第13話 即死判定があるゲーム
気が付くと機械が目元に当たる感触。
童輪は放心状態だったがVRドライブを外すと、爛々と天井から注がれる電灯が眩しくて手で避ける。
(眩しい……)
童輪は眉根を寄せて、顔を顰めた。
しかしながら一体。ここに自分の意識があると言うことは……と、童輪は我に返る。
「えっ?」
童輪は何が起きたのか分からなかった。
しかし頬を撫でると、ジットリとした感触。
血の気が引いてしまい、顔面蒼白になってしまった。
「もしかしてだけど、私死んだ?」
童輪はポツリと呟いた。
もちろんそんなことはないと信じたい。
けれど考えなくても分かる。ここにいると言うことは、つまりそう言うことだ。
童輪はメタクロベアーにやられてHPがゼロになった。結果強制ログアウトさせられてしまい、童輪は焦る。一体何が起きたのか、何故デバフ最強装備の自分がやられたのかと、悩んで悩んで捻り出す。
「もしかして、即死とかある?」
正直、そんな仕様があるのか如何かすら分からない。
童輪は「まさかね」と薄ら笑いを浮かべた。
そんなこと信じたくない自分もいたが、それしか考えられない自分もいて、内心ではてんやわんやになっている。
「でも、それならちょっと面白いかも」
ここで童輪はあえて逆に考えた。
モンスター相手に呆気なくやられてしまうなんて、むしろこれは清々しいのではないのかと。
もちろん悔しいは悔しい。でも、やられたのなら次はもっと上手くすればいい。
頑張ってみようという気持ちが体の内側から溢れるも、流石に再ログインは出来ない。
「確か一回強制ログアウトさせられると、しばらくはログインできないんだよね」
リアル時間で八時間。
プレシャスコード・オンラインの世界では現実の八時間がゲーム内の一日に相当する。
なので丸々一日分ログインできないのだ。
これは相当痛い。だけどどのみち脳への負担を考えられていて、一日に八時間までしかプレイできないように調整もされていた。
「うーん。まあいっか、今日はもう寝よう。っとその前に……」
スマホを取り出して今日の株をチェックする。ボチボチ伸びて来た海外の株、それから設立当初からビビッと来た日本の会社。
どちらもかなり良い伸びをしている。
童輪はそこまで株に全力投資ではなかったが、自分が見込んだ会社が伸びでくれるのは嬉しくて笑みを浮かべた。
「私ももっと頑張らないとね。無理しないようにだけど」
そう言うと、スマホを置いた。
やることもないので眠ることにして、童輪は部屋の灯りを落とす。真っ暗闇になり、目をゆっくり閉じ、少ししてから眠りに就いた。
「あちゃー」
「何観てるの? ……またこのプレイヤー?」
アイはディスプレイをガン見していた。
そこにやって来たナミダはアイが悔しそうな表情を見せたのを目撃する。
もの凄く意外だった。ここまでアイの関心を惹くなんて、一体どんなプレイヤーだろうと思った
しかしディスプレイに映り込んでいたのは、案の定黒い外套を羽織る女性。大鎌を振り上げ、メタクロベアーに挑み敗北した瞬間だった。
「メタクロ? 序盤だと少し強めのモンスター」
「惜しかったよね」
「そう?」
ナミダの目にはそこまでは映らなかった。
普通にメタクロベアーにやられていた。
もしかすると、かなりレベルの差があったのかもしれない。
いくら攻撃力の高い武器を使ったとしても、レベル差があるということは、それだけモンスター相手には立ち回りが厳しくなる。
もちろんプレイヤー同士ならほとんどレベルの差なんて関係ない。武器と防具、それからステータスの差分なんて気にしなくていいくらい、その人のポテンシャルが試されるのだ。
しかし今回はモンスターだ。個人のポテンシャルの発揮もそうだが、やはりステータスや武器も大事。
メタクロベアーの最低レベルは確か8のはずだ。
このプレイヤー、最近このゲームにログインし始めた様子で、まだ満足のいくレベルでもアイテムも持っていなかった。
「勝てると思ったんだけどね」
「随分と期待してる」
「そうだね。でも、即死判定を喰らっちゃったら仕方ないよ」
「即死判定? そこまで行ったの?」
「うん。最後に右腕で吹き飛ばされて、大木に後頭部をね。本当、後一押しだったんだけど」
アイは期待を込めていた。しかし即死判定を受けたら仕方ない。
プレシャスコード・オンラインでは即死判定を採用している。
それはどんなプレイヤー、どんなモンスターでも勝てる可能性があることを意味していて、どんなに強くてもどんなに弱くても油断しては負けることを表していた。
「即死判定は一番気をつけなくちゃいけない」
「うん。頭、首、心臓……大事な所は守らないとね」
「ここを一定以上損傷して、生命活動が困難になるとそのまま強制ログアウト。この仕様はかなりシビアたけど、それだけ差別化もできてる」
「ナミダのおかげだよ。ありがとう」
「どうも」
アイはナミダにお礼を言った。
ナミダは淡白な返しをしたが、眉根がピクリとする。嬉しいけれどそれを隠そうとするのが可愛くて、アイはナミダをソファーの隣に招き、ディスプレイを見つめるのだった。
その目はやはり期待をしている。こんなに胸を突き動かす衝動は久方ぶりだった。
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