第6話
あれから数日、僕たちは毎朝ギルドの前で待ち合わせしては狩りに出かけていった。
素材の買取で少しずつ余裕も出てきた僕は、リーネのアドバイスもあって軽い軽鎧と大きめの鉄の盾を購入した。せめて自分だけは守れないとね。幸いレベルは15となりそれなりに力も強くなったから大きな盾も振り回すこともできる。
軽鎧は軽鉄という鉄に混ぜ物をしたもので、軽いが鉄ほど固くはないのでもろい。だけど動きやすいので気に入っている。鉄の盾はそれなりに重いけどなんとか振り回せるのでこれでウルフ程度ならビビる必要はなくなった。
実際、昨日はウルフ5匹に囲まれつるも無事討伐することができた。まあ討伐したのはリーネだけどね。
それでもレベルが15になった時、遂に『攫う』が『超攫う』にスキルアップしたのだ。それによってリーネが無造作にばらまいた水を操作して、ウルフの顔目掛けてザバンとぶっかけるほどに能力アップしていた。
リーネが「アレンが手伝ってくれるとウルフの群れだって安心して狩れる!」と喜んでくれたのが何よりも嬉しかった。
◆◇◆◇◆
ある日の朝、出発前にギルド前のベンチで少し今後の予定の話になった。
「そろそろDランクの魔物も狩れそうじゃない?」
「Dランク……ここら辺ならコボルトになるのかな?大丈夫かな?」
僕は悩んでいた。もちろん無事倒せるかという問題もある。それよりも、Dランクの魔物を狩り終わったら……このパーティは終わってしまうのでは……そんな危機感の方が強かった。
「あのさ……聞いときたいことがあったんだ……」
「なーに?アレス」
僕はその次の言葉を中々言い出せずにいた。でもそんな僕を心配そうにしながらも待ってくれるリーネ。
「Dランクの魔物を狩ることができたら……もう、パーティは解散、なのかな?」
「えっ?」
僕の言葉に驚いたような顔をしたリーネ。すぐにその顔は泣きそうになっていた。
「アレスは、そんなこと考えてたの?」
「いや、その……うん」
リーネが悔しそうに歯を食いしばっている。大事なリーネを悲しませてしまった僕は泣きそうになってしまう。
「私を、捨てるんだね……」
「そんなことしないよ!」
「だって……」
「僕は、ドブ攫いだよ?リーネは勇者だ。結果を出せば……さらに上へと行くんだろ?」
また沈黙が訪れる。
そしてリーネは目元を袖でぐっと拭うとこちらをキッと睨みつけた。
「絶対に!逃がさないから!」
「えっ?」
「私はアレスと一緒に!英雄になってやるんだからね!」
「ええっ!」
「私を嫌いになったら言ってね!絶対にはなさないけど!私がこの国の、ううん、この世界の一番になって、そしてアレスのお嫁さんになる!」
「はうっ……」
僕は何を宣言されているのだろうか……情けなくも心がキュンキュンと踊ってしまっている。
そしてチラリと周りを見渡すと、こちらをチラチラ横目でうかがっている近所に住んでいるであろう人、笑いをこらえている冒険者の女性、なぜかギリギリと歯を食いしばっているガリガリの商人風おじさん。
その他さまざまな目にさらされていることに気づいてその恥ずかしさに……
リーネの手を掴んでいつもの森まで走り出していた。
「ちょっと、アレス、どうしたの?止まって?ねえ、なんでこんな走ってるの?」
途中からそんな声が聞こえてはいたが、僕はそれでも足は止めなかった。どうせ僕より高いステータスのリーネにしたら大したスピードは出てないし大丈夫、そう思って全力で走ってしまったのだ。
「はあ。はあ。も、もうだめ……」
「どうしたのよアレス!ちゃんと説明して!ねえ、ちょっと……そんなところで寝ころばないで?ねえ、ねえってば……」
僕は全速力で、しかも僕より力が強いリーネを強引に引っ張ってきたことで心臓は爆発するかと思うぐらいバクバクとしていたので、地面へごろんと寝転がった。
目線には覗き込むリーネの顔が……可愛い顔がある。
「リ、リーネ。ちょっと、ちょっとまって、ね……」
「う、うん。いいけど」
僕は呼吸を整えるのに必死になっている中、リーネは寝転ぶ僕のすぐ横にの地面に、ポケットから取り出したハンカチをひいて座る。
そして少し落ち着いた僕は、ゆっくりとリーネにその思いを伝えた。
「僕は、いや僕も……ずっとリーネと一緒にいたい、です」
その声に返事は聞こえてこない。
「僕は、まだ君に自信を持って気持ちを伝えるほど、強くはないけど……好き、です」
「ひゃ」
小さく悲鳴が聞こえた。これは……早とちりだったかな?少なからずリーネも僕に好意を持ってくれていたと思ってたのに……まさか悲鳴が返ってくるとは……
そう思いながらリーネの方に顔を向けると、真っ赤な顔のリーネがこちらを見ていた。きっと僕も同じように顔が真っ赤だろう。どういう……感じなのかな?嬉しくて照れてるって思ってもいいのかな?
