第176話 もう聞き飽きた回想

「どうじゃ、この私の顛末。こうしてこの私は、偉大なる復讐を遂げたのじゃ! がーはっはっはっはっはっ!」


 ボッターKリンは笑っていた。

 けたたましい高笑いが部屋の中に響くと、グリム達は真顔になる。

 否、ボッターKリンがバカ過ぎて呆れたのだ。


「なんじゃ、その顔は。気に食わんの」


 ボッターKリンは気が付いていなかった。

 グリム達が既に興味を失っていることに。


「いや、バカだね」

「そうそう、バカって言うか、天性のバカ?」

「言い方は悪いですけど、最低最悪のクズでバカだと思います」


 グリム達は全員ボッターKリンを逆の意味で憐れんだ。

 それだけ救いようのないバカで、ボッターKリンは、破滅的だった。

 もはや手の施しようがない。同情の余地すらない。

 ボッターKリンは、クズでカスでバカだった。


「な、なんじゃと! この私にバカとは、なんという非礼だ!」

「非礼もなにも、復讐のために人を殺す時点で悪人だよ」


 グリムは真っ向から突っぱねる。

 するとボッターKリンは、何も言い返せない。

 そこに畳み掛けるように、更に言葉を浴びせた。


「おまけに呪符を買い集めるために資産を全て注ぎ込んだ。その時点で考えなしだね」

「そうそう。グリムを見習ってほしいよー」

「えっ、グリムさん、なにかやられているんですか?」

「まあ、ちょっとした株とオーナーね」


 グリムとボッターKリンは、対照的だった。

 いや、対照として比較することさえ烏滸がましい。

 それほどまでに、ボッターKリンは、腐っている。


「くっ、この私をバカにして!」

「するよ。なにせ、人を殺すために造った罠で、自分まで死んだんだ。心中なんてする時点で、殺人は破綻しているよ」

「そうそう。刑事ドラマでも、犯人が自分まで死んだように見せかけることは合っても、まさか本当に自分が死ぬなんてこと、無いでしょ?」

「ぐぬぬ、言わせておけば……」


 グリムだけではなく、フェスタの追い打ち。

 二人の口撃を浴びると、ボッターKリンは、尻込みする。

 もはや口喧嘩で勝ることは無い。

 そう思った瞬間、ボッターKリンは、呪符を取り出す。


「ええい! この私を侮辱するようなら、この娘の遺体ごと!」


 スッ!


 その瞬間、グリムが目の前から消える。

 視界から完全に姿を失せ、暗闇の中に溶け込むと、ボッターKリンの前に現れる。

 肩に担いでいた〈死神の大鎌〉がギラリ光ると、ボッターKリンに振り下ろされる。


「ひいっ!」


 ボッターKリンは慌てて呪符を飛ばす。

 しかし爆発した瞬間、呪符がグリムによって切り裂かれた。

 爆発さえ掻き消すと、グリムは鋭い眼光で睨んだ。


「そんなこと、させると思ってる?」


 グリムは威圧的な態度を取ると、ボッターKリンの骸骨になった首に、刃先を合わせた。

 彎曲した鎌が、頭を持ち上げる。

 今にも頭と首が離れてしまいそうだが、ボッターKリンは骸骨なのにもかかわらず、悲鳴を上げた。


「ぎやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「うるさいな」


 ジリジリと鎌が頭を持ち上げる。

 顎を削って細かくすると、もはや死神そのもの。

 PCOの白い死神がやって来ると、ボッターKリンは命乞いをする。


「ま、待ってくれ。話せば分かる」

「もう散々聞いたよ」

「なっ、あれは私の過去。回想と言う奴だ。賢いお前なら分かるだろ」

「分かるよ? でもね、それが例えNPCの所業であったとしても、人間と捨て見過ごせない。大人しく、怨念は消えて貰おうか」


 グリムはカッコ良かった。

 ただ感情的にはならず、利己のためにも戦う。

 その姿は背中から放たれるオーラ的な何かが迸っているようで、フェスタとDも感化される。


「うぉっ! カッコいい」

「は、はい。流石はグリムさんです。惚れ惚れします」


 Dは顔を赤くしていた。特に頬の部分が今にも溶けてしまいそう。

 それほどまでにグリムはカッコよく、ボッターKリンは真逆だ。

 往生際も悪く、最後まで呪符を手にし、命を乞う。


「こ、こ、こ、この私を殺せばどうなるか分かっているのか!」

「さあね」

「知らんぞ。あの娘が、シルキーがどうなっても」

「脅しかな? そんなもの、通用しないよ。それじゃあ、一つ」


 グリムは赤い目で照らした。

 大鎌を振り上げ、ボッターKリンを倒す。

 その間際、ボッターKリンは叫んだ。

 するとグリムの手は少しだけ止まる。


「私が死ねば、あの娘は生き返らんぞ!」


 ・・・——

 空気が閉じ込められ、不思議と揺れる。

 グリム達は理解しようと脳を休ませ、ボッターKリンはケタケタと笑う。


「どういうことかな?」

「はっ! お前なら分かっているだろう」

「……まさか、シルキーの遺体を遺した理由は」


 グリムは誰よりも先にボッターKリンの考えに至る。

 けれどそんな話を信じたくはない。

 あまりにもゲームだと思ってしまったからだ。


 しかし、それがこの世界の現実だ。

 ボッターKリンは呪符を集めている。

 それなら、可能なのではないだろうか? と少しだけ思ってしまった。


「グリム、どうしたの? さっさとやっちゃおうよ!」

「フェスタ、少し待ってくれるかな?」

「えっ? なんで」

「気になることがあるんだ。ボッターKリン、遺言になる前に話すんだよね?」

「はっ。いいじゃろう、この私の素晴らしい作戦をな!」


 ボッターKリンは命乞いも兼ねて、時間を稼いだ。

 グリムはそれが分かっていながらも、ボッターKリンに猶予を与える。

 一体何をしたのか。ようやく全ての謎が解けそうだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る