第46話 カマキラーサイス

 グリムとフェスタは森の奥へ走った。

 男性の悲鳴が聞こえ、空気が震える。

 森の中一帯の木々が騒めき出し、殺気立っていてピリピリしていた。


「止まってフェスタ」

「どうしたのグリム。足でも捻った?」

「それはないよ。ただこの森、奥に行けば行くほどモンスターの姿が無い気がするよ。気のせいだと良いけど」

「いや、気のせいじゃないよー。多分ね」


 フェスタもこの森の異常さに気付いていた。

 昆虫型のモンスターも出てくるわけではなく、むしろ生物の息吹を感じなくなる。

 グリムとフェスタは空気がピンと張る中、少しだけ立ち止まって耳を立てた。

 するとさらに森の奥からガサガサと這うような音が漏れていた。


「この先だね。ここからは本気で気を引き締めて行こっか」

「そうだねー。それじゃあ行ってみよー! バッサリ倒しちゃうよーだ!」


 ガサガサと草を掻き分けて進む。

 するとカキーン! と金属同士がぶつかり合う音が響いていた。

 モンスター討伐イベントのはずが、プレイヤー同士で戦い合っているのだろうか?

 そんなバカな話があるのかと思ったのも束の間。見えてきたのはプレイヤーVSモンスターの構図だった。


「糞っ、糞っ! こんなところで早々に脱落してたまるかよぉ!」


 さっき叫んでいた男性プレイヤーの声と同じだ。

 目の前に見えた大剣を振り回す男性プレイヤーはモンスターと戦っていた。

 自分の身長よりもずっと大きな巨大カマキリ。緑色の体は保護色になって森に溶け込んでいるが、ずっと狂暴そうなメカメカしい鎌が飛び込む。

 如何やら金属質でできているようで、大剣と鎌がぶつかり合うたびに火花が散って壮絶な削り合いをしていた。


「ありゃぁ? これマズくない」

「助けに行こう。このままじゃやられちゃうよ」


 今回のイベントは決してプレイヤー同士で争うものじゃない。むしろ協力するものだ。

 それに気が付いていたグリムは助けようとする。

 けれど遅かった。男性プレイヤーは大剣を振り上げた瞬間、カマキリの鎌によって無残にも縦に真っ二つにされてしまった。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 男性プレイヤーは絶叫する。

 しかし声が他に届くことはなく、森の騒めきに掻き消されてしまい、その存在が粒子になって消えた。強制ログアウトさせられると、グリムとフェスタはカマキリのモンスター=カマキラーサイスと対面する。


「今度は私達が得物ってことかな?」

「だろうねー。んじゃ、さっさと倒して……」


 飄々とした態度を取るフェスタだったが、カマキラーサイスの方が先に動いた。

 一瞬で目の前で滑るように迫って来ると、巨大な鎌を振り下ろした。

 あまりの速さに驚く間もない。咄嗟に大剣を抜くと、ズシン! と強烈な衝撃と重みが伝わって来た。


「うっ、重い!」


 大剣の重みと鎌の重みの両方が一斉に襲ってきて、グリムは動けなくなる。

 膝に極度の負担が掛かり、ピタリと立ち止まった。

 呪いの装備のデバフがフェスタの活発な動きを制限し、厳しい戦況に一瞬で変わってしまった。


「フェスタ!」

「グリム、私のことよりもさー、早くこのモンスターを倒してよね」

「わ、分かった。ちょっと待ってて」

「早くしてよねっ!」


 フェスタがカマキラーサイスの動きを微かに止めている間に、グリムは右側に回り込んで大鎌を振り下ろす。

 流石に視界の中だろうが、大剣相手に必死な様子だ。

 それならダメージを入れることができる。

 そう踏んで飛び出したグリムだったが、まんまと失敗してしまった。


「キキィ!」


 余っていた鎌を振り上げると、グリムの大鎌と台頭する。

 カキーン! と金属音が響き、耳をつんざいた。グリムは苦い表情を浮かべる。あまりの五月蠅さにそんな顔をしてもおかしくないが、カマキラーサイスは全く動じず動きが硬くなったところを狙って襲ってくる。


「キキヤァ!」


 カマキラーサイスは鎌を振り下ろす。

 咄嗟に大鎌をぶつけ合うものの、体勢が悪すぎたせいで、ちょっとだけ掠ってしまった。

 けれどダメージは受けていない。〈死神の外套〉のおかげだ。


「やった! 呪いの装備に助けられたよ」


 見事に低確率を引き当てることができた。

 しかし二度は無いと思い、真剣な面持ちで二撃目は全力で抑え込む。

 それから体を捻りながら前に躍り出ると、大鎌を叩き付けようとした。

 これは入った。そう思ったのは幻覚で、突然カマキラーサイスが後ろに跳躍した。

 地面が抉れ、熱が発生すると、あまりの熱さにグリムも顔を覆った。


「嘘だよね。そんなことできるの?」

「感心している場合じゃないんじゃないかなー?」


 フェスタもようやく解放されたのか、大剣を背中に背負い直していた。

 けれどHPは三分の一減っていて、急いで応急用のポーションをがぶ飲みする。

 あまりに苦いのか、眉根を寄せて頬がこけた。

 その間カマキラーサイスは鎌を突き出してグリムとフェスタを警戒している。


「カマキラーサイス。昆虫型のふりをしているけど」

「完全にメカだよね」

「SF要素なんて入れてもいいんだ。結構なんでもありなんだね」


 カマキラーサイスは昆虫ではなかった。

 昆虫の皮を被ったメカ。その証拠に先程跳躍した時、後ろに向かってジェット噴射が起きていた。

 地面が抉れている。ジェット噴射した時にできたものだ。

 これはかなり強敵になるぞと思った二人は、各々武器を構えると、一切警戒を解くことなく対抗することにした。

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