第37話 戦車に襲われるなんて聞いてない!?
大剣を構え、フェスタはチャリオット・バンロッサに向き直る。
馬鎧を着こんだ巨大な二頭の馬に引かれた馬車。いわゆる戦闘用馬車と呼ばれるものだ。
その上には人型のモンスターが座っていた。
手には分厚くて柄の長い大剣を持ち、全身を銀の鎧で覆っていて顔すら見えない。
けれど威圧感だけははっきりと伝わった。
「マズいなー。これ絶対、やられるじゃん」
同じく大剣を構えるフェスタの手のひらが汗でびっしょりになった。
全身を威圧感による殺気が包み込んだ。
けれど口元はニヤリとする。この殺伐とした状況を楽しむくらいにはまだ余裕があった。
「戦うしかないってこと? 勝てるかなー。って、なんで攻撃して来ないんだろ?」
チャリオット・バンロッサは全然攻撃を仕掛けてこない。
もしかしたらフェスタが攻撃を仕掛けるのを待っている。
そんな見え見えの罠に飛び込むなんてあり得ない。
けれどフェスタは違った。この状況を楽しみ、大剣を振り回して自分自身を鼓舞する。
「そりゃそりゃそりゃそりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
わざと隙を作って攻撃して貰うのを待つ。
けれどチャリオット・バンロッサは攻撃してくれない。
このままいたずらに時間が過ぎるのを待つわけにはいかない。
どのみちこのボスモンスターと戦わないと帰れないなら、こっちから攻撃を仕掛けに行くだけだった。
「じゃあ行くよ。そりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
叫びながら大剣を振り上げて攻撃した。
重たい大剣を肩に掛けると、利き足を前に出して目の前のモンスターに振り下ろす。
一撃必殺の斬撃。これなら効くはずと意気揚々と繰り出したのだが、チャリオット・バンロッサは大剣を前に出すとカキーン! と威力を相殺させた。
「嘘でしょ!? えっ!」
腕が折れそうになった。衝撃を跳ね返されてしまい、動けなくなる。
するとチャリオット・バンロッサは大剣を突き出す。
攻撃されると思った瞬間、二頭の馬が前脚で蹴って来た。
驚いたフェスタは咄嗟に体を動かした。後ろに飛んで、【ジャスト回避】を発動。
そのおかげで何とか直撃を防ぐことはできたのだが、変なことが同時に起った。
「あれ? 痛いけど……減ってない?」
フェスタは風圧で攻撃された。すると痛みが全身を駆けのぼった。
けれど【ジャスト回避】したおかげなのか、HPは減っていない。
とは言え違和感があった。モンスターの攻撃を受けたような痛みではなく、心を削られたような感覚に襲われたのだ。
「痛い……心が痛い。苦しい、辛い……これがモンスターの攻撃なの?」
フェスタは頭を抱えた。とは言え考えている暇は無い。
考えている頭を使うぐらいなら、大剣を握って前に出る。
首をブンブン振って、さっきの痛みを忘れようとするが、全然ダメだった。
「次喰らったらヤバいよねー。とは言って、私にできるのは……うわぁ!」
今度は大剣を振り下ろしてきた。
頑張って大剣を使って打ち合いになる。
衝撃が重たい。腕を引き千切られそうになり、苦悶の表情をフェスタは浮かべた。
あまりの相性の悪さに絶望するのだが、それでもまだ勝てる可能性に懸けて大剣を引いた。
「打ち合いで勝てないんだったら、こうするだけだよ!」
フェスタは身を捩った。それだけじゃない。体も屈めていた。
全身をとにかく小さく見せると、チャリオット・バンロッサの懐に飛び込む。
目の前の馬達には目もくれず、反撃の隙を与えないように馬車へと飛び移った。
「そりゃぁ!」
フェスタはチャリオット・バンロッサの前に躍り出る。
懐に上手く潜り込むと、大剣を叩き込もうとした。
流石にこれなら倒れてくれる。そう思ったのも束の間で、急に大剣を振り上げて呼応するように馬達は勢いよく走り出した。あまりの突然の行動に、大剣を持っていた腕も慣性で引っ張られる。
「ちょっと、それは止めてよ。せっかくの攻撃が……あっ!」
指先が痺れて来て、開いてしまった。
大剣が腕の中からすっぽ抜け、地面に転がる。
取りに行きたくても馬を止めることはできない。
チャリオット・バンロッサも停まったくれる様子は一切なく、フェスタは馬車の上で振り払われそうだった。
「ううっ、乗馬サークルに入ってなかったらグロッキーだったよ」
揺れは激しさを増していき、並みの人間ならダウンしていた。
けれどフェスタにとってはこのくらい余裕でチャリオット・バンロッサの手綱捌きに付いていく。むしろ丁寧な操作なのでかなり余裕を取ることができ、これならと思い拳で対抗しようとした。
けれどパンチを繰り出したフェスタだったけど、ストレートが腕を透過した。
「透過する? そんなじゃ勝てないよ!」
フェスタはドン引きした。まさか幾ら攻撃をしてもダメージが無いとか?
そんなあり得ない相手に勝てるわけない。もしかしたら勝てないのが前提のモンスターだったりして。
フェスタは「なんだよそれ」と吐露した。
すると突然野太い男性の声が聞こえてきた。
「諦めるというのか、挑戦者」
「へっ?」
聞き覚えの無い声に励まされた。むしろ気圧された。
まるでフェスタのことをおちょくっているように聞こえた。
何だか無性に負ける気がしない。負けたくないと、胸の奥でざわついた。
「負けなる訳ないでしょ。勝ち目が無いのに挑んだりしないから!」
誰かも分からず反論した。
フェスタのテンションがバチバチに上がる。
こんな所で負けるわけにはいかないと、足りない頭を使わずに目の前の綱を睨んでいた。
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