「私も……好き」
「ひゅっ」
ああそうか分かった。こんな感じか。心臓が止まる恐怖に悲鳴が出るシステムを初めて理解した。
僕はゆっくりと深呼吸して、体を起こした。
横に座っているリーネと目線があう。
恥ずかしい。今は目線を合わせることの難易度がかなり高い。これは……Sランクの依頼だろうきっと。でも僕はこの依頼を勇気をもってクリアしなくてはならない!
そう思って心臓を右手でどんと叩く。一瞬本当に心臓が止まりそうになってびっくりした。
「大丈夫アレス!」
「あ、ごめんごめん。ちょっと心臓が止まりそうになっただけだから」
「何それ安心できないよ!」
「大丈夫!きっと……」
再び深呼吸。まったく治まらない心臓に心の中で悪態をつきながらも、僕はリーネを再び見つめる。
「リーネ。僕は初めてあった時から惹かれてました。好きです。その、良かったら末永く……付き合ってください!」
「ひゃい……よろこんで……」
そして僕は、僕とリーネは……
お互い真っ赤な顔を近づけて……鳥がエサをついばむような、チョンっと軽く触る程度のキスをした。
◆◇◆◇◆
それから数日後、僕らは難なくDランクのコボルトを数体倒すことに成功する。
あまりにあっけなく終わったのでしばらくはコボルトを狩り続けた。レベルはどんどん上がり、僕はどんどん生活が楽になっていく。そして遂に一軒家を借りることになる。月金貨3枚程度の小さな家……
もちろんリーネと二人で暮らすための家だ。
勘違いしないでほしい。まだ15才、いや最近16才になった僕らにエッチなことは何ひとつない。ほんとだよ?たまにチューして愛を囁き合ったりする程度だ。それぐらいはいいよね?恋人同士だし。
リーネが勇者学園に通う時には従者として登録した僕も付き従い、身の回りの世話に従事した。これでリーネの忘れ物や落とし物については問題なし。転びそうになったらリーネのすぐそばに従えている水人形が支えてくれる。
水人形って何って?
僕がレベル30になった時『超攫う』が『真攫う』になってからできるようになった奴だ。人の形を思い浮かべてリーネの水魔法を操作すると、50センチぐらいの人形のようなものができるようになった。
リーネを支えるという思いを籠めることで常にリーネに付き従い、転びそうになったら支えてくれる頼れる奴だ。
僕の少ない魔力でも、半分程度を注げば3日は動いてくれる。
だから3体ほど作ってリーネの周りに配置している。
悩みのタネと言えばその水人形を僕以上に可愛がっている節が見えることだ。なんか嫉妬しちゃう……
僕たち二人は、すでにBランクのトロールなんかを倒している上級パーティとして名前が売れてしまっていた。
そんなこともあり学園の中でもギルドの方でも、リーナや僕を取り込もうと寄ってくる輩もいたが、そこは僕のそばにいるドブ人形が嫌がらせのドブを飛ばすのでいつも最後には怒って離れていった。
僕とリーナの周りにはそんな輩は必要ないのだ。
これからも二人で仲良く……
いずれは魔王を倒す英雄になって……
そんな二人の冒険譚はこれからもまだまだ続くのだ。
「アレス!だーい好き!」
「僕もリーネが大好き!愛してるよ!」
二人の愛よ永遠に……
最弱のドブ攫いが落ちこぼれ勇者と恋に落ちて成り上がるまで 安ころもっち @an_koromochi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます