第22話 荒城の夜襲2
グリムは荒城の中に侵入していた。
案の定入口にも敵プレイヤーは控えていた。
けれど奇襲とここまでの恐怖心を煽る行為で伝播した恐怖が見事に嵌り、簡単に背後に忍び寄って一撃で即死判定を与えてあげた。
ポイントにドンドン変わっていき、こうしてグリムは警戒しつつ荒城の中に忍び込んだのだ。
「さてと、荒城の中だと大鎌は使い難そうだから……うわぁ」
グリムは自分が使う武器がリーチの長い大鎌だということにボヤいた。
柄の部分が長いからか、建物内部だと振り回し難いのだ。
なので極力敵との接敵は避けよう。そう思ったにもかかわらず、廊下を右に曲がろうとした時、この先に敵プレイヤーが居ることを目視で見つけた。
「マズいな。このままじゃ確実に接敵する。しかも向こうは小回りの利く剣だから……仕方ない。回り道をして……って無理だよね」
振り返ってみたがこの荒城は一方の咆哮にしか回れないかなり不便な造りをしていた。
けれどこれは利にも適っていて、入って来た敵を待ち伏せできるのだ。
だが侵入者側からしてみればたまったものじゃない。絶対に相手の思う壺に嵌らないといけないのだ。ここからが本番、グリムの脳裏に緊張感が走る。
「戦いたくないけど……そうだ!」
グリムは考えた。何も無理に自分から戦いを挑む必要は無いのだ。
数の不利は絶対に自分にあった。
けれどそれを打開する手段はある。
数が不利なら頭と地形を使い、敵を望む場所に追い込めばいいのだ。
「ほれ」
コロン!
小石が転がった。
廊下にコロン! と音が響き、壁を伝って反響した。
すると見回りをしていた男性は侵入者だと思い警戒しながら近付いて来てくれる。
「何者だ! ……誰も居ないのか?」
男性は一歩一歩丁寧に、ポツポツと歩き進める。
松明の火を振り、侵入者が居ないか確認する。
しかし誰も居ないことを確認すると、ハッと鼻で息を荒げた。
「誰も居ないのか。俺の勘違いか……ぐはっ!」
振り返って持ち場に戻ろうとする男性プレイヤー。
そこをグリムは絶対に見逃さない。
大鎌を男性の首にかけて、粒子へと還す。
ポイントをまた一つ手に入れ、無事に廊下の先へ行くことができるようになった。
「これで先に行けるね。とは言え、こんな奇策ばかりはそう長くは続かないんだけど……うわぁ!」
階段を上って最上階を目指した。
螺旋状になった独特な形状なのだが、そこで敵から攻撃を受けた。
如何やらボウガンを構えたプレイヤーが潜んでいたらしく、二段階の構えになっていた。
「侵入者だな。消えて貰うぞ」
ボウガンを装備した男性プレイヤーは的確に狙いを定めると、グリムにボウガンの矢を打ち込む。
対するグリムは防戦一方。ただでさえ狭い建物の中、しかもここは螺旋階段だ。
確実に上を取った方が有利になり、空間を広く使えた。
そのためかなりピンチだった。このままじゃ蜂の巣にされると思い、グリムは強硬手段に出た。
「こうなったら!」
かなり無茶苦茶な方法を試すことにした。
大鎌を前に掲げる。すると男性は目を見開いて驚いた。
「何だアレは!? そんなものを振り回すつもりか」
馬鹿げていた。
螺旋階段は確かに横の幅は広いが、斜めは高さが低い。
そのせいで棒を振り回すつもりなら簡単にぶつかってしまう。
そこから切り返す隙を突けば、一瞬仕留めることは可能だと男性は睨んでいた。
まさにそうだ。グリムも判った上で試している。何故ならこれしかボウガンの矢を掻い潜る手段は残っていないから。
「血迷ったな」
男性はボウガンを構えた。左腕を突き出して引き金を引く。
パン! とボウガンの矢が勢いよく放たれる。
狙いはグリムの頭。勢いよく射出され、グリムの頭を射抜いたと思われた瞬間、前に突き出していた大鎌の刃に何故かボウガンの矢は弾かれてしまった。
「なに!?」
「見えた」
グリムは男性の姿を完全に黙して視認する。
見られた男性も意図に気が付いて移動しようとする。
けれどこれ以上上に上がれば追い詰められる。男性は冷や汗を掻いて焦った。
「まさかあの女、俺の進路方向まで読んでわざと……面白い」
男性は螺旋階段を上るのを止めた。
ここで迎え撃つことを決め、ボウガンの矢をとにかく射続ける。
シュパン! シュパン!
引き絞られた弓の弦が一気にたわむと、ボウガンの矢が勢いよく射られる。
今回も頭を狙っていたが、続けざまに第二射を射る。
一本目は防げても、二射目は防ぎきれない。ましてや射角も変えていて、狙いは脚。機動力を削ぎに行ったのだ。
けれどグリムは男性の射線を見逃さない。力強い眼が男性のやりたいことを【看破】の併せ技である程度見切ると、立ち止まって大鎌を振り上げる。
「そりゃぁ!」
一射目は大鎌の刃に弾かれる。壁に反射して下に落下していく。
二射目もすぐ来ていた。けれど狙いが左脚だと分かっていたので、軽く後ろに上げるとボウガンの矢は虚空に消えてしまった。
「完全に読まれている!?」
「うん。だからこそ、その読みを確信に変えられるように隙を作っているんだよ」
「なんだと?」
「そして隙を外した瞬間、相手は次を悟らせないようにするため隠そうとする。そこが一番の隙になる!」
グリムは一歩前に足を出した。
その手には《死神の大鎌》が握られているが、いつの間にか柄の部分に紐を巻き付けていた。しかし男性はそんなことに気が付くこともなく、急ぎその場から退散しようと上の階へと行こうとする。だけど背中を見せた瞬間、グサリと突き刺さるものを感じた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
男性は発狂した。グリムが投げ付けた《死神の大鎌》の刃が心臓の部分に突き刺さっていたのだ。
男性の断末魔が螺旋階段の渦を回転するように反響した。
しかし次の言葉が出ることはなく、男性が消滅してポイントに変換された。
「ふぅ、危なかった。横だと的が小さいけど、振り返ってくれたおかげで届いたよ」
グリムもヒヤヒヤしていた。けれど最終的にグリムの読みの方が上回った。
安堵して胸を撫で下ろすグリム。
最上階を目指し、螺旋階段を上るのだった。
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