第21話 荒城の夜襲1

 対人戦イベントが始まってから四日目。

 ここまでの成績で言えば、二十三ポイント。

 果たして良いのか悪いのか。きっと良くないはずだ。

 グリムはこのままじゃ勝ちも負けも無いと思い、今日はある場所に向かうことにした。


「この辺りのはず……見つけた」


 グリムは闇夜を歩いていた。

 周りには誰も居ない。モンスターの影もない。

 一人ぼっちで歩いているのは小高い丘へと続く荒れた道。

 もちろんしっかり整備された道は用意されているのだが、残念ながらそれを使うことはできず、少しの苦行を背負っていた。

 それもそのはず、これから向かおうとしている場所はちょっとした戦火の上がる場所なのだ。


「ピジョンが言っていたのはあの荒城だよね」


 目を凝らして注視する。

 暗すぎて誰が居るかも分からない黒い城だった。

 窓が幾つもある石を積み重ねて建てられた城のようだが、残念だが過去の栄光と言うのだろうか。今では朽ち果てており、所々が老朽化して危ない。

 しかしインベントリから取り出した単眼鏡を使って覗き込むと、人影のようなものがチラホラ。手に松明を持っており見回りをしている。

 如何やら集団で共闘し、荒城を根城にして暗躍しているようだ。

 ピジョンの言っていたことは全て的中している。


「固まっている人影はそこまで無いけど、全方位をカバーできるように配置しているんだね。これを一人で殲滅できればきっと大量得点間違いなしだろうけど、さてと如何しようか」


 グリムは集団を単騎で倒そうと画策していた。

 一体如何やったらそんな上手い話が可能なのか、グリムは悩んだ。

 腕を組んで考えてみたが、全く思いつかない。

 罠の様なものを張ろうにもどうせ出て来てはくれないのだ。

 こうなったら、こっちから先手必勝で躍り出るしかない。


「とは言いつつも、勝ち目が無いわけじゃないんだよね」


 グリムには勝ち目が無いわけじゃなかった。

 戦略と呼べるプランは無かったが、それでも勝ちに行く手段は残っている。

 どのみち相手は思考のある人間だ。NPCやモンスターの様に特殊なAIが搭載されているわけじゃない。

 それならば人間らしく、恐怖心に語り掛ければいい。

 なに、グリムならそれが出来る。グリム・リーパー相手に精神をすり減らしながらも打ち勝ったのだから不可能では無かった。

 今度はアレを自分で真似すればいいと、グリムは一人一人相手にすることにした。


「さてと行こう」


 グリムは素早く丘から身を消した。

 〈死神の外套〉の中に〈死神の大鎌〉を隠し、丘を滑り下りながら荒城に近付く。

 その間に他のプレイヤーに遭遇することはなかった。

 案の定、多くのプレイヤーが共闘し根城にしていることから単独で近付こうとはしないのだろう。


「どれどれ……流石に警戒心が薄いなぁ」


 近くに積まれた瓦礫の裏から顔だけ少し覗かせて確認する。警戒してグルグル回る警備の男性プレイヤーの姿が映った。

 欠伸をしているので、如何やら暇を持て余している。

 覇気などもなく、完全に警戒心が薄らいでいた。

 どうせこうなるとは予想していた通りで、誰も来ないからと高を括っているらしい。チャンスはグリムに傾いていた。


「ふはぁー、暇だぜ。どうせ誰も来ないだろ」


 男性は大きな欠伸を一つ。

 グリムは男性が後ろを振り返った瞬間、隠れていた瓦礫の裏側から姿を現した。


「そりゃぁ!」


 男性に向かって大鎌を振り下ろす。

 すると欠伸をしていた男性は驚いて目を回すが、それだともう遅い。

 松明を放り投げ剣を抜こうとしたものの、間に合わずに顔面から切り裂かれた。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 男性の熾烈な断末魔が絶叫を呼んだ。

 耳障りに感じるかもしれないが、グリムは自分が倒したことをしっかりと受け止めると、男性の首を掻っ切る。

 そのまま消滅してしまい、ポイントに変換された。


「まずは一人。このまま一人ずつ倒して行けば良いよね」


 グリムは自問自答して納得する。

 見張りの男性を一人を速やかに仕留め、次を倒しに行くが、如何やら先程の男性の声のおかげか、他の見張りも寄って来てくれた。


「なんだ! 如何した、何があった!」

「次が来た。そりゃぁ!」


 グリムは素早く距離を詰め大鎌を振り抜く。

 するとやって来た男性は軽い身のこなしで半歩分後ろに下がる。

 それを見たグリムは目を見開く。けれどすぐに睨んだ力強い眼を浮かべると、自分も半歩前に出て、足りないリーチを補った。


「な、なんだよお前! 何処から湧いて……」

「気が付かなかったのは貴方達の怠慢だよ」


 グリムは声を荒げる男性に突き付け、大鎌で武器を取り出そうとする腕を弾く。

 そのままのけ反って怯んだ瞬間、自分の体を回転させて遠心力を加えると、男性の体を切り裂く。

 一瞬の出来事に男性は恐怖した。それが伝播するように大絶叫が巻き上がる。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 またしても簡単に倒せてしまった。如何やらこのやり方はグリムにあっているらしい。

 ポイントがまた一つ溜まり、にやりと笑みを浮かべる。

 この調子で外周に居る他の見張りプレイヤーを仕留めて行けば良い。

 共闘と言うことは何処かで寝首を掻こうとしている人達も居る。

 この大絶叫が伝播することで、それを煽って混乱が起こればより注意が散漫になって、グリムのポイント稼ぎに繋がると読んでいた。

 現にグリムの予想は人知れず当たっていた。


「今のなんだよ。何処から聞こえてきたんだ!?」

「分からん。けどな、何処からか敵さんがやって来たっちゅうわけや」

「そ、そんなの聴いてねえぞ」

「冗談じゃねえ。次は俺かも知れねえんだぞ。こんな中途半端な所でやられてたまるか」


 プレイヤー達が疑心暗鬼になる。

 恐怖心が伝播して、MENのパラメータが低いプレイヤーから混乱を呼んだ。

 知らず知らずのうちにグリムの予期していた戦略は成功しているのだが、当然本人は知る由もないのでした。

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