第67話 助けに行くのが主人公らしい
グリムとフェスタはゾンビ達に追い詰められる少女を眼下に覗き込んでいた。
波のように押し寄せ、今にも押し潰されそうだ。
このままじゃマズい。そう思ったグリムは唇を噛むと、立ち上がってフェスタに伝えた。
「フェスタ、助けに行くよ」
「助けに行くのー? あの数だよー?」
「やるしかないでしょ。助けに行かずに見過ごしたとなれば、後で運営に怒られるかもしれないし、それになにより私が助けに行きたい」
大鎌を振り上げて、正直な気持ちを吐露する。
するとフェスタは半月状の眼を見せる。
「お人好しだなー」
「行くの? 行かないの? 決めるなら三秒以内でお願いできるかな?」
「もちろん行くに決まっているでしょー。私、そんな風に逃げる性格じゃないからねー」
「分かってた。行くよ!」
「OK」
グリムとフェスタは助けに行くことを決めた。
ここから回り道をして降りていたら絶対に間に合わない。
ましてやゾンビ達を背後から奇襲したとして、この波の陣をそう何度も掻い潜れる自信はない。なのでここは強行突破だ。ゾンビを全部倒せなくても、ゲリライベントなら時間制限で終わる。一縷の望みに賭け、二人は崖から命知らずにもダイブした。
「「そらぁ!」」
二人は宙に舞った。否、宙から落ちて来た。
この状態じゃ当然受け身は取れない。
だからゾンビ達に捨て身で激突し、威力を殺して即死を免れる。
「「そこだぁ!」」
丁度よくゾンビの上に落ちそうだ。
各々が大鎌と大剣を取り出すと、まるでスキーの板のように下に噛ませる形でゾンビを踏み潰す。
ズドーン!!
とんでもない轟音が響き渡った。
耳の奥まで劈いて、風圧と衝撃波で少しHP削れる。
けれどゾンビ達は何匹は倒せた。塵となり、経験値には変わらないが葬れた。
代わりに視線を集めてしまい、注意を集めてしまう。
「とりあえず速氏は回避したね」
「うんうん。でもさー、マズい状況は変わらなくない?」
「そうだね。だからとりあえず」
「あの子までの退路を確保しないとねー。そらぁ!」
フェスタは開幕で大剣を振り抜いた。
一匹のゾンビが見るも無残な姿に変貌すると、グリムも短く持った大鎌で集まるゾンビ達を薙ぎ払う。
スパスパと切り裂いていき、少しずつだが数を減らす。
けれどあまりの多さに数の減りが分からない。けれど少女のバリアが残っているから、まだやられていないことは確認した。とりあえず倒しながらゆっくり近づく。
「せーのっ!」
「そらぁ、そらぁ、せいやっ!」
フェスタがゾンビを真っ二つにするのに対し、グリムは細かい応銭だった。
そうこうしているうちに少女のか細い声が聴こえる。
「数が減って……」とよく分からない状況にテンパっていた。
「無事そうで良かったよ。おっ、開けたね」
グリムはゾンビを切り裂いた。
するとバリアの中に居る少女を見つけた。
両手を前に出し、バリアを展開している。おかげでゾンビを寄せ付けない。
代わりにバリアのせいで攻撃ができない。
一長一短のスキルか武器のせいで、その場でしゃがみ込んで動けなくなっていた。可哀そうだと率直に思う。
「大丈夫? 怪我はしてない?」
「えっ、だ、誰ですか!?」
「そんなの今は如何でも良いよ。少なくとも、貴女を助けに来お人好しってだけかな」
そう答えると、ゾンビを一匹切り裂いた。
大鎌を振り上げ、波のように押し寄せるゾンビ達を無抵抗で倒しまくる。
さらにゾンビの群れの中からフェスタは飛び出し、大剣で叩きのめした。
「ふぅ。結構中の方は片づけたよー」
「お疲れ様フェスタ。だけどまだまだ数ははいるよ」
「そっかー。って、無事だったんだね。良かった良かった」
「あ、貴女は?」
「その子の知り合い。それじゃあグリム、もういっちょやろっかー」
「分かってる。あっ、ちなみにこのバリアは後どのくらい保つのかな?」
グリムは少女に尋ねた。
すると少女は額や頬から汗を流している。
もしかしたらかなり疲れているのかもしれない。そう思い、そう長くは保たないことを予期した。
「分かった。それじゃあ私達ができる限り前に出るから、貴女はここから出ないでね」
「えっ!? それじゃあ危ないですよ」
「分かってるよ。だけど前に出ないといけないことだってある。安心して、私達は負けないから」
「そうそうー。グリムが負けないってことは、私達も負けないってことだよー。だからドーンと構えて置いて!」
「そう言うこと。どんな困難も乗り越えられる。そう思った方が楽しいよ」
グリムはそう言うと、少女のバリアを突破しようとするゾンビを倒した。
もはや強行突破を始めようとしている。
これはマズい。由々しき事態だと早急に判断し、グリムとフェスタはアイコンタクトを送り合う。
「「それじゃあゾンビ退治を終わらせようかな」」
二人はゾンビの群れに飛び出した。
まずは一列。ゆっくり解体していき、波を止めることを決めた。
その背中は凄まじく、少女は何処からか来る高揚感に馳せた。
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