第63話 突然空が暗くなって・・・
グリムはフェスタと一緒にプレイヤー個人が営業するアイテム屋デンショバトに足を運んでいた。
今日も中は閑古鳥が鳴いていて、全くと言っていいほど人が居ない。
つまり客がゼロな状況で、グリムは店主のピジョンに声を掛ける。
「ピジョン。こんにちは」
「あっ、グリムさんとフェスタさん。いらっしゃい」
「どうもー。今日も空いてるねー」
「フェスタ、失礼だよ」
「あはは、ごめんなさーい」
グリムはフェスタを叱った。
確かに店は空いているけれど、本人の前で言って欲しくない。
ピジョンは表情を変えないでいてくれているが、何処か曇っていた。とても空気が悪く、そそくさと話を進める。
「あの、ピジョンさんですよね。この依頼を出したの」
グリムはギルド会館で受けて来た依頼を見せた。
するとピジョンはパン! と手を合わせる。
目がキラキラし始め、信頼強めの色を見せた。
「あっ、グリムさん達が引き受けてくれるんですか。これは心強いですね!」
「あはは、流石はグリムだねー。頼られてるねー」
フェスタがグリムを茶化し始める。鋭い眼光に加えて力強い目力の前にフェスタは圧倒された。
特に怒ってはいない。だけどグリムが少しだけ強めに睨んだら、フェスタは委縮してしまった。
昔からのことなのにこれは酷い。内心グリムは傷付いた。
「フェスタ、そう言うの良くないよ。嫌いな人もいるんだから」
「お、怒ってない?」
「私はそれくらいのことになら肝要だよ。もう少し強めなら……分かるよね?」
「あっ、はい。ごめんなさい、です!」
フェスタは完全にビビってしまった。
ちょっと詰めただけなのに、フェスタも案外可愛い。
そうこうしていると空気が自然とまろやかになることもなく、むしろドンドン重くなっていた。話を進めようと、コホンと咳払いをする。
「それでピジョン。今回の依頼だけど……」
「はい。実はまた鉱石が必要で……」
「鉱石? 鉄鉱石で良いのかな?」
「いえ、今回欲しいのは赤砂石なんです」
「「赤砂石?」」
聴いたことがなかった。
グリムとフェスタが首を傾げると、ピジョンは教えてくれた。
「赤砂石とは、いわゆる研磨剤ですよ」
「研磨剤? なにを研磨するのかな」
「それは……まあ場合によりますよね」
「場合による……難しい表現ですね」
何にでも使える超万能ワードだった。
だからだろうか。グリムもフェスタも渋い表情を浮かべる。
しかし依頼を受けた以上はやらないといけない。グリムとフェスタはピジョンに赤砂石の在処を尋ねた。
「ピジョン。赤砂石は何処にあるの?」
「そうですね。ここからですと、北西に少し行った場所にある赤茶山ですね」
「「赤茶山?」」
あまりにも適当に付けたネーミングセンスだった。
おまけに難癖を付けるなら、あまりにも日本風味が強く出ている。
きっと運営に日本大好きな人が居るに違いない。簡単にそこまで予測が立てられた。
「赤茶山ですね。それじゃあ今から行ってきます」
「ありがとうございます。期待していますね」
「期待されることでもないと思うけどなー」
フェスタは軽口を叩いていた。
しかしピジョンは「あはは」と笑いながら、グリム達を送り出すのだった。
「さて、行ってみようか」
グリムとフェスタはアイテム屋デンショバトを出ると、そこはガランとしていた。
この調子じゃ全然客足も伸びない。
そう思いつつも、グリムとフェスタは言われた通り赤茶山に行ってみることにした。
「赤茶山はここから歩いてでも行けそうだね」
「そうだねー。でもさ、まさかこんなものを渡されるなんて」
「仕方ないよ。赤茶山で採れる赤砂石はただの石じゃないんだから」
「むぅー。まあいいや……んなことよりもさ」
「なに?」
ふとフェスタの視線が気になった。
何を見ているんだろうか。そう思って視線を追うと、空を見上げていた。
何処となく青空が暗くなって見える。気のせいだ。そう言っても差し支えの無い範疇ではあったが、無性に気になって仕方なかった。
「ちょっと暗いね」
「うーん。大丈夫かなー?」
「大丈夫って?」
「今までこんなことなかったでしょ。異様に赤い雲。もしかしたら、アプデで何か変わったのかな?」
フェスタはかなり深い想像をしていた。
グリムも一緒になって考えてみると、一理はあった。
けれど店先で立ち尽くしていると変に思われる。
コホンと咳払いを一つしてから、グリムはフェスタに話し掛ける。
「可能性はなくはないけど、それを気にしていたら前には進めないよ」
「んだねー。んじゃ行こっか!」
フェスタもすぐに自分の意見を折り曲げた。如何やらそこまで重要視していなかったらしい。
けれどまだ怪しめる。グリムは単なる憶測の域であればいいがと唱え、フェスタと共に赤茶山に向かうのだった。
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