第55話 サバンナの最終決戦3

 フェスタの振り下ろした大剣がクレセントタイガーの額に触れようとしていた。

 あまりの威圧感に、クレセントタイガーも動けなかった。

 確実に仕留められるはずだったのに、大剣は躱されてしまった。

 二枚の翼をはためかせ、少しだけ重たい体を浮かせて、後ろに飛んでしまった。


「う、嘘でしょ! 今の避けるの? 一撃必殺の筈なのに、攻撃を躱されるなんて」

「惜しかったね。でもこれくらいやってくれないと、中ボス感が無いよ」

「中ボス……ふぅ、もう一回効くかな?」

「効くって……あー、無理だろうね。モンスターも生物なんだから、一度恐怖した行為は学習するよ」

「つまり振り出しってことー? えー、この手数減るじゃんかー」

「でも攻撃に対しては確実にビビってた。それにアレくらいの動きだと、先に翼を叩けば終わりだ」

「それが無理難題なんだけどなー。まあいいや、とにかく……はっ!?」


 お喋りに夢中で気が付かなかった。

 いつの間にか目の前にクレセントタイガーが居なくなっていた。

 キョロキョロ周囲を見回すと、なんとクレセントタイガーはグリム達の前から全速力で地面を駆けて逃げ出していた。


「ちょっと待ってよ。まだ三分の一くらいしか削ってないんだよー? (全部グリム一人でやったんだけどさー)」

「そうだね。まさか逃げられるなんて……(もしかして私の目を見て逃げ出した?)」


 クレセントタイガーはとにかく一目散に逃げ出す。

 けれどグリムもフェスタもここまでやって逃がす気はない。

 ニヤリと笑みを浮かべると、絶対に追い付かないと分かっていながらも追いかけた。

 とにかく追いかけて追いかけて、圧力を掛けて逃がさない。


「こら、待て! 逃げるなー!」

「いやいや逃げるよ。でも捕まえるから……いくら逃げても、最後には捕まえるからね」


 グリムとフェスタは急いでクレセントタイガーを追う。

 だけどドンドン距離を離される。

 相手はモンスター。しかも四足歩行。人間なんかよりよっぽど足は速いし、体力もスタミナも健在。そんな相手に追い付くはずがなかった。


「くっ、なんとかしないと」

「このままじゃ完全に逃げられちゃうよー!」

「時間ももうない。後、三十分で蹴りを付けないと」

「でも私達だけじゃさー……ん?」

「なにか来る……風を切る音。すぐ真後ろから……はっ!?」


 グリムとフェスタは走りながら足を止めた。

 逃げるクレセントタイガーに背を向けると、走って来た方角から何かが飛んでくる。

 鋭い棒。いや、アレは剣だ。しかも見覚えがあり、それを追って誰か走って来る。


「アレは……嘘だ!」

「グリム知り合い?」

「知り合いだけど……驚いた。まさか参加していたなんて……けど一人だけ?」


 意外だった。まさか参加しているなんて。

 視界に捉えたその銀の長髪は夕陽に溶け込み乱反射する。

 キラキラと輝きを放ち、軽快に走る少女をグリムは知っていた。


「つまりあの剣はそう言うことだね!」


 もう一度振り返って、今度はクレセントタイガーを睨んだ。

 剣が真っ直ぐ飛んで行く。あらゆる風の抵抗を無視し、その切っ先がクレセントタイガーを一直線で捉えた。

 キラリと光り切っ先がクレセントタイガーの脚に突き刺さると、痛みの余り動きを止めその場で倒れ込む。


「今のなに? 投擲で済ませて言い技術なの?」

「投擲か。それにしては精度が高すぎる気が……あっ、来たよ」


 あまりの投擲技術に見惚れていると、本人が馳せ参じた。

 スタッと軽快に走った後は軽快に止まると、グリムとフェスタの前に現れる。


「あれ、先客? しかもグリムがいる。もう一人は知らないけど」

「やあシロガネ。足止めご苦労様」

「ご苦労様じゃないけど……まあいっか」

「それなら討伐するの譲ってくれる?」

「それはできない。私も倒さないとダメ。約束したから」

「だったら一緒に倒そうよ。その方が手っ取り早くていい」


 グリムはシロガネに応援を頼んだ。

 するとシロガネは少し困った顔をする。

 結局はモンスターを倒したプレイヤーにポイントが入る。

 けれど協力し合うことでポイントの競合が発生し、どちらかが損を被る可能性も出て来た。だがそんなことを言っていられないのも事実で、シロガネに迷いはなかった。


「いいよ。それじゃあ……」

「シロガネだっけ? 私がトドメを刺すから、グリムと一緒に足止めよろしく!」

「誰かは知らないけど、グリムの友達ならお願い」

「OK。それじゃあ行ってみよう!」

「「誰に言ってるのか分からないけど、任せておいて」」


 グリムとシロガネはクレセントタイガーを倒すことにした。

 攻撃の手数は確実に増えている。これなら倒し切れると確信に変わった。

 お互いに前に出る。動けないクレセントタイガーには未だに剣が刺さったまま。


「私が剣を取り返してからが本番」

「分かっているよ。期待しているよ」

「うん。できることはやるから、任せて」

「それじゃあ二人共、私の花道のためによろしくねー!」

「「言われなくても」」


 グリムとシロガネは臨時の協力体制を引いた。

 どちらも一切遠慮はしない。

 サポート無しで完全にアタッカーらしく振舞うため、瞬時に前に出るのだった。

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