第40話 呪いの装備ペア
あれから数十分が経っていた。
グリムは如何したものかと腕を組んで悩んでいた。
フェスタがおそらく穴に落ちたのに助けに行けない。
このまま待っているなんてと、グリムの気持ちを掻き立たせた。
「このまま時間だけが過ぎても何の解決にもならない。一体如何したら……」
穴は未だにポッカリと開いていた。
しかし近付こうとするとし弾き返されてしまうのだ。
全く困り果てていると、急に天井が揺れ出して溜まりに溜まった埃が落ちて来る。
「ん? 地面は揺れてないのに、如何して天井だけ……はっ!」
グリムは目を見開いた。
急に天井に亀裂が入り青白い光が粒子となって降り注ぐ。
もしかしたら新手のモンスター。そう思い〈死神の大鎌〉に手を掛けると、誰かが落ちて来たので慌てて躱した。
「よっと!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ドーン!
天井から落ちてきたのはフェスタだった。
凄まじい衝撃と振動が闘技場の中を走り抜け、近くに居たグリムにまで伝わる。
なにかと思い躱せばそれがフェスタだとは思わなかったが、まさかこんなイレギュラーな形になるとは思わない。
「痛たたたぁ……あれ、ここは?」
「フェスタ、無事だったんだ」
「ん? その声はグリム? なんだ、近くに居たなら受け止めてよね」
「いや、そんなことしないから。それよりも無事なの?」
飄々としているフェスタにグリムは尋ねる。
するとフェスタは体のあちこちを見て回るが、何処も怪我していないのでピースサインをしてみせた。
「大丈V!」
「そっか。それなら良かったよ。まさか天井から落ちて来るとは思わなかったけど」
「天上から? ……宝箱のポータルはそこに繋がっていたんだ」
「宝箱のポータル?」
「ううん、なんでもない」
気になるワードを吐いたフェスタ。
普通に気になって首を突っ込みそうになるが、はぐらかされてしまった。
けれど無事にフェスタが戻ってきたから嬉しかった。
胸をホッと撫で下ろすと、一旦趣向を変えてみる。
「ところでフェスタ。その格好はなに? 何処で手に入れたの?」
グリムはフェスタの格好が変わっていることに気が付いていた。
タイミングを見計らい尋ねてみると、フェスタはニコニコ笑顔から一瞬でニヤニヤ笑顔になった。気持ち悪いと素直に軽蔑したが、フェスタは肩を上下に上げ下げしながら待ち侘びていた質問に感極まっていた。
「よくぞ聴いてくれましたグリム君」
「気持ち悪いよ」
「ふふふっ。聴いて驚いてよね、実はコレ、呪いの装備の一つ〈戦車〉シリーズなのだ!」
「の、呪いの装備!?」
まさかとは思っていたが、フェスタまで呪いの装備に手を出すとは思ってもみなかった。
この手のことには詳しいから、フェスタは特化にはしても呪いの装備にまで手を出すとは思わなかったのだ。
けれどその期待は一瞬で破裂した。
「わざわざ呪いの装備にしなくても良かったのにね」
「なに言ってるのさ。ちゃんと遊ばないと、つまんないでしょ?」
フェスタは超が付く程ポジティブだった。
呪いのアイテムを装備している今でさえ、ニコニコ笑顔でご満悦。
こういうタイプの子には逆にメリットでしかないのでは? と、上級者なフェスタを讃えた。その上、フェスタは親指を立ててグリムにこう答えた。
「これで私達、呪いの装備ペアだね」
「全然好感持てないよ」
「あはは、それはお互い様。これは共感しあわないと」
「共感って……まあ、仕方ないよね」
どのみち呪いの装備は装備変更不可なのだ。今更気にしたら負けだ。
それはそうと、グリムはフェスタの背中が気になった。
首を回すと瞬きをしてしまう。
「なに?」とフェスタが訊き返すので、グリムは素直に褒めた。
「それはそうと、背中の武器カッコいいね。似合ってるよ」
「ありがと。でもさ、この武器扱いがちょびっとだけ難しいんだよねー」
「難しい? 見た目的には普通に大剣に見えるけど?」
グリムには分からなかった。
けれど実際、背負っている時はフェスタも重みを感じていなかった。
とは言え構えた時に一気に重さが両手両足を襲うのだ。
「ちょっと見ててねー。よっと!」
〈戦車の大剣槍〉を構えた。
すると否応なく全身に重みがのしかかる。
腕から肘、腰から膝に掛けて、感じたこともないダメージが走る。
部活で走り込むとか、サポーターを付けるとか、そんなの非じゃない。
フェスタは奥歯を噛み締め、気合で〈戦車の大剣槍〉を構えていた。
「ど、どう? カッコいいでしょ」
「カッコいいけど、辛そうだよ?」
「う、うん。み、見ててねっ! そりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
フェスタは大剣を横薙ぎした。しかしとっても遅かった。
あまりにも遅すぎて簡単に躱せてしまいそう。
けれどその分だけ迫力はあり、空気を掴んで引き寄せるような雰囲気さえ感じられた。
多分、当たったら即死に違いない。
「はぁはぁはぁはぁ……重い。重すぎるって!」
「ちなみに回避には支障はあるのかな?」
「回避? うーん、構えてなかったら全然普通だよ」
「それじゃあ移動するときは大剣を背負って、攻撃する時だけ瞬時に取り出せるように練習しないとね」
確かにそれなら上手く行きそうだ。
フェスタはグリムのアイデアに賛同し、「それいいね!」と指を指した。
誰でも思い付きそうだったが、喜んでもらえて何よりだった。
「それじゃあそうと決まれば、早速そのスキルを取りに行こう!」
「えっ、今から?」
「もちろん。当然付き合って貰うからねー」
「はいはい。ここまで来たら付き合うよ」
グリムはフェスタがお祭り状態でぶっ飛ばしていることに気が付いていた。
だからだろうか。考えるのを止めて、腰に手を当てて頷いた。
フェスタはそんなグリムの手を取ると、足早に闘技場を後にする。
ダッシュして外に出ると、スキルを獲得に必死になるのだった。
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