第23話 荒城の夜襲3
最上階までやって来た。ボウガンの男性以降、プレイヤーと接敵することはなかった。
ここまで罠も仕掛けられておらず、快調にやって来ることができた。
つまり最上階で待ち構えている相手はよっぽどの手練れ。グリムは警戒心MAXで構えていた。
「流石に誰か居るはず……ん!?」
ふと前を見ると、人影があった。
流石に警戒はしていたが、まさか向こうも待ち構えていたとは思わなかった。
いや、よく考えてみれば分かりやすい。
ここまで暴れたのなら、発端が何処からかなど見る場所は山ほど生まれる。
気が付かれていても不思議じゃなかった。
「お前か。この状況を引き起こしたのは」
「だったら?」
「ふん。たった一人でここまで荒らすとは、それなりに頭が使えるらしいな」
「ありがとう」
素直に褒められていると受け取った。
グリムは武器を見せないようにして近付くと、男性も姿を現した。
全身黒づくめ。完全にスタイルがグリムと被っていた。
けれど相手の武器は短くて小回りの効くダガーのようで、男性は腕を組んでいたがグリムが近付くや否や即座に臨戦態勢を取った。
「動くな。それ以上動くなら」
「動かなくてもやるんでしょ?」
「ふん。当たり前だ。これ以上、俺達の見せかけの共闘を崩されるわけにはいかないからな!」
男性は素早い身のこなしで、来ていた黒いローブを揺らめかせて接近する。
グリムも素早く〈死神の大鎌〉を取り出したのだが、男性は軽い身のこなしで床を蹴り上げ、グリムの頭上に躍り出る。
「嘘でしょ。そんなアクロバティック聞いてない!」
「これもスキルだ。悪いが空中戦なら俺の方が強い」
グリムは驚いてしまった。けれどただ驚いて呆けている場合じゃないのは確か。
男性が振り下ろしたダガーはかなり分厚くて重みもあった。
けれど大鎌を使って受け止めて即死を防いだものの、ここでリーチの差が出て来る。
重さが片方に寄ってしまい、腕が痺れて仕方ない。
「このっ!」
「なかなかやるな」
「貴方もね。でも私は負けないよ」
グリムは大鎌を引き抜いた。
すると男性も驚いて距離を取ると、グリムのことを讃えた。
グリムも男性のことを讃える。けれど虚勢にはならない程度に勝ちを確信する。
その発言に面白みを感じたようで男性はにやりと笑みを浮かべると自己紹介を軽くした。
あくまでも名前程度だが、これは何かの合図かも知れないなとグリムの中で警戒心を高めさせる。
「お前名前はなんだ。俺はシャドウ・ルーカー」
「……グリムだよ。自己紹介をするってことは、もしかして見逃してくれるのかな?」
「はっ、見逃すか。俺はアイツらのことを仲間だとは思っていないが、これ以上ポイントを掻っ攫われると俺が勝てなくなる。少しでも強者は消しておいた方がいいからな。悪いがここで消えてもらうぞ!」
シャドウ=シャドウ・ルーカーはダガーを振りかざし、グリムのことを狙う。
鋭いダガーの切っ先がグリムのことを倒そうと画策する。
【アクロバティック】を使い、壁を巧みに活用してグリムのことを狙う。
頬を切られそうになり、グリムは身を逸らした。
「危ないっ!?」
「外した! だが、後ろは無理だ!」
シャドウはグリムの背後に回るとダガーで貫こうとした。
けれどグリムも簡単にやられるわけにはいかないと、体を半分回転させて大鎌でダガーを防ぐ。お互いにぶつかり合ったせいか腕にかなりの痛みと衝撃が走り、ジリジリとHPが削れていく……気がしたが、そんなものを見てる余裕はない。
如何やら互角の勝負を演出で来ているようで、グリムも冷汗を掻きまくった。
(このままじゃ勝てない。だったら!)
グリムはシャドウに駆け寄った。
大鎌を振り上げて、シャドウのことを切り裂こうとする。
作戦なんてない。まさしく強行突破だった。
けれど頭の回るシャドウにそんな手が通用するはずもなく、グリムを逆に迎え撃つ。
「焦ったな!」
「焦っては無いよ。そこっ!」
グリムはシャドウがダガーを脇腹に突き刺そうとするので、それを見越した上で右腕に大鎌を振り下ろす。
お互いに痛み分け。ダメージを受け、痛みのようなものが密かに全身に伝わる。
HPが大幅に削れ、お互いに距離を取るしかなくなる。
「痛み分けか……」
「そんなことないよ。ポーションを!」
「そうはさせるか!」
シャドウはポーションを取り出して飲もうとするグリムは手が止まった。何故かHPが減っていないのだ。
しかし動作を始めたグリムに違和感を覚え、シャドウは先手を打つべくダガーを投げつけようとする。
それを見越して、〈死神の大鎌〉を半回転させてダガーを受け止めようとした。
しかし間に合わない。困惑の中、死を覚悟したグリムではあるが、こんな所で負けたくないと鼓動が疼く。
「負けないよ。私の方が貴方よりも強い!」
その瞬間、グリムはシャドウを切った。
完全に即死判定圏内の攻撃で、シャドウはそれを躱すことができずに膝を付いた。
ダガーを落とし、苦しそうな表情に歪める。
「うわぁぁぁぁぁ……こんな所で負ける……か……くっ……ああああああああああ!」
シャドウの断末魔が響き渡った。
耳をつんざくようで脳が震えた。
耳障りだと感じたものの、シャドウは断末魔を残して消滅し、ポイントに変換してくれた。
即ち勝ったのだ。
「ふぅ。何とか勝てた」
グリムは勝利の余韻に浸った。
シャドウはかなり強かった。間一髪の所で身を逸らし、シャドウを《死神の大鎌》で切り裂けたのだ。
これもそれも選択だった。ひりつく戦いに安堵していたが、グリムは急ぎ荒城を後にする。
何故かHPが減っていない疑問は残るが、これ以上の攻防は無駄だと悟ったから。
何とか他のプレイヤーの合間を縫って脱出することができたグリムは四日目にして大量ポイントを稼げて満足だった。
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