第12話 戦えるようにするには?2

 何故かグレーウルフを倒すことができた。

 おまけにレベルもアップした。

 それにしても、グリムは何故戦えたのか全く分からなかった。


「えっ? なんで勝ったんだろ」


 グリムは腕を組んで考えてみる。

 しかし考えても出てこない。だけど一つ思うところがあるとすれば、スキルと装備の兼ね合いかもしれない。


「もしかして、私が気が付いてないだけど、もの凄い紙一重の組み合わせだったりして?」


 ステータスをチラッと確認した。

 装備を改めて確認する。

 するとグリムは気がついてしまった。コレは紙一重だったかもしれない。


「この装備……いやネックレス、こんな効果が付いてたんだ」


 気になったのは首から下げるネックレス。

 ドクロの形をしているが、もの凄く強かった。



〈死神のネックレス〉

レア度:X

効果:ステータス(全て)−X 装備変更不可

説明:ドクロの形をした〈死神〉シリーズの装備の一つ。精神系攻撃を一切受けなくなる。相手からのステータス変化攻撃を無効にすることも任意で可能。



「んで、このスキル……」


 次に確認したのはスキルだ。

 気になったのは明らかに浮いている【精神相殺】。改めて効果の説明を読んでみると、全てが噛み合う。



スキル【精神相殺】

条件:MENのパラメータをゲーム開始時点で100以上であること。

説明:精神系攻撃の無効化。マイナス補正を調整し、プラス補正へと変更する(数値上では変わらない)。



 つまりは呪いのアイテムの持つデバフ効果。

 コレが精神に悪影響を与えるデメリットだと判断されて、スキル【精神相殺】により相殺。むしろそこから逆転され、プラスの効果に変わっている。

 ここから導き出されたのは、デバフ装備を・・・・・・集めれば集めた・・・・・・・分だけ・・・ステータスが強くなる・・・・・・・・・・のだ。


「なるほど、だから私は強くなったんだ。って、これ強すぎないかな!」


 グリムは納得したは良いものの、あまりに強すぎてドン引きした。

 きっと誰にでもできるわけじゃない。

 だけどここまで強いとなれば、きっと修正対象になる。せっかく喜んだのも束の間、そのうち運営に下方修正されると勝手に思い込んでしまった。


「まあいいや。それまで全力で楽しもう!」


 しかしここはMENの高さが功を奏す。

 変なことは考えないで気持ちを高めポシディブに捉えたら、とっても心が楽になる。

 腕を振り上げ元気を出す。すると近くの草むらがガサゴソと揺れ出していて、意識を切り取られる。


「またグレーウルフかな?」


 それならもう余裕だ。

 そう高を括ったのも束の間、草むらから巨大な手が突き出した。


「グマァ!」

「く、熊!?」


 流石にコレは想定外だった。

 草むらから飛び出してエンカウントしたのは、巨大な茶色い熊だった。

 見た目的にはヒグマとかグリズリーだけど、サイズ感は少し小ぶり。

 しかしここ来て初めての自分よりも大きなモンスターに、心拍数が跳ね上がる。


「絶対ヤバいよね」


 大鎌をギュッと握りしめる。

 正直、自分は戦えると気が付いたグリムだけど、流石に心許ない。

 まだ二日目、初めて二日目でこんなに強そうなモンスターに出遭うとなると逃げるのも視野に入れるが、現れた熊ことメタクロベアーは雄叫びを繰り出す。


「グマァ! グマァァァァァ! グマァァァァァァァァァァァァァァァ!」


 グリムは耳を塞いだ。何故か体が動かなくなる。

 如何やらゲームではお馴染みの咆哮を喰らってしまったらしい。

 咆哮を喰らうとハウリングにより、全身が硬直して一時的に神経と筋肉が麻痺して動かなくなる。この手のモンスターではありがちだが、実際に喰らうと話は違う。本気で動けなくて、メタクロベアーに先手を許す羽目はなった。


「う、動けない……はっ!」


 気が付くとすぐ目の前に分厚くて黒い爪がギラリと輝いていた。

 メタクロベアーは動けないグリムを格好の獲物と見たのか、鋭い爪で切り裂こうとする。

 動かないから避けられない。グリムは目を瞑って死ぬんだと思った。

 恐怖心を振り払い足掻いたが、それも遅かった。メタクロベアーの爪が、グリムのことを切り裂いた……筈だった。


 シュン!


「あれ?」


 メタクロベアーの振りかぶった爪は、確かにグリムは体に触れた。だけど痛みは一切なかった。おまけにHPも減っていない。

 何が起きたのか。グリムにはさっぱりだった。

 本当ならやられていたはずが、まるですり抜けたみたいな感触に助けられる。


「もしかして、低確率を引いた?」


 低確率で物理攻撃を無効にできる〈死神の外套〉。その効果を見事引き当てたらしく、グリムはありがたかった。

 その頃には咆哮によるハウリングも解けていて、グリムは素早く立ち上がると、接近していたメタクロベアーから距離を取るのではなく、逆に攻め込んだ。ここが勝機と見る。


「そりゃぁ!」


 大鎌を振り上げ、湾曲した刃でメタクロベアーの腕を押さえ込む。

 動きを制限させ、その隙に更に接近。懐に飛び込んで、引き抜いた大鎌を叩き込む。


 グサリ!


 メタクロベアーの胴体、左上から右下にかけて切り裂くとダメージ判定が入る。

 すると頭上のHPバーが変動。

 STR(筋力)の倍率に〈死神の大鎌〉のATKが乗る。そこにメタクロベアーのVIT(生命力)から引かれたRES(抵抗)によってダメージが決定。結果として、三分の一程度は削れ、かなり減ったからクリティカルを出せたようだ。


「これなら行ける!」


 退かなくて良かったと思った。

 あそこで余裕を持って下がっていたら、絶対にこんな結果は生まれなかった。自分の選択が間違ってない方を確信し、このまま倒せると察する。

 もう一歩踏み出して、大鎌を振り上げる。

 今度は頭、一撃で仕留めると誓う。


「これで終わりだよ!」


 グリムはジャンプして飛び込む。

 大鎌を振り下ろそうとしていたが、次の瞬間全身に強烈な痛みが襲う。


「ぐはっ!」


 何が起きたのか分からない。

 体が急に右に吹き飛ばされた。

 見ればメタクロベアーの右腕が伸びていて、グリムのことを吹き飛ばしたのだ。もちろん見えていないわけじゃなかったが、爪も伸ばしておらず俊敏な動きと強靭な腕力だけで吹っ飛ばされた。今回は物理攻撃無効も発動してくれず、完全に油断していた。


 ズドン!


 後頭部が近くの大木にぶち当たる。

 痛みが全身を襲い、立ちあがろうとすることもできない。

 メタクロベアーは草むらに逃げ込む。その姿を目で追ったものの動かないまま意識が飛んでいき、視界がブラックアウトすると、グリムはその場で倒れ込んでしまった。そこからの記憶が少し無かった。

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