第15話 鉄鉱石を求めて

 フォンスから北に向かって数キロ。

 見えて来たのは大きな山だ。

 山とは言っても緑豊かな、the山ではない。

 土色に禿げてしまったようで、いわゆる鉱山と言った雰囲気がよく似合う。もしもここにブルドーザーやショベルカーなどの大型重機があれば、一発で立ち入り禁止だろう。


「ここがジメスト鉄鉱山」


 グリムはポツリと呟いた。

 知り合いになったNPCでギルド会館の受付嬢リムンから教えて貰ったのだ。


「いざ来てみると、これかなり大変そう」


 実際、近付いてみるとその規模感が一発で理解できる。

 何と言おうか。そう、山だ。しかしただの山じゃない。絶対に奥まで探索したその日には一日じゃ帰って来れないのは確実。

 グリムは気を引き締め、胸の部分を掴んだ。


「まあ行くしかないんだけどね」


 グリムは考えてもしょうがないだろ諦める。

 どのみち依頼を引き受けた以上、鉄鉱石を持って帰るしかないのだ。

 モンスターの素材をギルド会館で買い取って貰ってそのまま流れで買ったツルハシをインベントリの中に放り込んでいた。

 コレを腐らせる気はないので、グリムは心拍数を閉じ込めて鉱山の入口らしき所から中へと入った。


「うわぁ、暗い」


 中は案の定暗かった。しかもこのゲーム、意地悪な仕様で明暗調整ができない。

 同じくインベントリの中に入っていたランタンを取り出す。

 リムンが「コレも持って行った方がいいですよ」と言ってくれたのはまさしく的確で、もしもランタンがなかったはと思うと、探索なんてとてもじゃないができるわけがなかった。


「さてと、鉄鉱石は……鉱脈を見つけないとしんどいかな」


 闇雲に探しても見つかる気がしない。

 視線をキョロキョロ動かしていたグリムはそこに行き着く。

 普通のRPGだと光っているや、色が濃いなどの判りやすい判定があるのだが、PCOにはそれが無い。

 ガチの眼力、目力が全てだった。


「うーん、コレかな?」


 グリムは不安ながらも、壁から剥き出した塊を見つけることに成功した。

 とりあえずツルハシを手にする。

 インベントリから取り出す際、「如何してコレは装備できるんだろう」と、呪いのアイテムと競合しないことに驚く。

 如何やらコレは装備品では無い扱いなので、普通に使うことができた。不思議だ。


「せーのっ!」


 ツルハシを大きく振り上げると、力強く叩きつけた。ガツーン! と、腕に衝撃が伝わる。

 普通に手が痺れる。長時間は無理だ。

 きっとSTR(筋力)が高かったらこんな目には遭わない。グリムはSTRが足りていないことを気にしつつも、ツルハシを振り下ろし続けた。

 するとゴリッ! と、鈍い音と共に塊から何かが転げ落ちた。


「あっ、なんか落ちて来た」


 作業をやめて拾い上げる。

 ランタンを近付けてみると真っ暗な石だった。

 しかし何処か金属のようにツルリとしていた。分からないでいると、アイテムを入手したことをゲーム側がシステム的に教えてくれる。



〈鉄鉱石〉

分類:鉱石

レア度:F

品質:NQ(ノーマルクオリティ)

説明:鉄成分を多分に含んだ鉱石。広く一般的であり、高温の熱によって容易に溶ける。



「やった、鉄鉱石だ。これで最低限は確保できたかな」


 グリムは転がってきた石ころを拾い上げた。

 見事、狙っていた鉄鉱石を入手することができた。

 最低限確保できたことに安堵したもの、まだまだ鉱脈は剥き出しになっている。

 グリムは改めてツルハシを振り上げると、再び剥き出しの鉱脈に振り下ろした。


 ガツーン!


「ううっ、腕が痺れるな」


 グリムは腕に振動が来て痺れてしまった。

 ここまでリアルにしなくてもと一瞬運営側に文句を言いそうになるが、それ故に一つ一つのありがたみが伝わる。

 しかも必ずしも鉄鉱石が出てくれるわけではない。

 他のゲーム同様、スカることもあった。


「あちゃ? ただの石だ」


 せっかく転がって来た石ころを拾い上げると、本当に石ころだったりする。

 これはほとんど価値がない。だって拾おうと思えばそこら中に落ちている。

 グリムは頭を掻きながら、再び頑張ってツルハシを振り下ろした。

 ガツーン! ゴリッ! 剥き出しの鉱脈が少しずつ削れていき、気が付けば凹んでしまった。


「ふぅ。大体五個から六個かな。それにしても渋い……これもLUKが関係しているのかな? ステータス、上げないとなー」


 グリムは戦闘して経験値を得たいと思った。

 それでも手に入れたい分の鉄鉱石は集め終わったので、まだ気楽でいられた。

 これが集まってなかったらと思うと……想像したくないので、グリムは目を伏せてインベントリの整理をした。

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