第11話 戦えるようにするには?1

 グリムは今日もログインしていた。

 祭理がログインして来るまでなら、なんとかして戦えるようにならないといけない。

 完全に焦っていた。

 グリムは馳せる気持ちが先行してしまい、とりあえずログインしたものの、ここから先に何ができるのかイマイチピンと来ていないのだ。


「さて、これから如何しよう」


 フォンスの噴水広場にて、グリムはベンチに座っていた。

 相変わらず痛い格好のせいか、誰からも話しかけられないし、話しかけられても困る。


 それにしても視線が多い。

 ゲームを始めて二日目にしてこの格好はかなり勇気がいるのだろう。

 全身黒ずくめで、完全に不審者を演じていた。


「ううっ……視線が痛い」


 グリムは別に何か嫌がらせをされるとか、そんなことはないものの、誰彼構わずの視線が目に付く。

 もちろんプレイヤーだけではなく、高度なAIを積んだNPC達も同じだった。

 そんなに変なのかと、一瞬自分の姿をステータスバーの反射で確認すると、自分の口から「うわぁ」と似つかわしくない自分に嫌気が差す。


「これは……いや、信じるしかない。なんとかなる!」


 グリムは逆手に取ることにした。

 人目を惹くのなら、惹かせないようにすればいい。

 そのためには何をすればいいのか。この明らかに死神をモチーフにしたと丸分かりな格好から、強さを演じればそれだけで何か変わるのではないだろうか。

 怖い人ではなく、優しい人。だけど舐められない程度には強い人。そんな人を目指したいと、何故か立てなくてもいい目標を掲げる。


「よし、頑張ろう!」


 さてさて、何を頑張ればいいのか。

 とりあえずデバフされたこのキャラことアバターで戦う術を見つけるべく、とりあえず試しに街の外に出た。

 その際も視線が自然と集まってしまい、少しだけ恥ずかしかった。




「さてと、これから如何しよう」


 街の外に出て、とりあえず森にやって来た。

 しかしグリムは何をしたら良いのか再度考える。

 戦うとは言っても、強くなるにはモンスターを狩る必要がある。しかしデバフされてしまっては戦っても勝てるとは思えない。


 本来デバフは自分のステータスの一部を縛ることで何かを突出させたり、逆に遊びとしてやるだけだ。不本意にこんなことになっては意味がないので、〈死神の大鎌〉を装備したグリムは困り果てる。


「くぅー、鎌なんて使ったことないって」


 グリムは慣れない動きで大鎌を振り回す。

 だけど全然ダメ。まともに扱えたものじゃない。


「この辺はスキルないのかな?」


 多分扱えてないから使えてない。

 そもそも剣を使った時でさえスキルは貰えなかった。

 ってことは、武器に関してはスキルは無し。

 ガチで自力を要求して来ていて、グリムは難しい局面に随時立たされる。


「しょうがない。頑張ろって使ってみよう」


 MEN(精神力)とDEX(器用さ)が高いことを信じることにしたグリムは、気持ちを切り替えるとその足で森に潜むモンスターを探す。

 できればスライムがいいんだけど全然見つからない。

 こんな時に現れてくれないなんて、と落胆していると急に草むらがガサガサと揺れ出した。


「な、何かいる?」


 もしかしたら雰囲気を見兼ねてスライムが飛び出してくるのかもしれない。

 大鎌を両手で構えて待っていると、草むらの中から何か飛び出す。


「やっと出てしてくれた……す、スライムじゃない!?」


 一瞬スライムだと期待していた。

 しかし出て来たのは全く違う。むしろもっと凶悪そうな狼だった。


「ガルルゥ!」


 白い牙を剥き出しにしていた。赤い舌も伸ばしている。

 小柄な体格だが、全身には薄汚れた灰色の毛がビッシリと生え揃っていた。

 かなり飢えているのか、油断していたグリム目掛けて飛び掛かる。


「そんなの聞いてないって!」


 グリムは突然のことにもたついてしまう。

 後ろに後退しようとすると、足が絡まってしまった。

 右足と左足がクロスして、転びそうになった。


(ヤバっ!?)


 グリムはそう思いつつも、そこから体勢を立て直す余裕があった。しかしダメだった。

 体勢を上手く立て直そうとすると上半身が前のめりになる。すると灰色の狼、グレーウルフの思う壺だ。

 攻撃までの射程距離が近付いて、簡単にガブリ。噛みつかれて悲惨な目に遭うのは目に見えていた。


 なのでここは体勢を立て直さない。

 わざと転んで、そこから急いで立ち上がり攻撃する。そう思ったのも束の間だった。


 ゴツン!


 大鎌のリーチの長い柄の部分が先に地面に着いた。

 そのせいでお尻が地面に着くよりも早くバランスを崩してしまう。


「嘘でしょ。はっ!」


 顔を上げたグリム。ふざけんなっ、とか思っている暇もなくグレーウルフの牙がついそこまで近付いていた。

 このままじゃ噛まれる。グリムは足掻きを見せようと、大鎌を振り上げた。するとグレーウルフが飛び込んでくる前に大鎌の刃がグレーウルフの胴体を切り裂いていた。


「キャウン!」


 グレーウルフの可愛らしい悲鳴が聴こえる。

 何事かと思い見てみると、グレーウルフのHPがゴッソリ削れていた。

 地面に倒れ込むと、震える脚で立ち上がろうとする。

 しかし何が怖いのか、グリムのことを見たまま動かない。


「なんで動かないの? それになんで……」


 ダメージが入っていた。

 グリムは信じられない。なにせ〈死神の大鎌〉は〈死神〉シリーズ。呪いのアイテムの中でもハズレの部類で攻撃力は無い。にもかかわらずダメージがあった。こんなの以上だ。


「もしかしてバグ?」


 詳細が分からないままだったが、とりあえず勝てそうではあった。

 弱っているところ悪いと思いつつも、反撃される前にグリムは大鎌を突き付けて、グレーウルフを倒す。

 HPが空になり、粒子となって消滅。

 経験値に変わって、気が付けばレベルがまた一つ上がっていた。


「本当になんだったんだろ」


 グリムは自分の身に何が起きているのか分からない。

 だけど攻撃もできないような雑魚装備がグレーウルフに勝ってしまうなんて奇跡の産物? とか、未だに思ってしまった。







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【ステータス】


■グリム 

性別:女

LV:3

HP:60/60

MP:30/30


STR(筋力):31

INT(知力):29

VIT(生命力):29

MEN(精神力):108

AGI(敏捷性):30

DEX(器用さ):65

LUK(運):35


装備(武具)

メイン1:〈死神の大鎌〉ATK:−X

メイン2:


装備(防具)

頭:

体:〈死神のシャツ〉〈死神の外套〉DEF:−X

腕:

足:〈死神のレギンス〉DEF:−X

靴:〈死神のブーツ〉DEF:−X

装飾品:〈死神のネックレス〉ステータス:−X


スキル(魔法を含む)

【精神相殺】【観察眼】【看破】


ユニークスキル

【マイナス固定】

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