第27話 PCO公式配信2
対人戦イベントの結果が発表されたその日の夜。
二十時を過ぎ去ると、μTubeでPCOの公式配信が始まる。
今回の担当ナビゲーターはいつ戻りアイとナミダの二人。
いつも通り、たくさんの視聴者が待機していた。実は配信には一万人以上が集まっていてくれていながらも、二人はいつも通りの姿勢を崩さなかった。
信号機は黄色が好き:おー、始まった
アワアワ:スパン早い、ですね
ボーダー2:どうせイベントの結果発表だろ
名無しの7時:だろうな
メトロロローム:ファイアさんが一位だよ
氷結推し:いやいやブリザードだって
インサイダー:他に注目株って……
信号機は黄色が好き:まあ、二強が目立つよなー
拍手魔人:むずいっしょwww
サラダ油三助:ってなこと言ってたら……おっ、始まる
「こんにちは、PCO公式配信をご視聴の皆様。ナビゲーターのアイです」
「同じくナビゲーターのナミダ」
「今回は先日開催された対人戦イベントの結果と今後の注目プレイヤーをイベントの観点から観測した映像と一緒にご紹介したいと思います」
「早速やる。まずは……やっぱり、一位」
「ファイアさんですね」
早速プレイヤーの紹介が始まった。
まず最初に映像が映し出されたのはお馴染みのファイア。
赤い髪に聡明な瞳をキラキラさせ、口元に笑みを浮かべている。
二枚目なファイアを気に入らず、真っ先に襲い掛かるプレイヤーが今回も多かった。
「初日から囲まれてる」
「そうだね。だけどファイアさんはたとえ囲まれていたとしても安定して強いんだよ」
「それはそう」
アイとナミダがナビゲートする通り、ファイアは囲まれていても強かった。
襲い掛かる男性プレイヤー達を大振りに振るった剣で次々切り裂く。
それこそ相手にもなっていない。
男性プレイヤー達が共闘しファイアに武器を振るうものの、まるで炎に煽られたみたいに吹き飛ばされた。
「凄いね。アレはスキルかな?」
「多分スキルじゃなくて魔法。【中級魔法(炎)】を使った」
「正解。ファイアさんの強みは剣に魔法効果を付与させている所。対人戦だとそれが活きるよ」
ファルコ11:マジ?
110011:そう言うことだったのか!
名無しの7時:だから強いわけか
羅針盤:謎が解けたよ
アワアワ:けど、謎が解けたからって……
信号機は黄色が好き:ファイアが強いのは変らないんだよな
アイとナミダの的確な解説にコメントがたくさん投下された。
とは言えファイアの強さの謎が分かったとはいえ、本人の強さを否定できるものじゃない。
スッキリはしないがそれもゲーム。このPCOの醍醐味の一つだった。
「他のプレイヤーも観てみる。ブリザード。今回も順位には興味無さそう」
「確かに淡々としているね。凛々しい顔が素敵」
次はブリザードが映し出された。
細剣を握り締め、目の前で構えている男性女性プレイヤーを問わずに蹴散らす。
まるで地面を滑るように移動すると、繊細な剣戟で切り裂いていく。
あまりの滑らかかつ攻撃一方な動きは、ついつい見る者を魅了させてしまう気然とした姿さえ感じさせてくれた。
「今回もクールビューティーだね」
「確かにクールでビューティー。おまけに強い」
アイとナミダは絶賛していた。
それ以上に表現できない美しさに、自然と別のプレイヤーに注目が移る。
ここまではいつも通りの恒常紹介。しかし今回は新たに二人のプレイヤーが目に留まった。
「ここまではいつも通りになりつつある、ファイアさんとブリザードさんの紹介でした」
「けど今回は他にもある」
「そうなんです! まずは一人目。シロガネさんです!」
パッと表示されたのは銀の鎧を纏った女性。
同じく銀色の髪をたなびかせ、手には鋭いロングソードを握る。
全身から漂うのは明らかに強者の風格。それに呼応するみたいにたくさんのプレイヤーが押し寄せるも、速やかに排除していた。
バッタバッタと切り伏せ、最小の動きだけで敵を殲滅する。
足下にはたくさんのプレイヤーが倒れ、同時に粒子に変わって消滅すると言う、かなりグロいシーンが切り取られてしまった。
「とても強い人だね」
「うん。きっと最近始めたプレイヤー。そうじゃないともっと前から注目されていてもおかしくはない」
二人が太鼓判を押すほどだった。
シロガネの剣術には目を見張るものがある。
それからもシロガネは男性プレイヤーや女性プレイヤーに戦いを挑まれ、悉くを打ち払っていた。
「アレは呪いの装備?」
「うん。ソロモンの72柱シリーズだと思うよ」
「制約は緩めだけど、アレを扱うのは大したもの」
「そうだね。呪いの装備は制限を掛ける代わりに強大な効果を発揮するから、確かに有利には働く。だけど即死判定だけは通るから決して無敵では無いんだよ」
アイとナミダはしっかりとナビゲートを務めた。
するとコメントでは“呪いの装備”と言うキーワードが盛り上がる。
ぬるりあ:呪いの装備!
