第24話 フィールドは荒野

 いよいよ対人戦イベントも七日目、最終日になった。

 ここまでのグリムのポイント合計は四十八。

 高くもなく低くもない。けれどむしろ低いぐらいだと思った。


「マズい。これじゃあ一位になんてなれない……でも、今日は最終日だ。ここまで生き残った価値はある!」


 グリムは無事に最終日まで生き残ることに成功した。

 最終日までイベントを生き残ること。それはとてもメリットになる。

 このイベントでは一度やられてしまうと、イベントに再参加できない。

 もちろん妨害行為はもっての外。純粋に生き残り同士での熾烈な争いは続く。

 しかも最終日は一発逆転の大チャンス。なんとプレイヤーを一人倒すとポイントが五倍も入る。十人倒せば五十ポイント。一位に躍り出ることだって十分できるが、果たして何人生き残ってくれているのか。そこがキーだった。


「ふぅ。さて最終日は何処に飛ばされるんだろ」


 グリムはイベント開始時刻を待った。

 最終日はプレイヤーの数も少ないので全員が同じフィールドに飛ばされるのだ。

 果たして今回は何処に飛ばされるのだか。今か今かと待ちわびていると、急に体がフワッとしてテレポートした。


「うっそ!」


 グリムは気が付くと、そこはだだっ広いだけの荒野だった。

 草木一本生えていない。あるのはちょっと大きめの岩くらい。

 しかも時間は夕方で固定。日も暮れ始める中、ここ一時間が勝負だった。


「嘘でしょ。遮蔽物しゃへいぶつも何も無い。これは不利だよー」


 グリムは呪いのアイテムのデバフのせいで呪いのアイテム鹿装備できない。

現状持っているのは《死神の大鎌》のみ。中距離を得意としているので、ここまで遮蔽物が無いとなると、ボウガンみたいな遠距離武器で撃たれたら蜂の巣だ。


「まさか、そんなはずないよね……無いんだ」


 フラグを立ててみた。だけどそんなことはなかった。

 グリムはプレイヤーと初っ端で接敵することはなく、トボトボ歩いていた。

 すると遠くの方で銃声が聞こえる。なんだろうと思い、遠回りで行ってみることにした。

 近付いてみると、そこには遮蔽物も何も無く対決二人。一人はボウガンを構える女性。もう一人はダガーを逆手持ちする男性。三十メートルくらいの距離感で戦っていた。


(やってる……それにしても、あの男性よろめいてる。体の軸をズラしているのかな?)


 明らかにボウガンを構える女性が有利そうなのに、一射すら当たっていなかった。

 パンパン! 小刻みに射ているはずなのに、体の軸をのらりくらりと左右に動かす男性には効かなかった。

 ジリジリと距離を詰めて来る。女性はボウガンを構え、堂々と射ていた。

 だけど男性がゆっくり近づき、ニヤリと気色の悪い笑みを浮かべる。


「姉ちゃんよー、そんなんじゃ当たらねぇぜぇー!」

「はっ!?」


 男性は一瞬で距離を縮める。

 逆手持ちしていたダガーを振り下ろすと、ボウガンを構えている女性は怯みながらも、ボウガンを構える。

 けれど飛び掛かっているはずの男性は空中で体の軸をズラす。あまりの動きの違いに圧巻させられている中、グリムはここだと思って飛び出した。


「ごめんね!」

「あんっ?」

「へっ!?」


 グリムは男性が女性をやってしまおうとしていたところ、助ける形になりつつ倒した。

 首の部分に大鎌の湾曲した刃が触れると、ほぼ一瞬。男性の方から飛び込んで終わってしまった。

 ポイントが五倍入る。ズルい気もしたグリムだけど、こういう戦い方もある。

 上手く丸め込むと、今度は女性の方に大鎌を突きつける。対する助成もボウガンの矢の咆哮を合わせ、引き金に指を掛けていた。


「助けてくれてありがとう。だけど私の獲物を取らないで」

「ごめんね。でも、助かったんだよ?」

「それとこれとは話が違う」

「そうだね。それじゃあ、如何する?」

「もちろん……倒す!」

「それじゃあ、私も容赦はしないよ」


 ボウガンを構えた女性は引き金を引いた。もちろんグリムも矢の向きをしっかりと調べ済みだった。

 だからボウガンの矢が射られると、大鎌の刃でそれを阻害。

 暴発したボウガンの矢は勢いを殺され詰まってしまい、女性は次を射れなくなる。


「そんな!」

「ごめん。でも私の勝ちだね」


 女性の雁首を大鎌で突く。

 まさに刹那の出来事で、一瞬のうちに二人のプレイヤーを倒した。

 一人はのらりくらしとした長い顎髭を生やした男性。そしてもう一人は口元にマフラーをあてがったほぼ無口な女性。どちらも本気でやり合えば結果は変っていただろう。

 まさにグリムの不意打ちと頭脳が勝因になったと、安堵して胸を撫で下ろした。


「さてと次は……ん?」


 すぐ近くでキーン! と音が聞こえた。

 金属のぶつかり合う音のようだけど、何だか音が鈍い。

 一体誰だろう。そう思って戦っているであろうプレイヤーを観察することにした。

 丁度ここは荒野だけど丘の様になっている。反対側の斜面の下で戦っているようでチラリと覗き込んだ。すると驚愕したのだ。

 グリムが目にしたのは一人の女性が束になって襲い掛かって来る他のプレイヤーをなぎ倒し、今まさに斧を振りかざしていた男性の腹に強烈なパンチを叩き込んで、ノックアウトしてしまう瞬間だった。


「マジ。あの人、強い」


 直感で感じ取った。肌を無性に生温い風が吹く。

 これは武者震い? いいや、グリムは震えていなかった。

 それどころか男性プレイヤーを次々倒してしまった女性と目が合う。

 これは戦わないといけない。そう思ったグリムは逃げる思考を抱くと負けると思い、丘を滑り降りて目と鼻の先で対峙する。


「貴女が最後の一人?」

「えっ、私が最後?」

「多分そう。それじゃあ、戦う?」

「戦わずに穏便に解決できるならそれでいいんだけど……」

「面白いことを言うね。でも、まだ時間はあるから……戦わないと終わらない」

「確かにね……ん?」


 女性は沈み行く夕日を覗いた。

 その横顔が銀色の長い髪と溶け合って素敵に映る。

 如何やら平和的解決も望めそう。だけど女性は剣を構えると、グリムと戦うことを選んだ。

 そうなればグリムも一応構える。もちろん戦って解決も話し合いで解決でもいい。

 けれどこの場面では後者は取れない。そう思った二人はイベント終了まで本気でぶつかり合うのだった。まさに無言での挑戦状で、目と目で合図した。

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