第10話 PCO公式配信1

 その日、動画投稿サイトμTubeは盛り上がっていた。

 不定期で始まるチャンネルの公式生放送がスタートしたのだ。

 まだ始まって数分。待機画面状態の中、たくさんの視聴者が心待ちにしていた。



ファルコ11:公式配信待ってた!


メソッド202:今週は誰が出るのかな?


アイさん推し:アイさんが良いです!


涙ルルカ:私はナミダさんを待ってます!


名無しの7時:どうせ今週の注目プレイヤーだろ?


サラダ油三助:注目プレイヤーになりたいぜ!


羅針盤:公式の推しになったらずっと出れるよね


メトロロローム:ファイアさん、やっぱ今週も紹介されるのかな


期待の新星:そろそろ新しい人、紹介されないかな?


羅針盤:いつか公式に呼ばれたりして?


サラダ油三助:おっ、始まる!



 視聴者はかなり集まっていた。

 そんな中、公式放送が始まった。


「PCO公式放送をご視聴の皆様こんにちは。ナビゲーターのアイです」

「同じくナビゲーターのナミダ」

「今週もPCO内で起きた、注目のプレイヤーを観ていきたいと思います。それから、放送の最後には次回開催されるイベントについても、軽くご紹介させて頂きますね。それでは、まずはこのコーナーから!」


 ナビゲーターのアイとナミダはカメラの前でいつもの調子を保っていた。

 笑みを浮かべるアイと無表情のナミダ。

 二人のアンバランスな組み合わせも、もう慣れっ子になっている。


「それではまずはこちらの方。もうお馴染みですよね、今週も活躍してくれました」

「ファイア。また出てる」


 画面上に映し出されたのは真っ赤な髪をした男性プレイヤー。

 いわゆるイケメンと呼ばれる顔立ちをしていて、武器は剣。

 炎を操り、今週も強敵とされるモンスターを撃破する強豪プレイヤーだった。


「おっ、サラマンダーを倒してる」

「そうだね。サラマンダーは火山エリアに出没することの多い、巨大な炎はトカゲモンスター。一見すると相性は悪いけど、はいここ!」

「跳んだ!」


 映像にはファイアが地面を強く蹴るシーンがアップにされる。

 空中を蹴り、全身を使ってサラマンダーを切り付ける。

 背中から漏れ出している炎を顧みず、力強い活躍を見せた。


「流石に強い」

「レベルもかなり高いと思うよ」


 サラマンダー自体がかなりレベルが高いモンスターだ。

 そんなモンスター相手に、ソロでこれだけ渡り合えるのも、本人のレベルの高さと技術が融合した賜物だった。


「次のプレイヤーを観てみましょう。えーっと、ブリザードさんですね」

「ファイアと双璧を成す」


 今度は青い髪を腰までたなびかせる女性だった。

 双剣を装備しており、華奢な体格を活かした軽やかな動きでモンスターを仕留めに行く。


「まさにクールビューティーだよね」

「クール? ビューティー?」

「ナミダと同じ」

「私と? うーん、全然似てないけど」

「そういう意味じゃなくてね。えーっと、向かい合っているのは、アイススピナーかな?」


 目の前には巨大なセンザンコウのようなモンスター。背中には氷の棘を生やしている。

 あまりにもイカつくて、普通ならビビってしまう所を、ブリザードはジャンプするのと同時に回転しながら棘の合間に双剣を叩き付けた。


 アイススピナーは悲鳴を上げた。

 まるで氷河を内側から破壊するようなキツい叫びだった。


 しかしブリザードは一切動じない。

 双剣をそこからより深く差し込むと、棘を利用して攻撃が当たらない位置から双剣を流し込む。

 アイススピナーは地獄を味わっていた。


「いつ見ても、恐ろしいよね」

「うん。でも、それも一つの戦略」

「だけどこれができるのは【アクロバティック】のスキルと元から備わっている俊敏性と器用さがものを言うから、まさしくブリザードさんらしい戦い方だね」


 アイとナミダは称賛していた。

 その間に映像は終わってしまい、ブリザードの圧倒的な勝利に終わった。


「さてと、それでは……ん?」

「このプレイヤー……」


 表示されたのは、四つん這いになって落胆している女性。

 白い髪、赤い目、そして全身黒ずくめで、明らかに普通ではない。

 しかも態度からしても、何かやってしまったらしい。


「もしかして呪いのアイテムを拾っちゃったのかな?」

「レアだけど、アレは扱いが難しい」


 公式が懸念するようなアイテムだった。

 それを手にしてしまったということは、何を意味しているのか、誰が見ても明らかでドンマイとしか言いようがない。

 しかし救いがないわけではない。

 もしもの話ではあるが、呪いのアイテムにはその先があることを知っている。


「でも、もしも呪いのアイテムと相性が良かったら……」

「誰にも止められない、最強であり最凶のプレイヤーにもなれる……かも?」


 アイとナミダは期待をしていた。

 今の今まで現れていない呪いのアイテムの使い道。果たしてその方法に辿り着けているのか? 見ものな様子で、目をキラキラさせていた。



アイさん推し:アイさんもナミダさんも楽しいそう!


エタノール:呪いのアイテムてw


ぬるりあ:かわいそうです


羅針盤:でもこれは推される予感?



 コメント欄も盛り上がっている。

 それを見越したのか、アイとナミダは話を勧める。

 注目プレイヤーに関してはこのくらいにして、今度始まるイベントに付いての紹介だった。


「そろそろイベントの紹介をしようと思います」

「イベント、何やるの?」

「今回のイベントはね、かなりシンプルだよ。イベントに参加表明を示しているプレイヤーを倒せばポイントが入るの。一人倒せば1ポイント。自分よりもレベルの高いプレイヤーなら5ポイント! 勝ち抜き戦で、一番ポイントの多い日が優勝。期間は最大一週間。準備中だから、楽しみに待っておいてね!」

「それじゃあこのくらいで」

「「またね!」」


 アイとナミダはイベントを紹介した。

 まだ詳細は決まっていないけれど、なんだかバトルな予感。

 視聴者達は大いに盛り上がり、公式放送はそのまま幕を閉じるのだった。



 

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