第56話 サバンナの最終決戦4

 グリムとシロガネは勢いよく飛び出した。

 まずはシロガネの剣の回収だ。


「シロガネ、剣の回収は頼んだよ」

「分かってる」

「それじゃあ私が顔の前に飛び出して注意を惹くからね」

「頼んだ」


 シロガネが剣を回収する間、グリムはクレセントタイガーの前に出た。

 顔目掛けて大鎌を振り下ろす。

 鋭い二本の牙に当て、カキーン! と金属音を響かせる。

 腕に衝撃が伝わるが、グリムにはもう関係無かった。


「もうこの痛みは慣れたよ」


 グリムは一切立ち止まらない。

 とにかく注意を惹き付け、クレセントタイガーに休む暇を与えないように努める。

 その間にシロガネには脚の太腿に突き刺さっていたマイソードを取り返す。引き抜いた際に、HPがごっそり削れ痛みを伴っていた。


「ガオガァァァァァ!」


 クレセントタイガーは目を見開いて転がった。

 振り下ろした大鎌が目標を外れ、地面に突き刺さった。


「あれ? 外しちゃった」

「大丈夫。外してないよ」


 シロガネは飛び上がり、鋭い剣の切っ先を連続でクレセントタイガーの体に叩き込む。

 小さな穴が幾つも空き、それが束になってより大きな穴を作った。

 クレセントタイガーは発狂し、ゴロゴロ転がっていた。


「やるねシロガネ。それじゃあ私も行くね」

「それじゃあ今度は私が注意を惹くから」


 グリムとシロガネは的確にスイッチし、役割を交代する。

 シロガネが顔の前に飛び出して、顔を狙って剣を高速で振り下ろす。

 絶対に立ち上がらせないつもりで、グリムも背中に幾度となく大鎌を振り下ろす。


「あれ? これって私の出番あるかなー?」


 フェスタが不安になるのも当然だった。

 グリムとシロガネの見えない連携がクレセントタイガーの反撃の隙を断ち続ける。

 圧倒的な速度と正確性の前に、ノックバックを喰らい続けるクレセントタイガーが可哀そうに見えて仕方ない。


「酷い。酷すぎるよー。せっかくの中ボスが雑魚戦みたいになってるよー!」


 フェスタは気持ちを大声を上げて叫んだ。

 けれどグリムとシロガネには一切聴こえない。

 むしろ聴こうともしておらず、とにかく攻撃を叩き込み続け、HPを半分以下にまで一瞬でしてしまった。


「これ、もう倒し切るんじゃ……」

「「フラグはダメだよ」」


 フェスタはフラグめいたことを言ったので、グリムとシロガネは注意した。

 まさか聴こえていたなんて。驚くフェスタだったが、その間にクレセントタイガーは体勢を立て直し、後ろ脚でグリムを蹴り飛ばした。


「ぐはっ!」


 グリムは思いっきり蹴られた。

 けれど蹴り飛ばされた時に受け身を丁寧に採り、鎌を使って攻撃を少しだけ和らげていた。おかげでHPはほんのちょっとしか削れていない。けれど元よりHPはそこまで多くないグリムのHPは三分の一が減っていた。


「痛たた。まさか喰らうとこんなに削れるなんてね」


 それでも渾身の一撃を見事にいなし切った。グリムじゃないと成立しない結果に、クレセントタイガーは不満そうだ。よっぽど自信のあった死角からの一撃だったようで、唸り声を上げて威嚇する。


「ガォガァァァァァァァァァァ!」


 目の色もより鮮明な赤に変わっていた。

 完全に怒りMAXのバーサーカーモードに突入している。

 ここから一筋縄ではいかない。そう思うのが普通だが、グリムもシロガネもましてやフェスタですら負ける気はなく、反撃される前に飛び出した。


「シロガネ。一気に仕留めるよ」

「分かっている。だから……」

「「合わせる」」


 グリムとシロガネは地面を蹴り、飛び掛かった。

 だけど飛び掛かったのはまさかのクレセントタイガーの目の前。完全に視界に捉えられ、翼で後ろに飛ばれるかもしれない。もしかしたら大振りの攻撃をしているせいで牙を叩き込まれて一網打尽にされるかもしれない。

 あまりにも賭けの対象になり過ぎていたが、グリムもシロガネも今更引く選択肢は無く、果敢に攻めていた。


「「反撃して来る。だけど……無駄!」」


 グリムの赤い目が光った。クレセントタイガーは一瞬ビビッて体が硬直する。

 シロガネの振り下ろす剣も眩い銀色の光りに包まれた。

 もう逃げられない。動けない。クレセントタイガーは牙に向かって二人の攻撃をまともに喰らってしまい、自慢の牙を失った。


 バッキーン!


 あまりのも鈍い音で、破壊した感が一切なかった。

 二人の攻撃はクレセントタイガーの武器を奪い去り、もはやただの的となった。

 そこ目掛けてフェスタは飛び出し、今度は反撃も避ける隙も与えずに大剣を振り下ろす。


「せいやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 両手に持った重たい〈戦車の大剣槍〉を一気に額へ振り下ろす。

 クレセントタイガーも動け動けと体に念じ、翼を使って後ろに飛んだ。

 けれど飛べなかった。自慢の牙だけでなく、本人が気が付かないうちに翼までもがれていた。


「「絶対に逃がさない。言ったでしょ、全部無駄だって」」


 グリムの直感は間違っていなかった。

 クレセントタイガーはもはや武器をもがれた完全な置物となり、大剣によって切り裂かれるのを待つだけだった。

 フェスタの渾身の一撃が炸裂する。クレセントタイガーは断末魔を上げた。


「ガォガァァァァァァァァァァァァァァァ……!」


 最後には音すら残さなかった。

 全身が粒子に変換され、顔を上げた時には姿は半壊していた。

 カッコ良い出で立ちを失ったクレセントタイガーはもはや見る影もなく、サバンナの塵となり、目の前からいなくなった。


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