ファルコ11:それってチートじゃね?
メンチカツ:運営分かってて導入してるw
名無しの7時:ゲームの平等性欠けてるだろ
強面おじさん:そんなの勝てねぇ……こともないのか?
エタノール:即死判定強すぎwww
強面おじさん:しかも呪いの装備って噂だとかなりレアなんだろ?
エタノール:おまけに装備変更不可らしいぜ
名無しの7時:ハズレ引いたらお終いだな
アイさん推し!:扱えるかは本人の力量次第って裏設定があるらしいよ
あみちゃ:んじゃシロガネって人、マジヤバいじゃん
線香:勝てねえよ・・・
呪いのアイテム。波紋を呼ぶキーワードかと思いきや、決してそんなことはなかった。
呪いのアイテムを扱える奴が凄い。ネットではそんな雑な扱いになった。
むしろそれくらいした所で、勝てる相手勝てない相手は居る。
運営側もそれが分かっていて実装したのだが、そもそも呪いのアイテムは特殊なスキルと組み合わせることでゲームを著しく崩壊させるいわゆる抑止力の立ち回りの方が強いのだ。
「でもシロガネさんも凄いけど」
「もう一人出てきた。しかもこっちはマジでヤバそう」
「そうだね。成長に期待だよね」
そう言うと今度は別の人物を映した。
黒い外套を身に纏い、白い紙赤い瞳を爛々と輝かせる。
両手にはリーチの長い得物を持ち、まるで《死神》の様に立ち振る舞う姿に震えた。
「この人、強い」
「グリムさんですね。前回少しだけ放送したと思いますが、やっぱりここまで来ましたね。私の睨んでいた通りでした」
「注目プレイヤー?」
「はい。私、この人を推したいと思います!」
アイの突然の告白にコメントがざわつく。
アイがこんな風に特定の誰かを推すのは珍しかったからだ。
アイさん推し!:アイさんが推した!
ファルコ11:マジかよ・・・
強面おじさん:そんなに強いのか?
エタノール:イタすぎるだろwww
ニャーぷる:まるで《死神》
線香:グロすぎだろ
メンチカツ:待ち伏せっていつの時代だよw
ファルコ11:正面からぶつかっても強いとか、マ?
トマトマト:この人も呪いのアイテムだったりして
羅針盤:それならマジで《死神》じゃねえかよ
圧倒的な実力者を相手に勇猛果敢に攻めるわけではなく、礼儀を全うし時には不意打ちすら行うグリムの活躍。
その姿はまるで《死神》。仇なすプレイヤーを殲滅しその命を狩る。見る者を惹き付け恐怖させるその姿は《死神》以外では何も言い返しのしようがないほどだった。
「動きに無駄がない。しかも自分に合った呪いのアイテムとスキルを組み合わせているね」
「これはもはや無敵……即死判定以外は」
「注目プレイヤー。私にはそう感じるよ」
「アイが言うのならそうに違いない。動向は要チェックかも?」
二人も息を飲んでいた。
シャドウを倒しシロガネと引き分けを演じる。
その姿は放送終了まで写し出され、ネット民の間では〔《死神》強すぎ〕が立つほどだった。
けれどグリム本人にそのことが届くことは決してなく、今日もモンスターを狩る日々だった。
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