第174話 なにがあったのかPart2
「どうじゃ、分かっただろう。この私の正しさが!」
「いや、ただのクソ野郎じゃんか」
「最低な人です。異論も認められない程、最低です!」
「確かにね。これは、弁護のしようもない」
ボッターKリンは、今だ話の前半にもかかわらず、とんでもない悪業に手を染めていた。
もはや、弁護も弁明も要らない。
むしろ、全てが自分の悪事を成立させてしまうもので、完全に
「黙れ黙れ。全てはこの私が正しい、この私のみが正義なんじゃ!」
ボッターKリンはさらに罪を広げた。
呆れてものも言えない。グリム達は溜息を吐く。
するとボッターKリンは苛立って、呪符を飛ばそうとした。
「くっ、そんな態度を続けるようなら、この屋敷事を爆破してやろうか!」
「早計だよ。後先考えて無いのは、貴族として、根本が間違っているんじゃないかな?」
「むっ、何処まで私を虚仮にする気だ!」
ボッターKリンは勝手に怒って、勝手に癇癪を起す。
もはや切りがない。
グリム達の冷めた目に当てられ、ボッターKリンは引いた。
「ふん、まあよい。この私の素晴らしい計画を話してやろう」
ボッターKリンは腕を組みをした。
全身骨にもかかわらず、よく舌が回る。舌が無いのに。
そんなツッコミをさておき、フェスタとDは思った。
((やっぱり話してくれるんだ)ですね)
フェスタとDの思惑など知らない。
ボッターKリンは淡々と話の続きを展開した。
「くっ、あの男は、あの男は何処までこの私を……クソがっ!」
ボッターKリンは酒を飲んでいた。
ワイングラスに注ぐはずのワインも無く、瓶を直飲みしてしまう。
しかし、半分も飲んでないうちに、苛立って瓶を手の甲で弾くと、床にバラバラに散らばった。
「うーん、おい! すぐにこの瓶を片付けろ」
ボッターKリンは虚空に向かって叫んだ。
顔を真っ赤にし、完全に酔いが回っている。
そのせいか、記憶まで飛んでしまった。
「おい!」
いくら呼んでも、使用人はやって来ない。
ましてやメイドの一人も足を運ばず、部屋には誰もやって来ない。
「あー、忌々しい。一人は格安でも雇っておくべきだった」
ボッターKリンは、あれ以来ドーンライト家と、幾度となくぶつかった。
この二年で実に千回を超えている。
その度に、ドーンライト侯爵が正しいと認められ、その度に損害賠償を払わされた。
おまけに今まで手を付けて来た株も暴落。
所有していた会社も、次から次へと倒産。
その行いに対し、オーナーであるボッターKリンに火の矢が飛んだ。
そのせいもあってか、伯爵家と言う名前は地の底についた。
ボッターKリンと言う名前は、日陰の存在になった。
新天地として選んだ、フォンスでは見る影もなく、今では煙たがられる存在として、有力貴族にも謁見できない。
まさに没落の一途を進んでいた。もはやこれまで。そう思うのも無理は無いが、ボッターKリンは怒りを燃やす。
「全てはあの男の、ドーンライト侯爵のせいだ。あの男さえいなければ、この私は……」
煮えたぎる悪魔が炎を燃やす。
怒りの炎をくべると、ドンドン燃焼させていく。
底知れない怒りを勝手に向けると、ボッターKリンはある計画を思いつく。
「そうだ。ドーンライト侯爵を殺してしまえばいい。そうすれば、この街を牛耳るのはこの私だ。この私がこの街を支配すれば、有力貴族達も、愚民である市民共も、全てがこの私を見返し、ゴミのように仰ぐことだろう。そうだ、それがいい。そうするか!」
ボッターKリンは計画を練った。
もはやことは一刻を争う。
早速ボッターKリンは、闇の世界の住人と手を組むことにし、残された資金を全て使いこむと、ドーンライト侯爵、否、ドーンライト侯爵家に復讐をすることにした。
ボッターKリンは、ドーンライト侯爵家に招かれていた。
それもこれも計画の内。
ボッターKリンは、ドーンライト侯爵に手紙を送ると、人情に篤いドーンライト侯爵は、多少疑いはしたものの、謁見に寛容だった。
