺は今年はやめとくよ』

母『ホームシックになったらいつでも帰ってくるのよ♡』

龍也『了解』

(兄さんか...)


 龍也は一樹という名を聞いて子供の頃のことを思い出す。


(そう俺は主人公は俺じゃない特別なのは兄さんだ)


 元モデルの母とイケメン社長と言われている父の血を色濃く継いだ一樹は今注目のモデル兼俳優で全国を飛び回っている。

 そんな一樹が幼少期のある日芝居の稽古の時に龍也に言った言葉が『モブなんだから引っ込んでろよ』だ。

 それが龍也が幼少期からの自己評価になった。

 龍也は自分には何もないと思っていた。

 眩しすぎる人物が身近にいてその人から『お前は無能モブだ』とはっきり言われた龍也はいつしか自分自身以外の人達は全員主人公に相応しい存在と思うようになった。


 ある人は容姿端麗で。

 ある人は正義感と勇気を持って。

 ある人は人の為に。

 ある人は目標に向かい全力で。

 ある人は理想を追い求めて。

 ある人は自分の好きを突き詰めて。

 ある人は人を愛して。

 

 モブである龍也はどれも自分にはないものだと思ってしまった。そして、龍也はそれを持つ自覚がないと主人公になる資格がないと思った。

 そして一樹は龍也にとって一番の主人公だった。

 容姿は完璧、周り明るく振舞い、には優しく、文武両道。

 その上で自分の好きな生きかたをしている。


(決して俺は兄さん、神田一樹みたいな人間にはなれない)


 一樹のことを思い出し龍也は改めて自分は主人公には相応しくないこと痛感した。

 ピロンとまたスマホが音を立てた。


『こんばんわ龍也君』


 発信元は香織からだった。


『こんばんわ』

『どうしたの』

『?と首をかしげるキャラクターのスタンプ』

『いや今日言い忘れてたなって』

『えっ何を?』


 数分後


『今日の髪型似合ってよって』


(えっ、褒められたのか、あの学校一の美少女の香織に。お世辞だったとしても、さっきまで嫌なことを思い出してしまっていたせいかすごく嬉しい。うん、切り替えないとな)


『お世辞でもすごく嬉しい。ありがとう』

『お世辞じゃないよ』


(えっ、お世辞じゃないってどういう...)


『もう夜遅いしもう寝るね』

『キャラクターが寝ているスタンプ』

『うん、おやすみ』


(こうやってメッセージでやり取りしていると本当に友達になった感じするな)


『お前はモブだ』

 そろそろ寝ようとベッドに横になって目を閉じた龍也の脳裏に一樹の声が響く。


(そうだ俺は所詮モブなんだ。学校一の美少女と友達になって優しくされたからってメインキャラになれた気になって浮かれて、バカだな俺は)


 龍也はそう自分に言い聞かせ再び目を閉じた。

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