第171話 攻撃が無意味?

 グリムの言葉に戦慄が走った。

 フェスタとDの視線が巡る。

 もちろんボッターKリンも、眼球の無い瞳を向けた。


「ちょっとグリム、今のなに? どういうこと?」

「そうですよ、グリムさん。そんな突拍子も無いこと、本当にある訳……」

「そう思う? だとすれば、シルキーはなんで恐れて、今もラップ音さえ立てないのかな?」

「「それは……」」


 フェスタとDは言葉を失う。

 言えば言う程、グリムのペースに嵌って行く。

 しかし、どれもこれも、証拠は無い。

 グリムの頭の中だけで完結しており、今だ確証は無いのだが、ボッターKリンは骨の手で拍手する。


 カチカチカチカチ!


「なんのつもりかな?」

「なかなかの洞察力に推察力だな」

「ってことは、認めるんだね。貴方がシルキー達家族を殺したって」

「ふん、だとすればなんだ? 今の私を裁くものなどしない。むしろ裁くことさえできない。この事実を知る者は、お前達の他には誰もいない。そう、全ては私の手の中で転がされているも同然なのだ。がーはっはっはっはっはっ!」


 またしても笑い出した。

 しかも高笑いが止まらない。

 完全にグリム達をNPCとでも思っているのか、バカなAIが搭載されているとしか思えない。ここでグリム達を倒したとして、その事実はこの世界では明るみになり、ましてや既に骸骨と化したボッターKリンを裁くことなんてできないのだと、グリムは歯切れが悪くて仕方がない。


「笑っていられるのは今の内だよ。どんな理由であれ、私は貴方を倒す」

「私じゃないよ、グリム。私達!」

「フェスタ、D……そうだね」

「はっ、できるものならやってみるといい。この私の呪符の前に、お前達では勝ち目が無いと言うことを思い知れ。そう、あのバカなドーンライトのようにな!」


 その声に反応し、グリムとフェスタは飛び出す。

 もちろんDは後方支援だ。

 魔法を唱える用意をすると、強烈な光が迸る。


「【光属性魔法(小):ライト】!」


 背後から眩い光が起き、視界を塞ぐ。

 とは言え、ボッターKリンは気にしない。

 何故なら眼球が無く、そもそもの話、何を見ているのかさえ、分からなかった。


「その程度の攻撃が、私に通用すると思うな!」

「そうだね。これはあくまでも補助だ」


 ボッターKリンはお札を投げようとした。

 その瞬間、脇にはグリムの姿がある。

 視線を切られると、グリムの手にしている武器が見えなかった。


「本当の狙いはこれだよ!」


 シュパン!


 グリムの振り抜いた〈死神の大鎌〉はボッターKリンに直撃。

 刃の部分は光に隠され、攻撃されるまで見えない仕様。

 これこそが連携。なのだが、ボッターKリンは倒れない。


「ふん、その程度、私にはなんでもないわ!」

「だろうね。それじゃあ次だよ」

「次だと?」

「そらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 今度はフェスタが背後から攻撃する。

 重たい〈戦車の大剣槍〉の一撃が放たれる。

 流石にこれを喰らえば、骨の一本は折れる筈。

 なのだが、そうも簡単には行かないらしい。


「甘いわ!」

「またお札!?」


 ボッターKリンは素早く札を投げた。

 これこそ呪符による攻撃。

 フェスタの顔に貼り付こうとすると、気を取られて避ける。


「おっとっと!?」

「ふん、避けた所で」

「させないよ」


 ボッターKリンは続けざまにお札=呪符を飛ばそうとする。

 しかしグリムの手によって弾かれる。


「チッ。つくづく面倒な!」

「それはどうも。それっ!」


 グリムは〈死神の大鎌〉を振り下ろした。

 この距離だ。確実に当たる。

 しかしボッターKリンの腕骨に鎌の刃が当たった瞬間、本来断ち切れる筈が、全く断ち切れてくれない。それどころか、頑丈すぎる上に、呪符を投げつけた。


「甘いわ。この程度で敗れる私ではない!」

「そうだとしても、私達の方が優勢だよー」

「今はそうだね。だけど油断はしない。はっ!」

「だよねー、それっ!」


 グリムとフェスタの攻撃が炸裂する。

 連携攻撃を繰り出すと、ボッターKリンに今度こそダメージを与えられた筈だ。

 しかしそれは違った。ボッターKリンは、大量の呪符を展開すると、グリムとフェスタの攻撃を受け止めた。


「「はっ!?」」

「くっ、これだけの呪符を消費させられるとは。やはり、貧民達にも甘い、ドーンライトの人間とは訳が違うな」

「ドーンライト、ドーンライトって、それはシルキー達のことだね」

「ああ、そうだ!」

「訂正して貰うよ。シルキー達家族を殺した償いを果たしてもらうからね」


 そう言うと、グリムは大鎌を振り抜く。

 ボッターKリンの展開した呪符の合間を縫うように、刃をすり抜けさせる。

 確実に倒すには、首を狙うのが一番だ。


「それっ!」

「私を殺していいのか?」

「えっ?」


 何を言っているんだ。

 完全に負け惜しみ、もはや命乞いにしか思えない。

 普通ならそう捉えるのだが、グリムは更に先を読む。


「裏があるね」

「はいいっ!? グリム、さっさとやっちゃってよ!」

「私を殺せば、後悔するのはお前達だ。お前達の叫ぶ、シルキーが、どうなってもよいのか!?」


 ボッターKリンは変なことを言った。

 その言葉の真意は分からない。

 けれど、グリムの神経を震わせる違和感に、額に皺を寄せるしかない。

 ただそれだけで刃を引くと、呪符も解かれ、一瞬の間が生まれるのだった。

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