第25話 白と黒の対峙
グリムと女性は互いに大鎌と長剣をぶつけ合い、火花を散らした。
女性は銀色の髪、銀色の鎧、銀色の剣。そこにシアン色のラインが入っており、とても美しかった。
けれど気迫も強さも本物。少しでも手を抜けば、グリムの方が気圧されてしまいそうだった。
「強い……」
「貴女も強い。でも私は負けない」
「それはこっちのセリフだよ。私の方が強いから」
お互い負けないことを固く誓った。
カキーン! カキーン! 《死神の大鎌》と銀色の剣がぶつかり合う。
互いに力が入っているのか、ずっしりと重い。
ここは少し力を抜こう。そう思った瞬間、お互いに力が抜けた。
手首を捻りながら、互いに柄を回転させる。全くと言っても良い動作の応酬にグリムと女性は驚いた。如何やら女性も頭を使えるタイプらしい。
「貴女は強いね。まさか同じような動きをするなんて」
「ここでこうした方が良いと思うだけ。それより貴女も強い」
「ありがとう。でもこれならどうだ!」
グリムはあえて一歩身を引いた。
不意に女性は力が抜け、前屈みになった。
あえて自分から身を引くことで、バランスを崩させたのだ。
それを好機と見たグリムは頭目掛けて大鎌を振り下ろす。けれど女性は素早く身を躱すと、剣を使って受け止めた。カキーン! と真っ赤な火花が散る。
「嘘っ!?」
「隙……じゃない」
「バレた? やっぱり強い。それより面白い!」
「……私も? それならこれでどう?」
高速で剣を滑らせた。グリムの鳩尾を切り裂こうとする。
グリムは目を見開いたものの、体をくの字に折り曲げて、剣の軌道を読んで躱した。
「危ない。ギリギリ躱せたけど……」
「まさか躱された? さっきに勘付いたの?」
「さあね。少なくともあれくらいの軌道じゃ私はやられないよ」
「そう。だったら、これやってみる!」
女性は剣を片手で振り上げ、高速で斬撃を放つ。
一振りがまるで幾つもの斬撃かと見間違えてしまう。
けれど実際はちゃんと手を動かしていた。手首を使い剣を回転させ少しずつ軌道を変えると、腕をブンブン振り下ろしているのだ。
「うわぁ! 速い。しかも正確に私を即死させようとして……」
スパスパスパスパ!
空気を切る剣の音が耳元に聴こえる。
一つ一つは上手く見えないから捌き切れない。
ジリジリと距離を詰められそうになる所を、大鎌の繊細なタッチとちょっとずつバックステップを取っているおかげでようやく対処できていた。
しかしそれを見越していたのか、女性は一瞬の隙を突いて違うことをした。
「そこっ!」
思いっきり蹴りが飛んできた。
左足一本で体を支えると、剣が上に上がった瞬間にグリムの腹目掛けて思いっきり蹴りを喰らわせようとした。
しかしそれもグリムは避ける。《死神の外套》の不確定な効果には期待せず、できる限りのことをした。
けれどほんの少しだけ掠ってしまったが、ここで確立に打ち勝ちダメージが無効化される。
グリム本人も女性も驚いていた。
「嘘っ! 攻撃は当たったはずなのに……まさか呪いの装備?」
「その言い回し、その武具も呪いの?」
「一応そう。まさかそれも呪いの装備だったなんて……面白い対決?」
女性は驚いていた。それと疑問にも思っていた。
もちろんグリムもだった。まさか呪いのアイテム持ちとこうして早々に交えることになるなんて。
規格外の装備にはそれだけのメリットもある。
他の屈強なプレイヤー達が早々にやられてしまったのも、装備の性能差かも知れない。
そうなれば立っている位置は同じだ。後は腕の比べ合いだ。
「貴女のやりたいようにはさせないよ!」
「なに!?」
大鎌を振り下ろし、女性の剣を抑え込む。
それから動けない隙を狙って蹴りを飛ばした。
女性は避けられない。苦汁を噛み締め剣を手放す。攻撃を避けると、グリムは女性から奪った剣を拾い上げた。
「どうする? まだやる?」
「……うん、やる」
女性はグリムに飛び掛かった。
一瞬姿が虚ろに浮かぶ。グリムが瞬きをしてしまった隙に、奪ったはずの剣を奪い返した。
「これで終わりにするね」
「そうだね。これで終わりにしよう!」
女性は上から剣を叩き込む。対してグリムは下から大鎌を振り上げる。
お互いに刃がぶつかり合い、火花を散らして金属の音を響かせる。
耳障りな金切り音を至近距離でお互いが聴き、苦い表情を浮かべるものの、それでも力いっぱい武器を互いの体目掛けて突き出した……がしかし、それも遅かった。
ウィーーーーーン!
サイレンが鳴った。グリムと女性は立ち尽くしてしまい、お互い武器を下ろした。
この音は何かと思ったのも一瞬、如何やらイベントは終わったらしく、さっきのはそのアナウンスだったらしい。
見ればイベント専用のバーが開き、〔対人戦イベント終了〕と書かれていた。
如何やらイベントは本当に終わってしまったみたいで、ポイント集計とランキング発表は後日になるみたいな云々がたくさん書かれている。
まあ何はともあれ、イベントは終了。このエリアももうすぐ消滅し、ようやくこのピリピリとした空気から解放されるのだ。
「終わったみたいだね」
「そうだね。……勝負はお預けってことみたいだけど、なかなかよかったかも?」
「私も」
グリムと女性は互いに武器を仕舞った。
これ以上戦う必要もないので飛ばされるのを待つ。
その間、微妙な空気が流れた。そこで女性はグリムに名前を尋ねた。
「そう言えば、貴女名前は?」
「私? 私はグリム。貴女は?」
「私はシロガネ。それじゃあ、帰る」
「フレンド登録、しよ?」
グリムがそう尋ねると、シロガネはほぼ無表情で驚いてしまった。
もしかしたら早く帰りたかったのか? あり得ないだろうが、この戦いの続きを所望だったのだろうか? 残念だがグリムにそんな気は一切なかった。
だけど何が面白いのか、シロガネは薄っすら笑う。
「そうね。それもいいよ」
「ありがとう。それじゃあ、またね」
「うん、また何処かで」
二人は良い友達かつライバルになれそうだった。
しかしグリムはライバルになる気はなく、ただ友達として良いなと思い、実りのあるイベントで楽しく終われた。
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【あとがき】
対人戦イベント、ひとまず終幕。
有象無象でもない、大事なネームドプレイヤーも出てきましたね。今後もシロガネやシャドウは出てくるかもです。特にシロガネは大事ですよ。その卓越した剣技、期待してください。
乞うご期待です。
★や感想・ブックマークして待っていてくれると嬉しいです。
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