ととととと

Chan茶菓

ととととと

 




 時刻は19時。彼女は帰路についていた。

 少し速足で自宅へと向かう。見たいドラマでもあるのだろうか。帰り道、公園の入り口に差し掛かる。彼女は「ここを通れば近道だ。」そう考えた。入口に立つポールの間を通り、公園へと足を進める。

 

 

 公園を進む彼女だったが、ほんの微かな、しかしやけにはっきりとした音を耳が捉える。

 

 ____ととととと。

 

 足音がする。彼女は振り返るが、そこに広がっているのはただの道。


 

 

 ととととと。

 次は右向き、音の方へ目を凝らす。静かに佇む電灯が、足元のベンチをはっきり照らす。そこには獣の姿も、ましてや人の影もない。

 「猫か何かがいるのだろうか」と彼女は思い、また早歩きで公園を進む。

 


 

 ととととと。

 まただ。

 前から聞こえる足の音。誘っているのか逃げているのか。彼女は気付けば駆けていた。自分でもなぜ駆けているのか分からない。ただ足音の正体に追い付こうと、身体が、脚がそうさせるようだった。

 公園を出ても足音は逃げる。彼女の帰り道とは真反対へと逃げていく。彼女も習って反対へ。



 

 ととととと。

 追う足音は駅のホームへ。

 息を切らして、彼女はホームを見渡した。駅名を見る。彼女はその駅の噂を知っていた。その駅名を捩じって「子連れ駅」と呼ぶのだと同僚が噂をしているのを以前耳にしていた。

 彼女が腹を押さえる。痛みなどはない。ただじくじくとした気持ち悪さが下腹部からこみ上げてくる。耐えられなくなり彼女はその場にしゃがみこもうと腰を屈めた。


 

 

 ととん。


 

 

 背中に軽く、小さな衝撃が。本当に軽く触れる程度の衝撃だった。

 しかし、彼女は大きく前へとよろけてしまった。頭からぐるんと線路へと落ちる。

 彼女の体が半回転したところで、ホームが上下逆さになって見えた。

 

 目の前に立つ小さな少女。顔いっぱいの笑顔の少女。

 その顔はとても見覚えがあった。


 「あ。」とも「え。」とも聞こえる音が、彼女が最期に発した声だ。


 大きな警笛と共に迫った鉄に、彼女の声も身体も吞まれていった。


 

 





 ととととと。


 足音がする。

 誰かの悲鳴やけたたましく軋むブレーキの音と共に。


 彼が振り返る。


 そこに広がっているのはただの駅のホーム。




 




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