第69話 タイムアップまで粘る
フェスタに中ボス格のゾンビは任せた。
となるとグリムが残りを足止めする。
正直難しい。けれど任せた以上はグリムも頑張るしかない。
「さあ、私も頑張ろうかな」
〈死神の大鎌〉を振り上げて、まるで踊るようにゾンビ達を切り裂いて回る。
一撃で一匹倒す。バタンと仰向けで倒れていくと、そこからドミノ倒し式に倒れていく。
おかげで一匹倒すだけで、何匹もまとめて倒せてかなり楽だった。
「カッコいいです」
「ありがとう。だけどそう長くは無理だよ。ちなみに時間は……まだ三分あるんだ」
残りは三分を切っていた。
だけど逆に考えれば三分もある。
果たして一人で持ち堪えられるだろうか? 否、持ち堪えないといけない。
「しょうがない。少しテンポを上げて行こう」
グリムはゾンビの群れに囲まれながらも、回転切りで一掃する。
空間を開けると、バリアの近くまで戻った。
ここでやり合った方が良い。そう思ったのも束の間。
バリアを張っていた少女は荒い息遣いになり、その瞬間バリアが薄まる。
「あれ? バリアが薄まってるよね?」
「すみません。実は、もう……〈運命〉の力が……」
〈運命〉の力? 一体何を言っているのか分からない。
けれど時間が無いことだけは確かで、徐々にバリアの範囲が狭まっている。
それこそ効果も減り続け、実質一分で一分前の効果を失っていた。
「このバリアは張れても……五分が限界……」
そこまで言ったところでバリアが解けてしまった。
一気に波のように食い止められていたゾンビが襲い掛かる。
まだ二分はある。如何する。このまま戦ってもジリ貧だ。ましてや少女は飲み込まれかける。
(考えろ。考えろ私。こういう時はなにをしたらいい……うん、決まってる)
私は負けないと言った。
負けないとはすなわち勝つことではない。
このイベントの真意は“生き残ること”だ。ならば戦わなくてもいい。
私はそのことにハッとなると、大鎌を背中に隠し、少女の下まで駆け寄った。
「疲れているところ悪いけど、ちょっと良いかな?」
「な、なんですか!」
「私の手に掴まってくれるかな?」
グリムは少女に手を伸ばした。
すると少女は一瞬戸惑う。
けれど差し出された手にからはグリムの優しさと想いが伝わってきて、少女は最後迷わず手を取った。ギュッと固く握られると、グリムは少女を傍まで引き寄せ、顔が近くに触れる。
「えっ!?」
「しっかり掴まっててね」
グリムは少女を抱きかかえると、背後にそびえる崖に飛び移った。
「よっと!」
「きゃっ!」
空いた腕を伸ばして崖からはみ出た小さな岩の片を掴む。
完全に命綱無しのロッククライミング状態で、少女は不安で一杯になり、目をギュッと瞑っていた。
腕が震え、グリムの服を破けるんじゃないかと言う勢いで掴んでいる。
「こ、怖いです……」
「あはは、怖いよね。でも大丈夫だよ」
「ど、どうしてそんなことが……下にはゾンビがいるんですよ!」
「どうして? そんなの決まっているよ」
グリムはそっと少女に語り掛ける。
薄っすらと目を開けて、少女はグリムの瞳を見た。
赤い瞳が爛々として美しい。まるで吸い込まれてしまいそうになり、ポッと顔が温かくなる。
「私は負けないし、私の直感はどんな困難よりも優先されるから」
何を言っているのかよく分からなかった。
理解しようとした少女だが、理解が理解の先を行ってしまう。
完全に置いて行かれてしまい、頭の中で一周する。
(訳が分からない……でも、なんだか温かい)
少女の鼓動がバクバクと高鳴っていた。
グリムに引き寄せられてしまい、顔が真っ赤になる。
一体この衝動は何なのか。そうこうしているうちに、時間が経っていた。
カチッ!
「「ん?」」
グリムと少女は顔を上げた。
見上げてみると最初は残り5:00と表示されていたタイマーが0:00と表示されている。
もしかして終わった? そう思って眼下を覗けば、あれだけ大量に押し寄せていたゾンビの群れが無くなり、波が静観としていた。完全な凪が起こり、如何やら耐えきったらしい。
「無事にゾンビの群れを掻い潜れたね」
「はい。ふぅ、良かったです」
少女はホッと一息ついた。
グリムはその間に下りても大丈夫なことを把握する。
小さくだがフェスタの無事な姿もある。崖から飛び降りると、受け身を取って着地した。
「グリムー」
「フェスタお疲れ。ちゃんと倒してくれたんだね」
「もっちろーん。グリムの方は……なにやってるの?」
「うん、なにやってるんだろうね」
少女は何故か離れてくれなかった。
グリムに抱きついているのが安心するのか、二人は困り顔で頭を悩ませるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます