第127話 六日目はバトル三昧1

「そらぁ!」


 男性はブーメランを投げつけた。

 もちろんただのブーメランではなく、金属製の刃が付いている。

 多分当たれば相当のダメージが襲い掛かる筈で、グリムは大鎌を使って素早く叩いた。まずは威力を殺して形勢を整える。


「甘いよ。その程度の攻撃、私が止められない訳がない」


 〈死神の大鎌〉を取り出すと、ブーメランを上から叩いた。

 コツン! と一発入れると、ブーメランは力なく地面に落ちる。

 ブーメラン男性の手元に帰ることも無く、非常にマズい状況に陥らせた。


「やっば! そんなの聞いてねぇっての!」

「そうだろうね。でもこのくらい遠距離武器を使うなら対策しているよね?」

「けっ! 当ったり前だろ!」


 グリムは挑発半分でブーメラン男性を煽った。

 すると癇癪を起すわけでもなく、ブーメラン男性は投げナイフに切り替える。

 直線的な動きでグリムを付け狙うと、再び格好の的になる。


「悪いけど、見えている攻撃を受ける気は無いんだ。それっ!」

「そこだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 グリムは投げナイフも殺してしまおうとした。

 大鎌を振り上げ、投げナイフを絡め取る。そうしたかったのだが、ブーメラン男性は更に前に出た。手には鋭い長剣を持ち、グリムの懐へと飛び込んだのだ。


「嘘? 三段構えは想定済みだけど、これは……」


 あまりにも単調な戦い方だった。

 もっと作戦を練っているのかと思ったが、如何やらそんな真似はしていないらしい。

 気持ちの良いくらい普通で、真っ向勝負を望んでいた。唯一違っていたのは、ここまでの経緯が奇襲だけで、グリムは拍子抜けする。


「もっと細かな戦略でも練っているのかと思ったよ」


 カキーン!


 大鎌と長剣がぶつかり合う。カキーンと甲高い金切り音を上げ、火花を上げる勢い。

 下から突き上げるダリアに対し、ブーメラン男性は上から体重を乗せる。

 状況的にはグリムが不利だが、それすら鑑みて対処した。


「でも面白いよ。真っ向勝負は気持ちがいい!」


 グリムは半歩下がって攻撃の間合いから外れる。

 長剣にかかる負荷がほんの少しだけ軽減したことで、ブーメラン男性は体勢を微妙に崩す。その瞬間隙が生まれた。グリムは攻撃を叩き込もうと踏み込むと、ブーメラン男性は投げナイフを飛ばす。


「まだまだやれるぜ!」


 グリムは投げナイフを捌くため、一瞬思考が停止する。

 目の前の投げナイフは完全に乱雑で、当てる気があるのかさえ真偽不明。

 しかし対処はした方が良い。そう思わせてくれるので、大鎌で弾こうとするも、それすらがミスになる。


「掛かったな! そらぁ」


 ブーメラン男性はグリムが防御することを呼んでいた。否、賭けていたのだ。

 その隙に視界から一瞬だけ外れると、落ちていたブーメランを取り返す。

 これで本領発揮。遠距離から仕切り直しだとばかりに、一気に三十メートルは離れると、ブーメランを投げつけ、グリムの首から上を狙い即死判定を誘う。


「ここまで計算したんだ。流石に無策って訳じゃなかったのかな?」

「当ったり前だろ! ここからは俺の番だ。俺のパッションが勝つ番だぜ!」

「パッション? それは作戦じゃない気も……まあいいか」


 グリムはブーメラン男性の言葉一つ一つに首を捻る。

 しかしそんな暇は残っていない。ブーメランが空気を切り裂き抵抗を失って飛んでくる。

 当たれば確実に終わる。けれどそれはブーメランでなければの話で、ブーメランは何処まで行ってもブーメランだ。


「悪いけど、私は負けないよ。そのブーメランも当たらないからね」

「なっ!?」


 グリムはブーメラン男性同じく三十メートル程後ろに下がる。

 するとブーメランは軌道はそのまま、しかし折り返し地点に来てしまい、ブーメラン男性の手元に戻ろうとする。ブーメランは結局戻って来てしまう。つまり、折り返し地点さえ外れていれば、攻撃が当たることは永遠に無いのだ。


「し、しまったぁ!」

「面白い作戦だけど、私には通用しないよ。それじゃあ、終わりにしようか」


 グリムはブーメランが回収される前に叩くことにした。

 素早く距離を詰め始めると、ブーメラン男性は投げナイフで牽制する。

 しかしそんな攻撃はもう通用するはずもなく、カキンカキンとグリムは弾く。

 息絶えた虫のように地面に落ちて息を殺すと、ブーメラン男性は長剣を構えようとした。それすらグリムには届かないと解っているはずなのに。


「こんな武器使っても俺らしくない! だったら……」


 ブーメラン男性は謎の覚悟を決めた。前を向き、グリムのことを視界に捉えると急に走り出す。狙いはブーメランの回収で、ここからは近接戦。最後の一撃を与えた方が勝者となる。


「真っ向勝負で最後は締めるんだね。面白い……でも、その前に私の方が勝つよ!」

「負けるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 ブーメラン男性は手を伸ばした。ブーメランが手元に帰る。これなら打ち勝てる。

 そんなビジョンを脳裏に浮かべると、指先がブーメランに触れ、後は遠心力で叩く。

 そう決めて体を捻るが、その瞬間こと切れた人形のように体の自由が奪われた。


 振り上げられた大鎌が見える。首筋にヒヤリと降れる。

 命を奪われる音。胸を騒ぐ鼓動。これが《死神》だと思い知らされた。


「私の勝ちだよ」


 その言葉と共にブーメラン男性は地面に伏せた。

 首をやられ、痛みが走る前に、認識する前に敗れた。

 勝利は一瞬の差。ブーメラン男性がブーメランを取り戻すために走った時点で決まっていたのだ。

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