第4話 昨日のお礼

 龍也は香織に連れられてお洒落な喫茶店を訪れていた。

 店内の客は平日の十六時半という中途半端な時間だからかまばらで落ち着いたジャス音楽が流れている。


「この店の雰囲気、好きで」

「そうなんだ、俺もこの落ちた感じ好きかも」

「ほっ、よかった」

 篠崎さんがほっとした表情になる

「とりあえず注文しよ。お代は私が持つから安心してください」

「それは申し訳ないというか」

「気にしないでください今日は神田君への感謝を伝えるために私から誘ったんですから」


 龍也は香織のあまりに真剣な表情を見て引く気がないの理解したのでこれ以上何も言わないことにした。


「じゃあ篠崎さんのお勧めある?」

「えっと、ここのタルトがすごくおいしくてお勧めなんです」

「そうなんだ」


 そう言ってメニューを開きタルトのページを確認する。


 メニューには苺、マスカット、ブルーベリー、マンゴーの四種類と数種類のフルーツが盛られたもの三種類の計七種類のタルトが写真付きで書かれていた。

 注文が決まった龍也と香織はそれぞれ苺、マスカットのタルトとコーヒーを注文する。

 数分後龍也達が座る席にそれぞれの注文したタルトとコーヒーが運ばれてきた。


 味わいながらタルトを食べ進めていると前から視線を感じ篠崎さんの方に視線を向ける。


「えっと、篠崎さん?」

「はいっ、神田君どうしたんですか」

「いや、そのずっと見られているとちょっと恥ずかしいといいますか...」

「っ!ごめんなさい。お口に合っているか心配で」

「大丈夫だよ、すごくおいしい」

「よかったそう言ってくれるのなら誘って本当に良かったです」

「うん、誘ってくれて本当にありがとう篠崎さん」


 そう言って篠崎さんの方を見ると篠崎さんがはにかんで「いいえ、どういたしまして」と返し、タルトを一口、口へ運び甘味を感じると表情が柔らぐ。


 (ああ、なんだこの可愛い生き物は…はっ、だめだつい見入ってしまった)


 龍也は自分の中の煩悩を振り払うようにタルトをほおばり口いっぱいにタルトのクッキー生地とクリームの甘さと甘酸っぱい苺の味がい広がる。


 タルトを食べ終わった二人はコーヒーを飲みながら学校での話などをしていた。

 龍也は基本ぼっちで学校でのことはあまり話すことがないので主に香織が


「なんだかこうして話していると友達みたいですね」

「そっか、友達みたいか...」

「ごめんなさい私ちょっと調子乗りすぎたかも」

「いやそうじゃないんだ。俺学校ではあまり目立ってなくていつも一人だから友達っていなくて篠崎さんが友達みたいって言ってくれたのがすごく嬉しくて」

「じゃあ、みたいじゃなくて友達になりましょう」

「いいのこんなぱっとしないザ・モブみたいな奴が篠崎さんみたいな超美人な人と友達だなんて」

「私はそんなの気にしませんそれに神田君は自分が思っている何倍もかっこいいですよ」

「ちょっと最後の方聞こえなかったけどありがとう篠崎さん。こんな俺でもよければよろしくおねがいします」

「それじゃあまず、友達になったからにはその篠崎さんっていうよそよそしい呼び方はやめてほしいな」

「えっ、じゃあ香織?」

「はい、龍也君」

 香織が嬉しそうに龍也の名前を呼ぶ

「じゃあ、次はラインの連絡先交換をしよ」

「分かった」


 龍也はスマホを取り出し香織の画面のQRコードを読み取り連絡先の交換が完了しチャット欄にKaoriという名前が追加される。


「これからよろしくします龍也君」

「うん、こちらこそよろしく。し、香織」

「はい!」

「長居しすぎても迷惑だろうしそろそろ帰ろうか」

「うん、そうだね」


 そうして店を出た二人は帰路についた。


 偶然香織の家が住んでいるマンションの近所だったので送っていくことにした。多分近所じゃなくても送ってから帰るつもりだったのだが。時刻は十八時前で辺りはすでに薄暗くなり始めている。


「送ってくれなくてもよかったのに」

「薄暗くて危ないし、帰り道にまたこの間の男共みたいな人に絡まれてほしくないから」

「龍也君、ありがとう」


 香織が本当に嬉しそうに飛び跳ねる


 暫く歩き香織の家の近くまで到着する


「送ってくれてありがとうここまでで大丈夫だから」

「分かった、気を付けて」

「うん。龍也君、また明日、今日は私に付き合ってくれてありがとう」

「こちらこそ。とてもたのしかった。香織、今日は誘ってくれてありがとう」


 そうして龍也は香織に背を向け自宅に向かった。


「今日は本当に夢のような一日だったな」


***

 自宅に帰った香織はベッドに横になりスマホの画面を眺めていた。


 映るのはラインのトーク画面、画面左上には『神田龍也』の名前が書かれている

 その名前を見るだけでトクゥントクゥンと胸が高鳴る。


 (龍也君にお礼をしたらこの胸の高鳴りは収まると思っていたけど逆に龍也君のことばかり考えてしまう。


男共に絡まれた時の真剣な顔の龍也君、苺タルトを食べ幸せそうに表情を緩める龍也君、不意を突かれて驚く龍也君、そして優しく微笑む龍也君、気づけば龍也君のことを考えてしまうそのたびに顔が火照り胸が音を立てて高鳴るが決して不快ではない。


 この気持ちは何なんだろう。もしかしてこれが『恋』をするということなのでしょうか?)

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