第35話 落とし穴に落ちました

 バンロッサの周りは金属のモンスターが多かった。

 昔闘技場で使われていた古い武器達がたくさん蠢いている。

 まるで昔の剣闘士達の思念が乗り移っているみたいで、少しだけ不気味だった。

 けれどグリムとフェスタにはほとんど意味がなかった。


「そりゃぁ!」

「せーのっ!」


 大鎌を叩き付けるグリムは、剣のモンスターを撃破した。

 対してフェスタも大剣を握り締め、少し遅い攻撃速度だったけど無事に槍のモンスターを叩き折った。

 技巧派な動きと大胆な動きがしっかりとマッチしている証拠で、お互いが連携し合っている証拠だった。


「フェスタ。交代」

「スイッチってことね。OK、せやっ!」


 相性の悪いモンスター相手には深追いはしない。

 相性差を考えて、硬い盾のモンスターにはフェスタが対応する。

 大振りに構えていた大剣を振り下ろし一撃で葬る。

 グリムも背後からにじり寄る弓のモンスターを大鎌で切り裂いた。

 弦が引けなくなったので、簡単に倒せた。


「とりあえずこの辺のモンスターも倒したね」

「上々じゃない?」

「そうだね。後はドロップアイテムだけど……」

「渋いなー」


 錆びたアイテムばかりがドロップしていた。

 これだと研師に頼まないと使えるものじゃない。

 きっと買い取り額も安いので、インベントリの奥の方に突っ込んでおいた。


「全然旨くないねー。さっきから渋すぎない?」

「仕方ないよ。ここにあるのは、そう言うものばかりなんだから。それにしても数は多い。もう少し探索したら帰ろうか」

「OK」


 闘技場の外周は崩壊が進んでいて、モンスターも低レベル。

 経験値稼ぎにもアイテム採取にも適していない。

 そこでいよいよ闘技場の中に入ることにした。

とは言え何も無いのはほぼ確定。他のプレイヤーが目ぼしいアイテムは持って行ってしまっているからだ。


(固定アイテムは入っているとしても、ユニークは無いだろうね)


 グリムはそんなことを考えながら歩いていた。

 すると闘技場は入口が二つもあり、どっちに入るか悩んだ。


「どっちから行く?」

「どっちって……結局繋がっているんじゃない?」

「だろうね。それじゃあこっちから」

「待って! ここは二手に分かれよ。その方が万が一の効率良くない?」

「それはいいけど、大丈夫?」

「もちのろんだよ。んじゃ行ってみよー!」


 フェスタは反対側の入口に向かってしまった。

 グリムは心配いらないと思ったが、何だかザワザワする。

 外套をやはり手繰り寄せ、胸騒ぎがしてしまった。




 フェスタは闘技場の反対側にやって来た。

 表と同じで裏側にも入口が開いていた。

 けれど人が余り訪れた形跡が無いのか、足跡は全く無い上に瓦礫の量も多い。

 そのせいで他のプレイヤーもNPCも集まらないのだろう。


「ふーん。結構入り辛い場所にあるなー」


 フェスタは頭を掻いてしまった。

 それくらい瓦礫の量が多くて、一つ一ついつ崩れて来るか分からない中、安全そうな場所を見つけて掻い潜る。


「よっと。うわぁ、ここの瓦礫崩れるなー」


 ボロボロと少しずつ瓦礫が動いていた。

 とは言え危ないレベルじゃない。

 少し間を開けて歩けば怪我をする心配もないので、フェスタは淡々と歩いていた。

 するとようやく入口に入れそうなので、フェスタはようやくスタート地点に立てた。


「やっと入れる。よーし!」


 目の前は暗い通路。

 何処まで続いているのか分からないが、フェスタは楽しんで闘技場の中に入った。

 その時だった。入口から入って一歩目の脚を踏み出した瞬間、急に地面が抜けた。


「はっ?」


 右足は底抜けた地面にあった。如何やら侵入者を阻む罠のようで、落ちなくてギリギリセーフだった。

 フェスタは胸の前で両腕を左右にスライドさせる。ジェスチャーで肝が冷えたことを誰に伝えるでもなく伝えると、穴が空いていない通路の隅に寄って進むことにした。

 けれどダメだった——


「あんな罠があるなんて聞いてないってのー……ん?」


 フェスタは脚が止まった。否、脚が前に進まなかった。

 ふと下を見ると、そこには地面がない。

 まるで底が抜けたみたいに深い深い暗闇が広がっていて、奥の法でボワッと紅い炎が揺らめいて見えた。これはヤバいとフェスタが思う間もなく、気が付いた時には叫んでいた。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 フェスタは抗うことも出来ず穴に落ちてしまった。

 これは死んだなと思ったフェスタは目を瞑る。

 きっと気が付いた時には家のベッドだ。

 地味な初敗北にフェスタは落ちながら項垂れていた。


 一方その頃グリムは闘技場の中に入っていた。

 とは言えやはり何もない上に、通路的に反対側に繋がっているらしい。

 これなら表から入れば良かったのでは、と既に終わったことを思った。


「これならフェスタを捜せるような?」


 グリムはフェスタを捜しに行った。

 すると通路の奥から叫び声が聴こえた。フェスタのもので、珍しさのあまり驚いた。


「フェスタ?」


 あまりにも大きな叫び声。もしかしたらトラブったのかもしれない。

 そう思ったグリムは急いで叫び声の聴こえた方に向かった。

 幸いなことに闘技場の中で通路は繋がっていて、迷路にもなっていない一本の湾曲した通路だったので、すぐに声の在処に向かうことができた。


「あれ、フェスタ? 地面に穴が空いてる。もしかして落ちた!?」


 グリムはすぐに気が付いた。

 地面には見知らぬ穴が空いている。きっと通路を通ろうとした人を嵌める罠だ。

 それが二段階式に位置関係もバラバラで用意されていた。ここに落ちたのなら助かる可能性は少ない。グリムは戻って来るのを待つか悩んだが、とりあえず助けられるかもと思い眺めのロープを取り出した。


「これを使えば下に下りれ……ない?」


 何故かロープが弾かれてしまった。

 それどころか近付くこともできなかった。

 まるで穴の周りに壁でもあるみたいに弾かれてしまい、《死神》でもダメだった。


「嘘だ。こんなことってあるんだ」


 プレイヤーを確実に嵌めるための罠。

 あまりの鬼畜仕様にグリムは困惑した。

 何もできないのでただ待つしかない。時間だけが刻々と過ぎていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る