第38話 そして《戦車》に認められて

 今フェスタができること。それは藻掻き足搔くことだ。

 チャリオット・バンロッサが扱う手綱捌きには余裕がある。

 けれど何かしら配慮が足りていないらしく、左右への揺れが激しい。

 こんなんじゃ、いつか自分が振り落とされると睨んでいた。


「全くさー、筋肉で揺れを修正するなんて、よっぽどの馬鹿だよー」


 フェスタはチャリオット・バンロッサから強引に手綱を奪いに行く。

 この調子で揺らされたらグロッキーになるのは必至だ。

 ゲームの中で吐きたくないフェスタは腕を伸ばして手綱を奪おうとする。

 けれどそう易々とは奪わせてくれない。


「うわぁ!」


 腕を伸ばして手綱を奪おうとすると、急に馬車が左右に揺れた。

 まるでフェスタに手綱を引かれるのが嫌そうに拒絶する。

 よっぽど主人である、チャリオット・バンロッサを信頼しているようで、馬とのコミュニケーションが取れなかった。


「だよねー。普通こうなるよねー。んじゃ、やることは一つかな」


 手綱を強引に奪うのは止めだ。フェスタはまずは馬と仲良くなることにする。

 幸いなことに馬鎧を着せられているとはいえ、鼻の部分は呼吸のために開いていた。

 これは救いとパンと手を叩くと、馬の背にまたがる。


「よっと!」

「ヒヒィィィィィィィィィィィィィィィィン!」

「うわっと、どおどお、落ち着いて落ち着いて。急に乗ってごめんねー」


 流石に馬車から降りるのは危険だ。

 馬の背に飛び乗り跨ったは良いものの、驚かせてしまったらしく第一印象最悪。

 馬の叫びに合わせて馬車が暴走し、上下左右に激しく揺れる。


「怖くない怖くない。私は敵じゃなくて味方だよー。仲間なんだよー。だから落ち着いて、落ち着いてー。ねっ?」


 首筋を優しく撫でながら馬をあやす。

 気持ちの良いツボを押したおかげか少しだけ脈も良くなる。

 けれどまだ怖がっているようで心拍数が本来の馬に比べて高い。

 警戒が一向に解けないようなので、危険覚悟で試すことにした。


「ちょっとごめんねー。よっと」


 フェスタは右腕を伸ばした。

 左腕一本で体を支え、暴れる馬に振り落とされないようにする。

 代わりに突き出した右腕は馬の鼻先にあった。

 すると慣れない匂いに戸惑い、予想に反した動きをした。


「私は敵じゃないんだよ。仲間仲間。だからね、ちょっとだけ落ち着いてくれるかなー?」


 フェスタはフランクに話し掛けた。

 ゆっくりと近付けた手の匂いを直に嗅ぎ、馬は戸惑ってしまう。

 けれどフェスタはどんなに暴れられてもめげたりしない。

 むしろ望むと所だと言いたそうに手を差し出し続けた。


「怖いのは判るよ。私のこと、嫌いなんだよねー。でもさ、私は怖くないよ?」


 フェスタは自分が怖がっていないことを伝えた。

 馬達に恐怖心が伝わると余計に悪化する。

 誰だって一方的に恐怖心を抱いている相手となんか一緒に居たくないから。


「私は味方。仲間仲間。だからさ、私と仲良くなろうよ。大丈夫、私はフレンドリーだからね」


 馬達に自分のパッションと伝えた。

 果たして伝わったのか、それは誰にも分からない。

 けれど多少の手応えは感じ、いつの間にか馬の動きが緩やかになっていた。

 すると次の瞬間だった。


「うわぁっと! おっ、停まる?」


 一頭馬をあやすことに成功した。

 するともう一頭も片方の馬に合わせて止まってくれる。

 これなら手綱を握らせてくれるかもしれない。

 そう思ったフェスタは一段落して馬車に乗り込み、強引にではなくしっかりと言葉を交わした。


「手綱、ちょっとだけ貸してくれないかな?」


 モンスターであるチャリオット・バンロッサに頼んだ。

 倒せないモンスターを倒す方法はない。だとしてもこっちの言葉くらいはボスなんだから通じてくれてもいい。

 一か八かで賭けてみたのだが、なんとチャリオット・バンロッサは手綱を渡してくれた。その間に言葉はなかったけれど、馬達がフェスタを信頼してくれた証だろう。


「ありがと。んじゃ、二頭とも行くよ!」


 手綱を受け取ったフェスタは馬達に声を掛けた。

 すると馬達は呼応するように「ヒヒィィィィィィィィィィィィィィィン!」と高らかに喉奥から声を鳴らす。

 パンと優しく綱を打つと、馬達は一斉に走り出し、まさに一体となって馬車を運んだ。

 その動きはまさしくフェスタの思う通りだった。


「うおっ! 結構速い。しかもこっちの方が安全だねー」


 フェスタが馬車を操ると一瞬にして揺れが収まった。

 如何やらフェスタの技能にマッチしているようで、条件を満たしたのかスキルまで解放された。


「おっ、スキルだ! なになに……」


 獲得したスキルを確認する。



スキル【馬術】

条件:馬に騎乗し巧みに操る。

説明:馬に乗っている際、巧みに操ることができる。馬との信頼が高ければ高いほど効果は大きく発揮される。



スキル【アニマルフレンドリー】

条件:生物と仲良くなる。

説明:生物に懐かれやすくなる。生物とある程度のコミュニケーションが取れるようにもなる。



 何と一気に二つのスキルを手に入れてしまった。

 かなり上々な結果に満面の笑みを浮かべていた。


「楽しい! やっぱり乗馬って楽しいよー!」


 ニコニコ笑顔のフェスタ。よっぽど楽しいのが伝わったのか、馬達も調子が上がる。

 すると何処からともなく声が聴こえた。

 先程フェスタを煽った声と全く同じだ。


「見事だ」


 そう聴こえると背中が軽くなった。

 ふと振り返るとさっきまで背にしていたチャリオット・バンロッサの姿が無い。

 突然いなくなるなんておかしいと思ったのだが、気が付くと馬車すら止まっていた。

 見ればせっかく仲良くなったはずの馬達が居ない。


「嘘でしょ!? 消えちゃったの……」


 ちょっと悲しかった。

 だけどあの馬達はチャリオット・バンロッサと共に消えてしまった。

 本当の主人と一緒の方がいいはずだ。

 いくらゲームとは言え、フェスタは絆をそう感じて、声の主に認められたことだけを嬉しく胸の内に抱え込んだ。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


【あとがき】


 フェスタもアルカナに認められましたよ。

 まさかの精神攻撃とよく分からない突破法は面白いですか?

 ★や感想・ブックマークして待っていてくれると嬉しいです。




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