第68話 ゾンビの群れを殲滅する

 グリムとフェスタは各々が各個撃破に当たる。

 押し寄せるゾンビの群れは勢いを増す。

 波のように押し寄せて、とてつもない異様な臭いを放ちながら、鼻の奥がひん曲がりそうになっていた。けれど今となればその臭いにも慣れてしまった。おかげか、ゾンビの体液を喰らってもまるで気にならない。


「そらぁ!」

「せーのっ! おらぁ」


 グリムは〈死神の大鎌〉でゾンビ達を引き裂いていく。

 フェスタも膝をちゃんと使って〈戦車の大剣槍〉を振り下ろす。

 お互いがかなりの距離を取りながら、バリアの中で動けない少女を守った。


「凄い……」


 少女はか細い声でグリムとフェスタの戦いぶりを讃えた。

 動けない自分の代わりに戦い続ける雄姿に惚れ惚れする。


「感心している場合じゃないんだけどね」

「そうだよねー。おらぁ!」

「早く終わってくれないと困るかな」


 正直これ以上戦闘が長引くとなると、ゾンビの群れを押し返せなくなる。

 圧倒的な数が続けざまに押し寄せる。

 少しずつ後退を余儀なくされ、グリムとフェスタは厳しい状況に立たされる。


「フェスタ、どのくらい続くと思う?」

「うーん。まさか永遠とか?」

「それだけは止めてほしいな」


 正直にグリムは願った。後どのくらいで終わるのか。ゾンビの群れを切り裂きながら、バリアの方に寄って行く。

 苦汁をなめるグリム。額の汗を拭き取ると、視界の端にタイマーが出た。

 かと思えば全員に表示されているようで、5:00と出ている。もしかしたら残り五分かもしれない。


「あと五分みたいだね」

「だってー。それじゃあ最後の一踏ん張りを……嘘でしょ!」


 フェスタはドン引きした。ゾンビの進行速度が上がっていた。

 瞬き厳禁で、少しでも止まれば押し返される。

 このままじゃマズい。グリムは【観察眼】で隙を見つける。


「フェスタ、十一時の方向!」

「十一時……こっちね、な、なにあれ?」


 フェスタの視線の先。そこには一匹だけ普通サイズではないゾンビが居た。

 大体1.5倍サイズで、腐食具合が少しだけ激しい。

 如何やらこの群れを率いている中ボス格のゾンビのようで、あれを叩けば少しは侵攻速度も収まるはずだ。


「フェスタ、デカいのは任せたよ」

「OK。それじゃあ残りはグリムがやるんだよねー」

「ある程度はね。それじゃあやろうよ」


 フェスタは中ボス格のゾンビを一人で迎え撃つ。

 その間はグリムが一人で攻防を担うことになった。

 あまりにも無謀。少女も少しだけ会話が聞こえ、素早く反論した。


「ダメですよ。そんなことをしたら、貴女が死んでしまいます!」

「大丈夫。私は死なないよ。絶対に負けない、ただそれだけだから」

「あはは、グリムらしいねー。それじゃあ……」


 お互いにパン! とハイタッチを交わした。

 それから反対側に互いに走り抜け、各々がやるべきことを全うする。

 まずはフェスタが中ボス格のゾンビに果敢に攻め込む。もはや容赦はなく、肘と膝がぶっ壊れそうになる。【納剣】と【抜剣】を組み合わせ、最初の一撃を放った。


「そらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 しっかり頭にクリンヒット。真っ二つにした。だけど脅威の再生力と行ったら良いのか、折角頭を潰したのにまた立ち上がる。

 フェスタは「嘘だー」と泣き言を言った。

 けれど諦める気は全く無く、大剣槍を始めて槍モードに変形させる。


「私さー、槍はあまり使いたくないんだよねー。この動き、苦手なんだよー」


 フェスタは振り下ろすことに特化した戦い方をしている。

 だからだろうか。槍を突き出す動きはもの凄く鈍い。

 腕に痛みと重みが走り抜け、膝に掛かる負担がとてつもない。


「重い。痛い。でもやるしかないよねー!」


 腰を落とした。一気に下げた足を前に踏み込む。

 このままじゃマズい。一撃で決めないと何度も再生される。

 正直に言えば打開の最前線。最高の一撃を放てるスキル何て全くない。

 だったらやることは決まっている。フェスタはにやけ顔を浮かべながら、思いっきり槍を突き出す。


「そらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 邪魔立てする他のゾンビの群れはまとめて振り払う。

 襲って来るなら好都合と言いたげに、次から次へと倒していく。

 そうして槍の先端が中ボス格のゾンビの腹に触れた。後はやることは決まっている。

 そのまま押し込み、慣性を付けて思いっきり貫いた。


「はっ!」


 全身に体液を浴びる。気持ち悪いし汚い。

 ベトベトで三角コーナーの生ごみを被ったような不快感に苛まれるが、しっかりと風穴を開けることに成功した。


「ふぅ。とりあえず私の役目はOKかなー?」


 周りを見ればほんの少しだけだが侵攻速度に緩みが出た。

 ゾンビの数も何処となく減っている。

 この調子なら残り時間まで引っ張られるかも。最後の一踏ん張りとばかりに大剣を構えるフェスタだったが、苦い表情を浮かべた。


「うっ、膝が痛い……」


 ここに来て〈戦車の大剣槍〉のデバフが来た。

 呪いのアイテムの真骨頂と言うべきか、騙し騙しが通用せず、動けなくなってしまった。


(早くなんとかしてグリム……)


 信頼できる相棒に残りは託す。

 自分の周りのゾンビを切り裂くだけになったフェスタは、時間が経つことに意識を駆られた。

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