第16話 忍び寄るモンスター

 鉄鉱石も無事に手に入れ、インベントリの中に最低限の量を入れておく。

 だけどまだまだ足りない。

 グリムは他にも剥き出しになった鉱脈があるのではと思い、ランタンを近付ける。

 首を近付けてみればまだ幾つも鉱石の詰まった鉱脈がある。

 これは掘った方が良いなと思い、グリムは歩みを寄せた。

 ツルハシを振り上げると、ガツン! と勢いよく叩きつけるが、落ちてきた鉄鉱石を拾い上げようとすると、背中をゾクリとする感触が過った。


「えっ?」


 グリムは振り返った。もちろん誰も居ないし、何も無かった。

 気のせいかなとも一瞬思った。

 しかしグリムはそこでなぁなぁにはしない。ランタンを近付けると、薄めになって目を凝らした。

 すると地面を何かが這っているのを見つける。モンスターだろうと分かってはいたのだが、先程ゾクリとした感触に苛まれたせいもあり、やけに視線を釘付けにされてしまった。


「気のせいなんだろうけど……不気味だな」


 グリムは一言ポツリ呟いた。

 しかし作業に戻ろうと振り返りツルハシを握る。

 大きく腕を振り上げ、ツルハシを鉄鉱石の鉱脈に叩き込もうとした。

 その時だった。全身を悪寒が駆け抜け、グリムはハッとなって振り返る。

 そこには黒くて平べったい影があった。しかもグリム目掛けて飛び掛かって来たのだ。


「な、なに!?」


 グリムは瞬間的に地面を滑った。

 後ろに向かって細かなバックステップを使って飛び掛かって来たモンスターを躱すと、それが先程の這っていたモンスターだと気が付いた。


「蜥蜴? それにしても平べったいし、肌も岩っぽい?」


 あまりにも特徴的な姿をしていた。

 大きさも見かけた時はあくまでも尻尾の一部だけしか見えていなかったようで、全長が一メートル近くもある。

 肌は岩の様にゴテゴテしていて、ランタンを近付けると光が反射している。

 それでも灰色に近い色味をしていて、鋭い牙が生え、暗闇でも満足に行動できるようにするためか目が退化して白目の水晶体に置き換わっていた。


「もしかして、私が鉱石を掘っていたから襲って来た?」


 グリムは冷静に分析し、名前の分からない蜥蜴のモンスターを睨んだ。

 蜥蜴のモンスターことイワトカゲも、グリムに奇襲を仕掛けたものの躱されたことで警戒心をMAXまで高めている。これは相当手強そうだと、グリムの思わせる。


(如何しようかな。鉄鉱石は十分手に入ったからこのまま退却しても良いんだけど……向こうはそうさせてくれる気無さそうだよね)


 イワトカゲはグリムを逃がしてはくれないらしい。

 ただでさえ平べったい体をより地面に吸い付くように、前脚と後脚を上げていた。

 こうすることでいざとなった時に飛び出せる。逃げる余地を封じられたグリムは〈死神の大鎌〉を取り出すと、イワトカゲ相手に怯む様子はなく真っ向から迎え撃った。


「私も鉱石を持ち帰らないといけないんだよ。ごめんね」


 〈死神の大鎌〉を振り上げて、イワトカゲに切り込む。

 大振りではあったが、確実にイワトカゲにヒットする。

 武器のATKがイワトカゲの硬い体にRESされ、HPはあまり減ってくれない。

 苦い顔を浮かべると、イワトカゲはここぞとばかりに攻め込む。


「シャッ!」


 長い舌を突き出して、グリムのことを押し付ける。

 それを素早く躱すもイワトカゲは前脚の鋭い爪をギラリと光らせて、切り裂こうと果敢に攻めて来る。


「ちょっとウザいかな」


 大鎌を前に小さく突き出して防御。湾曲した刃の外を向けていた。

 カキン! カキン! 金属がぶつかり合う音が聴こえた。

 鉱山内の洞窟で音が反響して耳がキンキンする。

 グリムは表情を濁したが、イワトカゲを倒さないことには収まりそうにない。


「仕方ない。そりゃぁ!」


 グリムは身を小さく屈める。

 イワトカゲの攻撃が届く範囲を姿勢を変えることでいなしてしまい、硬い爪が湾曲した刃の外側を弾いた。

 完全にすっぽ抜けてしまうと、イワトカゲの首から下が露出する。

 そこを隙だと見たグリムは右前脚を大きく前に踏み出し、大鎌でイワトカゲを掻き切った。


「ッシャァ!」


 イワトカゲは発狂した。

 しかし急所に入ったのかHPバーが空になり、イワトカゲは即死してしまった。

 グリムの経験値に変わり、ドロップアイテムとしてたくさんの鉄鉱石を残してくれる。


「何とか倒せたね。それにしてもこんなに鉄鉱石を貰えるなんて。ありがとう」


 グリムはドロップアイテムを確認して、インベントリの中に仕舞っておく。

 それから討伐したイワトカゲに感謝した。

 おかげでもう少しでレベルアップもできそうで、鉄鉱石も大分集まったからだ。


「もう少しだけ採ろうかな」


 グリムは今見えるだけの範囲にある鉄鉱石を採っておくことにした。

 ツルハシに再度持ち替えて作業を続ける。

 カチン! カチン! と細かな音が響いた。

 ゴロゴロ鉄鉱石が採れてくれるので、一つ一つ拾い上げてグリムは笑みを浮かべる。


「これだけあれば十分かな」


 グリムは大量の鉄鉱石を入手することに成功。

 袋に詰めると口を縛り、中身が飛び出ないようにしつつインベントリの中に放り込む。

 ここにはもう用はない。無駄なことはしないと決め、グリムはジメスト鉄鉱山を後にした。

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