そのおかげか、最近建てたばかりの屋敷に招かれていたのだ。
しかし山の中にある屋敷。
贅肉で太ったボッターKリンには辛く、それだけで怒りが噴き上がる。
「これはボッターKリン伯爵様、本日はよくお越しくださいました」
通された応接室で待機していると、ドーンライト侯爵がやって来た。
日々業務が忙しいのか、顔色は少し悪い。
今すぐにでも計画を実行し、殺してしまいたいが、ここは少し様子を見る。
「なに、気にするでない」
ボッターKリンは、大人な対応を見せる。
それでも、自分が上であることは決して譲らない。
眉間に皺を寄せつつも、ボッターKリンは、冷静だった。
「それで、本日はどのようなご用件で?」
「なに、最近順調そうじゃなと思ったんじゃ」
「はい。こうして新居を構えることができるのも、事業の向上と、街の人達のおかげです」
「そうか、そうか。それはよかったの。ところで……」
「はい、なんでしょうか?」
ボッターKリンは、最後のチャンスをやった。
流石にボッターKリンも鬼ではない。
少しでも温情があるのなら、考えてやらなくもなかった。
「実はの、今少々物言いでな……」
ガチャッ!
途中まで話し出すと、急に扉が開いた。
やって来たのは、ドーンライト侯爵夫人。
この屋敷では使用人の一人でも雇っていないのか、夫人自らが動いていた。
「本日は足元の悪いうちまで、よく来てくださいましたね、ボッターKリン様」
「おお、ドーンライト侯爵夫人。相変わらずお綺麗じゃな」
「ありがとうございます。あっ、紅茶をお持ちしましたので、よければ」
「がーはっはっはっ! これはすまんの。いただくとする」
ボッターKリンは、下劣な笑いを浮かべた。
しかし、ドーンライト侯爵夫妻は、決して嫌な顔をしない。
寛容な素振りを見せると、これは付け入る隙があると、ボッターKリンは、考える。
「それでは私は席を外しますね」
「ああ、その必要は無いぞ。実はの、私は夫妻に用があったんじゃ」
「夫妻にですか?」
「?」
「うむ。実はの……」
今度こそ本題だ。
ボッターKリンは、口火を切ろうとするが、そこで再び扉が開いた。
ガチャッ!
「ただいま帰りました、お父さんお母さん」
そこにやって来たのは、可愛らしい少女だった。
つい視線を釘付けにされるルックス。
愛でていたくなる美しさは、母親譲りなのだろう。
ボッターKリンは、目を丸くすると、現れた少女と、ドーンライト侯爵夫妻を見比べる。
「シルキー。お帰り」
「学校から戻ったんですね。お帰りさない」
「はい、ただいまです。それと、ボッターKリン伯爵様ですね。お初にお目にかかります。私は、シルキー・ドーンライトと言います。本日はお越しいただき、ありがとうございます」
シルキーと名乗った少女は、とても丁寧だった。
ボッターKリンは、瞬きをすると、我に返る。
「ああ、そうかそうであったか。うむ、私は知っての通りボッターKリン伯爵である。ドーンライト侯爵とは、なにかと因縁のような間柄であっての」
「「「因縁?」」」
「お、おっと、なんでもないぞ! うむ、可愛らしい娘さんじゃの。これはいい」
「あ、ありがとうございます?」
シルキーは表情を顰めた。
ギクシャクとした雰囲気に発展。
ボッターKリンは、この気を一変させようと、すぐにでも交渉に移る。
「それではそろそろ本題にの」
「ああ、そうでしたね。シルキー、少し向こうに行っておいで」
「はい、分かりました」
シルキーはそう言うと、丁寧に礼をしてから、部屋を静かに出て行く。
扉をゆっくり最小の音で閉じると、応接室には、ボッターKリンとドーンライト侯爵夫妻だけになった。
この状況はボッターKリンが求めていたものだ。
ニヤリと笑みを浮かべると、ボッターKリンは、商談でも無い商談を始めた。
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