第64話 赤茶山の暗雲

 グリムとフェスタは赤茶山にやって来た。

 ここには目的の赤砂がたくさんあるらしい。

 ピジョンに渡された頼もしい? 道具を胸に早速作業を始める。


「やっと着いたねー」

「そうだね。歩くと結構距離があるから、次からはポータルを使おうか」

「OK。登録登録っと」


 まずはポータルを登録した。

 これでいつでも赤茶山に来ることができる。

 グリムとフェスタは最悪の二週目を想定の上、インベントリの中から道具を取り出した。


「それじゃあこの山を登りながら、赤砂を採って行こうか」

「まあ、赤砂がどれか分からないもんねー」

「そう言うこと。袋の中に目ぼしいものを入れて行こうか」

「それじゃあ早速……」


 フェスタは手にしたシャベルを地面に突き刺した。

 グサッと砂の上に突き刺さり、一気に引き抜くと、用意していた土嚢袋に詰め込んだ。

 一度で大量に赤砂が入ったおかげか、土嚢袋が重たい。

 中を覗き込んでみると、赤い砂の中にゴロゴロと宝石が入っていた。


「この宝石なに?」

「ガーネットだね」

「ガーネット? それって宝石じゃなかったっけ?」

「そうだよ。だけどどうしてガーネットがあるのは分からないけどね」


 とは言え、ここにガーネットがあるということは、きっと何か意味がある。

 もしかするとこのガーネットを使って研磨剤にでもするんじゃないかな。

 グリムはそんなことを思いつつ、フェスタと共に山を登った。


「この辺が頂上かな?」

「だろうねー。うーん、綺麗な景色ー」


 グリムとフェスタは赤茶山の頂上までやって来た。

 ここまで大体三十分。大量に砂を集めたが、その中にはガーネットがたくさん入っていた。

 もしかしたらこの山の狙いはガーネットを手に入れること。

 ピジョンの欲しかったものはガーネットなのだ。


「ここまでで土嚢袋の数は五個。たくさん赤砂も手には入ったから、もう帰っても良いんだけどね」

「でもさー。それじゃあつまんなくなーい?」

「そうだね。確かにここまでなにも起きてないかな?」

「起きてないよー。あーあ、なにかモンスターでも……およ?」


 フェスタは空を見つめていた。

 今日は欲空を見る日だと思ったのも束の間。

 グリムも視線を釘付けにされる。

 突然空模様が変化し、色が赤黒くなっていた。


「ねえねえグリムー。あの空って変じゃない?」

「変だよ。かなり変だね。夕陽でもないのにこんな色合いになるのは良くないと思うよ」


 それこそ例えるなら天変地異の前触れ。そう思っても不思議じゃない。

 空の色が突然赤黒い雲に覆われて変化したかと思うと、気分がドンドン暗く落ちて行き、いかにも何か起きそうな状況が整う。


「もしかして私達なにかしたのかなー?」

「なにかってなにかな?」

「例えばフラグとか。ほらー、この山の赤砂を採っちゃダメとか、そんなところだよー」


 可能性はゼロではなかった。けれどそれを知っていた上でピジョンが依頼書を出すとは思えない。

 もしそうなら後で評判がガタ落ちする。閑古鳥が余計に鳴き始め、そのうちデンショバトはお休みするかもしれない。

 あり得ない。ピジョンに限ってそんな真似するとは思えない。

 グリムは思考を混ぜ繰り回していると、突然周囲から異様な気配を感じ取った。


「はっ!」


 丁度背後から。何かがこっちにやって来る。

 耳を澄ませてみると人が歩くにしてはやけ鈍くて重苦しい。

 まるでグリムとフェスタに引き寄せられているみたいで気味が悪い。


「フェスタ、警戒した方が良いよ。なにか来る」

「今度はモンスター? あー、やっぱりフラグを踏んだんだー」


 落ち込むフェスタ。肩からガックシ崩れる。

 けれどグリムは「なに言ってるの?」とフェスタを励ました。

 これはフェスタが望んだ景色だ。今更言っても遅いと伝える。


「フェスタの待ってたモンスターとの邂逅だよ? 楽しまないと損でしょ?」

「むー。グリムは意地悪だなー」

「私は別に戦いたいわけじゃなかったよ。だけどこうなった以上は頑張らないとダメだね」

「私はー……戦いたかったかも。はぁ、ふぅ、良し。行ってみよう!」


 フェスタは観念した。〈戦車の大剣槍〉を膝に落として構えると、何処からでもかかって来いと自分を鼓舞し、近寄りがたい空気を展開した。

 おかげで他のモンスターはやって来ない。これも修業の末に手に入れたスキル【威圧】の力だ。


「グリム、これで行けるよねー?」

「どうだろう。少なくとも私達の方に近付いてくる足音は増えているよ。もうすぐやって来る」

「さてと、それじゃあ今のうちに準備運動をっと……はっ?」


 赤茶山を登って来る姿の分からないモンスター。

 喉の奥を流れる唾液が詰まりそうになる。

 グリムとフェスタは息を殺した。今か今かと待ちわびていると、ようやくモンスターはその姿を現すが、二人には少し意外だった。


「「あれ?」」


 やって来たのは人型モンスター。

 だけど何処かおかしい。全身が腐っていた・・・・・・・・

 まさかこんなところで出て来るなんて。二人は一瞬固まってフリーズするが、紛れもなくそれはあのモンスターだった。


「アレってゾンビだよね?」

「うん。服は着ているし、異臭も放っている? 紛れもなくゾンビだよ」


 その姿は誰が如何見てもゾンビだった。

 ボロボロの服に強烈な異臭。正直近付いて欲しくない。

 まさかこの空模様と関係が? などと考察を働かせる暇は無い。

 とりあえず今はこのゾンビを仕留めよう。そう思って前に出ると、二人の視界の文字がポップする。



〔“ゲリライベント” ゾンビ・パーティー開催〕

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