第28話 知らぬ間にプチ有名人?
グリムはいつものことながらPCOにログインし、モンスターを狩っていた。
今回は小さなトリケラトプスの様なモンスター、ミニケラトップス。
フィールドは荒野で四本の分厚くて硬い皮膚を纏った脚で地面を蹴り上げて、グリム目掛けて突進する。
「危ないよ!」
グリムはミニケラトップスの攻撃を右に飛んで躱した。
標的を見失い無駄足に終わったミニケラトップスの攻撃は空を切る。
動きが止まった。その一瞬の隙を見逃さない。
〈死神の大鎌〉を降り上げて、首筋目掛けて振り下ろした。
「そりゃぁ!」
「グゥォォォォォォォォォォォォォォォン!」
ミニケラトップスは悶絶する。
痛みで苦しみ出し、HPがガンガン減る。
緑色のバーから一瞬で黄色に変色すると、ミニケラトップスは立派なシールド上のとさかを荒立たせて、グルリと振り返ると鋭い角で貫こうとする。
「今度の方が危なすぎるよ!」
グリムは大鎌を使って角と刃をぶつけ合わせる。
するとカキーン! と甲高い音が響いた。
耳障りな音だけど、おかげで【ジャストガード】が発動。ダメージを0で抑えることに成功した。
「これが【ジャストガード】……強い!」
グリムはにこやかな笑みを浮かべると、ミニケラトップスの角に湾曲した刃を噛ませた。
そのまま手首を半回転させ、ミニケラトップスの角を蹴り上げる。
硬いはずの角は骨のようでダメージが入った。
罅が入り、脆くなったところをグリムは再度鎌を叩き付けて破壊すると、攻撃手段を失ったミニケラトップスは瀕死状態になる。
「ごめんね。これで終わりにするからねっ!」
グリムは容赦なくミニケラトップスに大鎌を振り下ろした。
すると声にもならない声を上げ、粒子になって消滅。
経験値に変わり、また一つレベルが上がった。おまけにドロップアイテムも落ちてくれたのでかなり上々な結果に大満足の笑みを浮かべた。
「やった、ミニケラトップスの角だ! これはいいアイテムだよね。早速換金しに行こう!」
嬉しくなったグリムはフォンスに戻ることにした。
荒野のダンジョンの近くにはポータルがあり、そこから一気に街まで戻ることができるのだ。
いわゆるセーフティーエリアと呼ばれる区域で、ここでは一切の戦闘も独占行為も禁止されている。そう言った憩いの場だった。
「おっ、誰も居ない。さてと街までひとっ飛びだ」
ポータルに触れると体が一瞬で飛ばされた。
テレポートした地点はいつものフォンスの噴水広場。
突然グリムが現れると、周りの人はビックリする。そんなの当たり前だ。誰だって人が突然消えたり現れたりしたら驚くのも無理はない……はずなのだが、今日は少し違った。
周りの目が尊敬と畏怖の色をしていた。
「あれ? なんでこんなに注目集めているの?」
注目されるのはいつものことだった。こんなイタイ格好していたら無理はない。
けれど今日はいつも以上だ。
何かマズいことでもしたのかと思い不安になると、その場には居られなくなってしまい、とりあえず噴水広場を離れることにした。
その間も視線は集中していた。みんなから恨まれるようなことをしたのかと不安になり、目がオドオドしてしまうのだった。
「ってなことがあったんですよ」
「そうだったんですか。でも分かる気がしますよ」
「えっ? 何かやったんですか、私」
「そうじゃないです。そうじゃないですけど、この間の放送のことが……」
「放送?」
それを聴いてピンときた。
PCOの公式配信。結局観なかったけどグリムが知らない所で何かあったのかもしれない。
不安に思いピジョンに尋ねてみた。
「何かあったんですか?」
「本当に知らないんですか?」
「はい。観てないので」
「そうですか……実はグリムさんが公式配信に出ていたんです。しかも放送のラスト、かなりの長尺でした。おまけにナビゲーターのアイさんが推すほどで」
「えっ!? 私出てたんですか。しかもアイってナビゲーターの人? 嘘だ。そんなことあるんだ」
「あるんですよ。ですが本当に知らなかったんですね、グリムさんってもしかしてゲームに疎いんですか?」
「そうですけど……マジか。本当に出られるんだ。それであの視線……まさか嫉妬!?」
嫉妬は怖い。嫉妬されたことはないけど、嫉妬で殺された人だって現実には居る。
そうは絶対になりたくない。
グリムは恐怖心が込み上げたが、如何やら不安に思うことはないらしい。
「視線の原因は嫉妬ではなく、尊敬と畏怖だと思いますよ」
「尊敬と畏怖? あまりにも掛け離れてないかな?」
「対比されるものは掛け離れているものですよ。ですが、例えばプチ有名人になった気でいるというのは如何ですか? それなら気にならなくなりますよ」
「プチ有名人……確かにそれはいいかも。採用するね」
「ありがとうございます!」
ピジョンは笑みを浮かべて礼をした。
グリムもなかなか良い考えを貰えて互いにwin-winな関係だった。
「それにグリムさんが有名になれば、この店も繁盛するはずです」
「あっ、そこに行きつくんだね」
「はい。閑古鳥が鳴くか鳴かなくなるか、休んでいる暇も無くなればきっと良いはずですよ」
「そこを目指すのは大変だ。だけど期待には応えられたらいいね」
「頑張ってくださいよ!」
「は、はぁ」
グリムは苦笑いを浮かべてしまった。
だけど謎が解けたので満足した。
もしかしたらこれからも注目されるかもしれない。
そう思えば頑張っても良い気がした。
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