第172話 大事な大事な遺体
グリム達とボッターKリンの間に間が生まれた。
おまけに呪符も解かれていて、明らかに罠の予感がする。
これを単なる休憩時間と受け取るのは、あまりにも早計。
グリムはボッターKリンの思考を読む。
「グリム、さっさと倒しちゃおうよ!」
「待って」
「なんで待つの? 今がチャンスでしょ!? シルキーとシルキーの家族の仇を討たないと」
「それはあくまでも手前だよ。本当の狙いを読み切れないと、この先が詰む。そんな気がするんだよ」
グリムは無暗な行動を控えようとする。
しかしフェスタは我慢できない。
大剣を握り締めると、機敏とはかけ離れた動きで、ボッターKリンに近付く。
「グリム、ちょっと行くね!」
「あっ、待って、フェスタ!?」
「そんなこと言ってる間に、チャンスは逃げちゃうんだよー。今しかないんだから、私にはこの隙しか無いんだからさー」
フェスタはデバフの影響でとんでもない制約を掛けられている。
重量がとんでもない大剣のせいもあり、果敢に攻められない。
これ以上の動きは全身の筋肉を壊す。
そんな気がしたせいか、フェスタは大振りの一撃を放とうとするも、それを見越して、ボッターKリンは呪符を投げた。
「掛かったな、死ねっ!」
「えっ、嘘でしょ、この体勢は……」
フェスタは丁度武器を振り上げていた。
そのせいで、内側ががら空き。
防御しようにも、呪符の方が速く、フェスタの防御は間に合わない。
「D!」
「はい、〈運命の腕輪〉モード:防御!」
Dは攻撃力を全て捨てた。
代わりに〈運命の腕輪〉を飛ばすと、フェスタを守る。
呪符を簡単に弾いてしまうと、流石に価値を確信していた、ボッターKリンも、無い眼球を飛ばした。
「な、な、な、なにが起きた!?」
「ナーイス、D。おかげで助かったよ」
何とかDの防御が間に合ってくれた。
そのおかげか、フェスタは無事。
ただしどちらも攻撃ができなくなると、まともに動けるのはグリムだけになる。
「さてと、こうなってしまった以上は仕方が無いかな」
「くっ、私を本当に倒す気か! バカなことはよせ。そんなことをすれば、後悔するのはお前達だぞ」
「まーた、つまんない脅しー? そういうの、もういいよー」
「フェスタさん、もしかしたら脅しじゃないかも」
「そうだね、Dの言う通りだよ。いつまでも盾に使うってことは、なにか持っているんだね。私達の動きを阻害する、脅しの道具がね」
グリムは常にリードを取る。
〈死神の大鎌〉を突き付けると、ボッターKリンはたじろく。
しかしその手には未だ呪符が握られていて、諦める気は毛頭ない。
むしろここからの勝算を握っているせいか、不敵な笑いを浮かべた。
「がーはっはっはっはっはっ! お前達、どうして私がシルキーと言う娘の家族を殺したか、分かっているのか!?」
「ん? 邪魔になったとかかな」
「なっ、そんな簡単な話ではない! あの家は、あのクソ侯爵貴族は、ドーンライト家は私の計画を潰した。私に浴びせられる、金にもならない貧民達からの、高貴な目を奪った。金にもならない貧民を助け、貴族相手にも良い顔をして、私の顔に泥を塗るまでした。おまけに、本来であれば私が君臨する筈だったこの街の権利さえ……その報いを晴らすため、この私は最高の計画を用意した。そう、素晴らしい呪殺計画をな!」
切羽詰まったせいか、ボッターKリンは、淡々と自分の罪を明かした。
しかしグリム達は聞いて呆れるくらい、クズな伯爵貴族に、まるで寛容にはなれない。
ましてや怒りの方が沸き上がると、情状酌量の余地さえない。
「自分の過去をひけらかしても意味が無い。大体、他者を見下すような真似をして、それで誰かを従わせようなんて無理だよ。それも分からなかったかな?」
「うるさい! 私に口答えをするな」
「冷静な思考は戦闘だけか。そんな貴族に、爵位なんてもったいないね。おまけに政治ができるともとても思えない。ただ力を振りかざすために成り上がった貴族には、なんの価値も無いよ」
「くっ、言わせておけば……」
急遽始まった口喧嘩バトルも、余裕でグリムは勝利する。
ぐぬぬと顔色が悪くなると、風向きさえ分からなくなってしまった。
そのせいか、ペラペラと語った動機も薄っぺらで、最後の手段にさえ手を伸ばした。
「私をバカにするのもいい加減にしろ!」
「「いや、バカにされるでしょ」されると思います」
「くっ、これを見ても、そんな態度が続けられるのか!」
ボッターKリンはそう言うと、呪符を放り投げた。
すると暗闇だった部屋の中がぼんやりと明るくなる。
同時に、部屋の奥に設置されている奇妙な横長の台が浮かび上がった。
「アレは……」
「誰か寝てる? しかも周りに蝋燭がたくさん立ってるよ!」
「まるで、なにかの儀式みたいだね。ん、儀式?」
勘の良いグリムは最悪を予見した。
ボッターKリンも不敵な笑みを浮かべている。
ここまでの憐れな態度が何処へやら、吹っ切れたように活気になる。
「そう、その通り。お前の予想通りだ、これは儀式、そう崇高なる、私が再びこの地に蘇るための、崇高なる儀式なのだよ。がーはっはっはっはっはっ!!」
ボッターKリンは高笑いをしていた。
明らかに目の前にある台は何かの儀式をしそうだ。
しかも蝋燭がより一層引き立てている。
しかし問題は、台の上に置かれているものだ。
明らかにその形は“人間”。
儀式のためにマネキンを使うとは思えず、そこでグリムは点と点が結ばれる。
「ボッターKリン、まさかその台に置かれているのは……」
「がーはっはっはっはっはっ! 分かっているではないか。そうだ、この台に置かれているのは、お前達の絶対に攻撃できない娘だからな」
ボッターKリンの言う通りだった。
確かに攻撃ができない。
何故なら、台の上に置かれているのは、シルキーの体だからだ。
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