第33話 回避系大剣使いになる

「そらぁ!」


 フェスタは大剣を振り下ろした。

 襲って来た灰色の狼、グレーウルフを斬撃で容易くほふった。

 HPバーを一瞬で削り取る姿はまさに一撃必殺。大剣の強みが出ていてカッコ良かった。

 ただし——


「ふぅ。これでレベルアップ!」

「やったね、フェスタ。だけど遅いよ」

「むっ! 分かっているよ。だけど私の筋力パラメータだとこの大剣振り回し難いんだよね」

「それを選んだのはフェスタだよ。完全に自業自得」


 グリムがそう言うと、フェスタはムッとした表情を浮かべた。

 けれどグリムの言っていることは本当で、胸の奥にグッと突き刺さる。

 パラメータが足りていない。そのせいで大剣を振り回せない。

 ナビゲーターのハッピーも言っていた。「その武器、使い辛いよ? ちゃんと使える?」と念押しされて訊かれたのだ。それを無視して装備したのが仇となった。


「私には相性が悪いのかな?」

「今の所はね」

「うーん。相性の悪い武器を選ぶと地獄を見るって言うけど、まさかそれにぶち当たるなんて。強敵だ……でも燃える! それを使いこなした時、私は誰よりも大剣の扱いに長けているって自身が付くもんねー」


 フェスタは楽観的に捉えていた。

 デバフとなっている大剣の枷をものともしない。

 こういう性格の子にこそ呪いのアイテムは向いているかも。

 グリムは客観的に捉えると、フェスタに声を掛けた。


「それじゃあ次行こうか」

「賛成! んじゃ、ドンドン来い」


 グリムとフェスタはもう少し森の奥まで行ってみることにした。

 この先はグリム・リーパーと戦った洞穴がある場所だ。

 しかしそこに行くまでの間に草むらがガサゴソと動き出す。

 不意に立ち止まると武器を構えた。なにが来るかと待っていると、グレーウルフの大型種が飛び出してきた。


「グウォフ!」


 狙いはフェスタだった。

 当然だ。レベルも低いし、グリムと違って隙もあった。

 そのことにいち早く気が付いたグリムは援護をしに向かう。


「フェスタ!」

「待ってグリム。私に来るなら好都合ってことじゃない?」


 フェスタは自分が標的にされていることに気が付いていた。

 だからこそグリムにサポートされる必要もなかった。

 グリムも頭の中で理解する。フェスタなら勝てると確信があったのでその場で立ち止まると、ニヤリと笑みを浮かべたフェスタが大剣を高らかに掲げ、スッと指先から放すと大剣を振り落とした・・・・・・


「グウォフ!」

「残念でした。私には効かないよ……よっと!」


 フェスタはグレーウルフの噛み付き攻撃を、ギリギリの所で後ろに飛んで躱した。

 攻撃を外したグレーウルフは目を回すが追撃を始める。

 首を伸ばし切った瞬間、大剣が落ちて来た。流石に逃げきれないので、フェスタは勝利を確信すると、グレーウルフは無残にも破れ粒子になった。経験値に変換されると、フェスタはレベルアップする。


「やった! 私の勝ちぃ」


 にやにやした笑みを浮かべて勝利に余韻に浸るフェスタ。

 グレーウルフの大型種を一撃で粉砕することができた喜びが全身に現れていた。

 体を大の字に伸ばすと、グリムにピースサインを送る。


「イェイ! 言ったでしょグリム。好都合だって」

「そうだね。おめでとうフェスタ。ちょっとグロかったけど」

「それは仕方ない不可抗力だよ」

「だけど……まあそうだね。それにしても、さっきは上手く躱せたね」

「最高でしょ。私、回避系大剣使い目指すから」


 謎の造語を宣言した。

 回避系大剣使いなんて聞いたこともない。

 あまりにもアンバランスな組み合わせに耳が痛くなるが、新しいスキルを手に入れたフェスタはもう決めてしまったらしい。


「見てよグリム。【ジャスト回避】だってさ」


 フェスタは新しいスキルを見せてくれた。

 そこには【ジャストガード】の対になる【ジャスト回避】というスキルが追加されていた。



スキル【ジャスト回避】

条件:敵の攻撃を完璧に回避する。

説明:敵の攻撃を完璧に回避することでダメージを0にすることができる。※敏捷性または運に起因する。



 と書かれているので、フェスタには相性が良かった。

 あの特化パラメータが間違っていないと分かり、ニヤニヤが止まらない。


「最高だよ。私が【ジャスト回避】、グリムが【ジャストガード】。適材適所でやって行こうねっ」

「適材適所もないけど思うけど……スイッチだっけ?」

「そうそう。そうと決まれば早速練習ってことで」

「まだレベル差あるけど、良いよ。やってみようか」


 それからグリムとフェスタは軽く連携攻撃の練習を始めた。

 仮想敵を想定し、二人だけで打ち合う。

 傍から見れば滑稽だろうが、二人は真剣に取り組むのだった。

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